日常:始まり4
『技術科と特科の抗争か?!全面対決の予兆!?』
壁の掲示物の見出しに大きく目立つように書かれた頭の悪そうな文字列を見て、ソウ自分の感情が速やかに薄れていくのを感じた。
「なんじゃこりゃ」
思わずつぶやく。
「フッフッフ、我ながらいい出来だろ、少年!」
「うわっ!!」
突如後ろに現れた人物からの声にソウは大袈裟に驚いた。
その人物を確認すると大きくため息をついた。
「なんだこれは」
人さし指を折り曲げ、第一関節の部分でノックするように壁に張られた物を叩く。
「いい出来だろ?」
褒められるのを待つ幼子のように目をキラキラと輝かせ、ソウの言葉を待つ。
「あ、あぁ、よく出来てると思うよ」
そんなアヤの様子に気圧され、言いたかった言葉を飲み込んだ。
ソウの言葉に満足したのか、両手を腰に当て胸を張り、誇らしそうにしている。
「これ、一人でつくってんすか?」
一応先輩であるため、雑に敬語を使う。
特に興味は無かったが、何となく聞いてみる。
壁の新聞の作りは丁寧で、かなり見やすい、更には目を引くように派手に見せるアクセントもつけている。
「リリィに手伝ってもらった!」
何故か先程より自信満々だった。
「あ、やっぱり」
この、ノリと勢いで生きている生物がこのような繊細な作業ができるとはとても思わなかった。
手伝ってもらったというより、手伝わされたのだろう。
わちゃわちゃと口を出す一方と、その勢いにのまれ
作業を手伝ってしまう一方、騒がしそうにしながらも楽しげに作っているのだろうと、普段の2人を見ていれば容易に想像がつく。
きっとそれは微笑ましい光景なのだろう、
この作っているものの中身をしらなければだが。
ソウは改めて記事の内容を読む。
「煽りまくってんな」
率直な感想を伝える。
「これぞゴシップだ!」
「あ、ゴシップ書いてる自覚はあるのか」
アヤはソウの言葉にニヤリと意味深に笑った。
僅かな間が空いたあと、アヤは何かを思い出したのか、ハッとした表情を浮かべる。
「は!こんなところで、お前なんかと呑気にしゃべってる場合ではなかった!!」
「ヒデェ言われようだ」
最早訂正する気にもなれなかった。
「じゃあな少年!」
アヤは、そう言うと脱兎の如く走り出す。
廊下を走らないというルールは彼方に忘れ去っているようだ。
「元気だなぁ」
その背中を見送りながら思わず呟く。
その姿を見えなくなるまで見ていた。
次の瞬間背後に何やら気配を感じ、振り向く。
と、そこにはいつも無表情な生徒会の少女が、息を僅かに乱し、立っていた。
「えーと、リア先輩でしたっけ」
何とか名前を思い出しながら、声をかけてみる。
ソウの言葉にリアは少し、眉を上げる。
わずかな表情変化であるが、驚きの表情であるようだど、気がつく。
「ほとんど会話もしたことない目上の人間に対して、いきなりファーストネームですか」
リヤは驚いた理由を淡々と口にする。
「ああ、名前それしか知らんもんで」
「聞けばいいだけでしょう」
どうやら呆れているようだ。
「常識のある方だと思っていたのですが」
その言葉にソウは誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
「すんません。そういうの疎いもんで、今後気をつけます。」
素直に謝るソウに、このことをこれ以上言及するつもりはなかった。
「リアで結構ですよ」
そう締めくくった。
その言葉にソウはそっか、とだけ言って、微笑んだ。
「んで、用件は?」
話を切り替えるソウにリアはまた眉を少し上げる。
「無駄話するために、俺の背後にいたわけじゃないでしょ?」
その言葉にリヤは眉間にしわを寄せ、明らかな疲労の色を見せた。
その大きな表情変化に驚く。
「この掲示物を貼った人物を探しているのですが…」
想像通りの目的に苦笑いする。
「とっくに逃げてったよ」
そう言いながら逃走ルートの方を指差す。
その指の先を見て、リア肩を落としは大きくため息をついた。
「生徒会も煩わされてるのかあの女」
「はい」
リアは言葉だけで肯定を表す。
「貴方がたにも煩わされていますが」
釘を差すようにボソッと付け加える。
「俺はいつも巻き込まれているだけだ」
そう毎回言っているが、信じられているかは怪しい。
悪くなっていく気配を感じる。
「…なに、生徒会ってそんなに人手がたんないの?」
空気を変えるため僅かに感じた疑問をぶつける。
「…ええ、まあ」
ソウの言葉にリアは歯切れ悪く答える。
普段よりも表情の変わるリアにソウは改めて驚いた。
あまり面識は無いが無表情以外見たことが無かった。
「…なんですか?」
そんなソウを訝しむようにリアは見つめる。
「いや、リア先輩も表情かわるのかと…」
つい思った事を口にしてしまった事に後悔を覚える。
その言葉にリアは冷徹な表情に戻る。いつもと変わらなく見えるが、明らかに怒りを覚えていることは分かった。
「私が機械や人形に見えますか」
見えない刃を刺すような言葉がソウを通り抜ける。
この言葉には目の前の先輩の思いが込められている。
ソウは何も言わず、見つめ返す。その表情に誤魔化しは無かった。
交差する視線。
穏やかに、ゆくっりとソウは口を開く。
「人間にしか見えません」
そう言い切った。
ソウの言葉と様子に、リアの感情は落ち着いたようだった。
「失礼しました」
素直に頭を下げる。
「いえ」
リアはそれだけ返した。
「とりあえず行きます」
彼女はいつもの無表情に戻っていた。
「お忙しそうで」
それには皮肉が混じっていたが、リアは気にしていなかった。
「誰かさん達のおかげで…ね」
そう言ったリアの顔はきっとソウ以外からは見えないだろう。
呆けているソウを放置し、流れるように去っていく。
隠密行動でもしているかのような動きを見ながら、先ほどのアヤの時と同じ方向を同じように見送る。
不毛な鬼ごっこだ。ぼんやりとそんなことを思いついた。
流石にこんな何もない廊下で時間を使いすぎたと思いこの場を立ち去ろうとする。
が、見慣れた後ろ姿が、ある事に気がつく。
その人物はブツブツと何か言いながら真剣に壁に貼られたゴシップ記事を読んでいる。
嫌な予感が溢れ出してきて止まらない。
気配を消し、何事もなかった様に通り過ぎようとする。
次の瞬間思い切り腕をつかまえられた。
距離を取ったはずだったが、一瞬で間を詰められた能だ。
「……何」
自分ができる限りの表現できる表情と声で嫌悪感を伝える。
そんな様子を気にもとめず、その人物は不敵に笑ってみせる。
腕も解放される様子がない。
「面白そう!」
水を得た魚のような目をし、勢いよく記事を指さすフェリスにこれから起こるであろう出来事が流れるように浮かんで来る。
そしてそれが回避不可能であることもだ。
「行くわよ!!」
どこに?という疑問は伝えるだけ無駄だった。
半分引きずられる様にソウは渋々とついていくのだった。




