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吸血姫と女王  作者: をた
1/5

序幕

「シキ君?」


 白髪の老人に鈴の音色のような声で尋ねた真っ赤なドレスを着た妖美な女性。


「ローシュ様?...変わらぬ美しさですね。ご無沙汰してます」


 今も昔も変わらず絵画から飛び出してきたような女性に一瞬目を開きそして、皺くちゃな笑顔を向けた。


「ありがとう。いつ振りかしら?50年?前も魅力的だったけど今はもっと素敵よ」


「ハッハッハッ!おやめ下さいな。年甲斐もなくドキドキして逝ってしまうではありませんか。まだ長生きしたいのですよ」


「それはダメよ!そうねぇなら私の眷属になる?それなら私ともっと長くいられるわ!ね?そうしましょう!」


 やや興奮して真っ赤な瞳で訴えてくる美女に苦笑いした老人。


「ハッハッハッ!それはこの上ない申し出ですな」


「でしょ?久しぶりに逢ったのだからもっと」


「ありがたいですがお断りします」


 老人は遮るように穏やかに断った。


「私には娘も息子も孫もいます。されどあなた様の眷属になれば私より早く死んでしまいます。時の流れに身を任せて生きて死にたいのですよ」


「そう...悲しいわね。人間の寿命は100年も生きられないなんて」


 伏し目がちにローシュと呼ばれた吸血姫。

 寿命などない世界でただ1人になってしまった吸血鬼である。


「その代わり、人は繋ぐのです」


「繋ぐ?」


 キョトンしたローシュにシキは笑顔で応える


「ええ。歴史、技術、伝統など守り、向上させ発展させることができるのが人であり、それを繋ぐこともまた人なのですよ」


「素晴らしいわね...人は」


 パッと明るくなったローシュ。


「それで今日はどのようなご用で?」


「そうそう失念していたわ。シキ君との約束を思い出してね」


「はて?約束とは?」


 首を傾げたシキ。


「お忘れ?何か困ったら私を尋ねてって言ったのに訪れないのだもの少しお昼寝したら今になったのよ」


 ぷりぷりと不貞腐れたように言うローシュ。


「それはローシュ様が場所を教えてくださらずいなくなってしまったではありませんか?」


「...そうだったかしら?」


 ジト目がちなシキ。左右に揺れる瞳のローシュ。


「そ、そうだったかしら?でも今私はここにいるわ!あなたの願いは叶えてられるわ!あなたは私の大切な友ですもの!」


 謎理論展開に謎の自信。姿も仕草も変わらない微笑みながらシキは少し考えた後


「王位は息子に譲りました。そして今は国も安定しており、見ての通り私は隠居の身。妻も長女を産んだ後亡くなりましたが今でも愛しております故、後妻もいません。孫の成長を見守ることが生き甲斐ですので特に困った事はありません」


「そう?じゃあこれを渡しておくわ。」


 人差し指をピンと天に向けると小さな赫い石が出現した。それを渡す。


「これを握り締めて私の名前を念じれば駆けつけるわ凄いでしょ?なにかあれば呼びなさい!」


 細い腰に両手を当て豊満な胸を前に突き出してふんすっ!と音が鳴りそうな程胸を張った。


「ありがとうございますローシュ様。これは私のみですか?」


 石を太陽にかざしながらシキは問うた。


「そうね。シキ君だけと言いたいけどあなたの一族までなら良いわよ」


「ならそう伝えておきます。私は今のところ使う機会はなさそうなので」


「本当はあなたに使って欲しいのでけれどもそんな表情はなさそうね!これまで何があったか私が眠っている間の事を教えてちょうだい」


 少し寂しそうに

 しかし話を変えたローシュ。


「ええ。お茶でも飲みながら」


「そうね」


 ローシュとシキがこれまでの話や2人が出会った頃の昔話に花が咲いた。




「あっという間だったけどシキ君と話せてよかったわ。これ以上あなたを独り占めしたらいけないわね。そろそろ帰るわね」


「ええまた」


 ローシュは手を振り帰路へ向かった。

 別れた後ローシュは天を眺め掠れた声で。


「もうあなたに時間はないのに無理して...あなたの優しさは忘れないわ」


 その数日後


 シキは空に旅立った。



 それから1500年後、少女が赫い石に念じるまでローシュは眠り続けた。




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