73 良い御身分ですなぁっ!
プールではしゃいだり天梨の悩みを打ち明けられたりした翌日、昨日の楽しさが夢だったかと思える哀愁を胸に今日も仕事に励んだ。
午後10時……今まぶたを1秒以上閉じたら、そのまま開かなくなりそうなくらいしんどい……。
「おう。今日はまた死相がくっきりと浮かんでますなぁ」
「死相って……まぁ不在が4件あったからな」
「うわぁ」
先に戻っていた三弥にこうなった理由を簡潔に語ると、お気の毒な眼差しを向けられた。
配送業をやっていれば不在は別段珍しいわけじゃないんだが、出来れば起きて欲しくないことでもある。
まず単純にやるせない。
荷物を配達しに行ったら『中に誰もいませんよ』なんて、肩透かしを喰らって項垂れる思いだ。
そして次の配送へ向かっている途中で不在届を見た客から、仕事用のスマホに電話が送られる仕様になっている。
だがその実態は宅配員のとんぼ返りを意味するのだ。
近くだったらまだしも、不在届を置いた住所から離れた場所へ移動中の場合はどうしても顔が引き攣るのを抑えられない。
それでも行かなければいけないのが配送業者の辛い所で、後に行くはずだった配達の時間も押してしまうのである。
最近は駅に専用のロッカーやポストを作ったりして、不在の荷物を運ぶ負担を減らす試みがなされているが、ウミネコ運送ではまだ実装段階に踏み切っていないらしい。
ちくせう。
ともあれ、そんな事情があるので不在届は出来れば出したくないし、起きて欲しくないことなのだ。
お願いだからどの日に荷物が来るのか覚えておいて下さい……そう切に願わずにいられない日々です。
「4件も不在とか拷問じゃねぇか」
「あぁ、特に最後の1件なんて『なんで家にいる時に来なかったんだ』とか苦情をぶつけられた。理不尽過ぎる」
「なら家にいる時の時間を指定して荷物を頼んでくれよ、としか思わねぇよなぁ」
ホントそれな。
同意も兼ねたため息を吐く。
早くこの疲れを無くしたいところではあるが、生憎と次にあまなちゃんと会える日までまだ2日もある。
冗談抜きにあの子と会える週2日が生き甲斐だから、そこを基準に生活習慣が出来上がっていた。
ジャ〇プを毎週読む読者とかアニメを欠かさず見るファンと変わらないはずなのに、対象が小学生ってだけで天地の差がある気がするのは気のせいだよな?
「まっ、昨日人妻と幼女達とプールに行った反動だろうから諦めな」
「言い方。なんでそんな犯罪感が増すようなことを言うんだ?」
「べっつにぃ~? 美人としか聞いてないあまなちゃんの母親と遊ぶなんて羨ましいとか、これぽっっっっちも考えてませんがぁ~?」
いや絶対それが理由だろ。
確かに皆で行ったプールは楽しかったが、そんな嫉妬をされてどうしろと。
自分も誘ってくれればってことか?
お前、昨日も仕事だったから無理に決まってるだろ。
「もう、嫉妬なんてみっともないわよ」
「茉央、お疲れさん」
「茉央ちゃぁ~ん! オレ、和が羨ましいよ~!!」
「ちゃん付けしないで。2人共お疲れ様」
話声が聞こえたのか、やって来た茉央に挨拶をする。
相変わらず三弥の言動はスルーだが、内容が嫉妬に満ちているせいであまり憐れみを感じない。
「茉央、昨日は悪かったな」
「その話はいいわよ。私もみっともない真似しちゃったのに皆よくしてくれたし、埋め合わせもしてくれるんでしょ?」
「あぁ。約束は守るよ」
プールでまさかの乱入をかました茉央だが、天梨をナンパから助けている間にはすみちゃん達とも打ち解けたようで、戻った時には楽しそうに泳いでいた。
特にちゆりちゃんから尊敬の眼差しを向けられていたことが印象深い。
あの子、天梨や黒音にも同じ視線を向けたりしていたから、綺麗な女性そのものに憧れているんだろう。
顔立ちは整っているし勉強も出来るから可能性は高いだろうけど……ドジっ子なのがなぁ……。
そこがちゆりちゃんの魅力でもあるんだが、人によって一長一短だし中々評価し辛い。
まぁ応援はしていくこととして、茉央には天梨をナンパから早期に助ける切っ掛けをもらった例として、今度の休日……来週の夏祭りに付き合うことになった。
泊まりに来ている黒音は友達と行くって言ってたし、予定もなかったから即了承したらめちゃくちゃ喜ばれたのはちょっと驚いたものだ。
「え、ちょっと待って。和は昨日あまなちゃん達とプールに行ってたのに、茉央ちゃんとどっか行ってたの?」
「あぁ、カズ君がプールに行くって知った時に場所を聞いておいたの。それで当日に会えたらラッキー程度に行ったら……」
「茉央と会ったってこと。あまなちゃんと黒音と面識はあったから、他の皆ともすぐに打ち解けたんだ」
事情を知らない三弥に茉央と揃って説明するが、聞かされた本人は目を丸くして数秒くらい呆けた後に……。
「はあああぁぁぁぁっ!? なんだそれ!? オレがひぃこら言って働いてる内に、なんでプールで楽しんでんだよ!?」
仲間外れなんて心外だと言わんばかりに喚き出した。
大の大人がみっともねぇ……って、週2で幼女に癒されてる俺が言えたことじゃないか。
でも流石にここまで醜い嫉妬をしたことはないけどな。
「別にお前だけが働いてたわけじゃないんだが……」
「だまらっしゃい!! 子供達はともかく、茉央ちゃんとあまなちゃんの母親とプールで遊んでたやつに正論を説かれたくねぇわ!!」
正論を説かれてる自覚あるのかよ。
語るに落ちるというか、それを言っちゃその愚痴は聞く価値無いよな。
内心、呆れるこちらの心情を他所に三弥はみっともない怨嗟を続ける。
「大体さり気なく黒音ちゃんも一緒だったとか信じらねぇわ! あのおっぱいの水着姿見たかった!」
おい。
「率直に言って最低ね」
「人の妹の体目当てな点と、それをよりにもよって兄と女の前で言う辺りがもうな。だから彼女が出来ないんだよ」
「あ、ごめんなさい、そんな人としてすら見ないような目で見ないで……」
ちょっと看過できない発言をほざくので、軽く睨みながらモテない理由として突き付けた。
兄として妹を不埒な目で見ようなんて見逃せるわけがない。
茉央が同性として冷然とした眼光を向けているのも手伝って、三弥は酷くあっさりと嫉妬を鎮めた。
その様子を見て、天梨とあまり会わせたくないなと密かに考えてしまうのも無理はないだろう。
次回は11月26日に更新します。




