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ねえ、旦那様

作者: 下菊みこと

「ねえ、旦那様」


「…」


「私結局、貴方にとってはお邪魔虫だったんでしょうね」


「そんなことはない」


「でも貴方、私の妹が好きだったでしょう」


彼は黙り込む。


嘘でも否定してくれればいいのに、酷い人。


「でもお生憎様。妹は昔から婚約者とラブラブだったし、今は幸せな新婚生活の真っ最中よ。惚気の手紙が届くほどなのよ?」


「そうか。幸せそうで良かった」


ムカつく。


なにこいつ。


でも、そんな貴方が好きだなんて私もバカよね。


「なあ、君と結婚したこと…俺は後悔してないよ」


「そう」


「可愛い息子にも恵まれたし、三つ子の娘も頑張って産んでくれたし」


「そうね。子供達は本当に可愛い。健康に生まれてくれて、元気に育ってくれてる。性格も良い子たちばかりだから、きっと全員幸せになるわ」


「そうだな。だから…治療を受けないか」


私は残念ながら、ほぼ不治の病と言って差し支えない病気になった。


叶わぬ恋を抱えたものが、ガラス片…に似た何かを吐くようになる病気。


ガラス片だから当然身体を傷つける。


だから遅かれ早かれいつかは確実に死ぬ。


治療法はひとつだけ。


叶わぬ恋を叶えること。叶えば、身体の中のガラス片に似た何かは溶けて消える。


はい、無理。


「治療って貴方、貴方が私を好きになるほかないのよ?無理でしょ」


「出来る」


「無理よ」


「…おいて逝かないでくれ、頼む」


普段何があっても泣くことなんてない彼が、大粒の涙をこぼした。


「え、は?何泣いてるのよ…大丈夫、貴方には子供達もいるし、ほら、使用人たちもいい人ばかりだわ!領民たちだって貴方を慕ってくれているじゃない。一人じゃないのだから、大丈夫」


「大丈夫じゃない。いやだ、いやだ、お前がいなくなるなんていやだ」


呼び方が君じゃなくてお前に戻ってるし。


幼い頃、お前じゃなくてせめて君って呼んでって言ってからずっと君とか名前呼びとかだったのに。


「ちょっと、どうしたの」


子供のようにイヤイヤして泣きじゃくる図体のデカい男を抱きしめる。


全くもう、急に子供っぽくなるんだから。


「俺はお前がいなくちゃダメだ」


「またそんなこと言って…」


「お前の優しさや愛情に胡座をかいていた」


…まあ、それは知っている。


「お前はなにをしても俺から離れていかないって知ってたから。知ってたつもりだったから、こんなつもりじゃなかった。死なないで。ずっと俺と居てくれ。今度こそ大切にする。もう一度だけチャンスをくれ」


「なんで今になって…」


「お前は俺に愛情をくれた。優しさをくれた。子供達を産んでくれたし、今日まで色々な面で俺を支えてくれた。お前以外と今更どうこうなる気もない。なぁ、遅すぎてごめん。でも俺、お前がいなくちゃ無理。無理だよ…愛してるっていうにはお粗末な感情かもしれないけど、俺…お前のことが大事なんだ。ごめん、今更ごめん…でも好きだよ」


なんて男だろう。


甘ったれるのもいい加減にしてほしい。


こんな男に絆される私は、本当にどうかしている。


「…治療は必要ないわ」


「やだ!頼むから治療を受けてくれ!」


「もう治療の必要がないの」


「いやだいやだいやだ!」


「子供みたいに駄々を捏ねるのもいいけど、ちゃんと聞いて。本当にもう治療は必要ないわ。多分治ったもの」


きょとんとする彼に笑う。


「貴方があんまりにも駄々を捏ねるから、今更好きなんていうから…絆されちゃったのね。痛かった身体の中が、急に少し楽になったの。それでもめちゃくちゃ痛いんだけど、身体のガラス片が溶けた感じがするわ。なんとなく」


「今すぐ医者を呼ぶ!!!」


彼は医者を呼び出して、私は診察を受けた。


結果病気は治ったが身体の中がズタズタなので、治癒の魔術をかけてもらった。


結構なお値段がしたが、私は全回復してこれでもうなにも心配ないらしい。


「よかった、本当によかった!」


「私は別にあのままでもよかったのに。貴方のせいよ」


「ごめん、ありがとう!」


ぎゅっと抱きしめられて、この野郎と思う。


元々貴方が最初からそうやって私を好きになってくれていれば、ここまで拗れなかったのに。


「はい正座」


「え」


「そこに正座!!!」


彼を正座させ、私は優雅に椅子に座って懇々と話をする。


いかに彼が私に甘えていたかの話だ。


今までは色々と諦めていたのでなにも言わなかったが、これから夫婦としてやり直すなら言っておくべきだろう。


「婚約者の妹を好きになるとか、しかもそれを婚約者に悟られるとかなんなのよ。だいたい妹は歳が離れてるのよ。歳の差考えなさいよ」


「ごめん」


「夫婦になってもそれを改善しないとかなによ。最初から私を愛する努力くらいはしなさいよ」


「ごめんなさい」


「子供達を親バカと言えるほど愛してくれるのはいいけど、私にももうちょっとはやく歩み寄れなかったの?」


「申し訳ない」


小一時間ほどお話をし続けて、そうしたらなんだかすごくスッキリした。


「これからは心を入れ替えて私に尽くしなさい」


「そうします」


「夫婦をやり直すんだから、頑張りなさいよ」


「はい」


「私も…これからは何も言わずに抱え込んで尽くすんじゃなくて、ちゃんと嫌なことは嫌って言うわ。あと尽くすだけじゃなくてしっかり愛情を返してもらうから」


「はい、しっかり返します」


私も反省するところは多いから、彼だけが悪いわけでもない。


かといって彼が今まで通りでも困るので、今までのことは猛省してほしい。


夫婦として未熟な私たちだけど、ここからなんとかならないかちょっと頑張ってみようと思う。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました


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あと


美しき妖獣の花嫁となった


【連載版】侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました


酔って幼馴染とやっちゃいました。すごく気持ち良かったのでそのままなし崩しで付き合います。…ヤンデレ?なにそれ?


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