70 あーあ、とうとう出会ってしまったか
黒音視点
「あら、黒音ちゃんじゃない。奇遇ね」
「はえ?」
ウォータースライダーに行ったアニキ達が戻るのを、スマホを弄って待ってたら不意に呼び掛けられて、声の聞こえた方に顔を向ける。
するとそこにはショッピングモールの時に迷子になったあまなちゃんを助けてくれた、アニキの職場の同僚さんの堺さんがいた。
相変わらずキレーだなとか、ちょっとタイミング悪いかもとか色々考えたけど、ひとまず挨拶をすることにしよう。
「こんにちは、堺さん。ホント偶然ですね!」
「ええ本当に。水着、とっても似合って……ぐ」
「ありがとうございます。堺さんのも似合ってますよー」
胸元に向いた視線から羨望が伝わる。
こんなのあっても肩が凝るしやたら見られるしであんまし良い事ないんだけど、それを言ったら反感を買うことくらい分かり切ってるから、何を言わないでおこう。
でもお世辞でもなんでもなく、堺さんの水着姿は似合ってる。
胸がないことを気にしているからか露出は控えめだけど、華奢な体型は色んな服装が似合いそうで羨ましい。
まぁどっちもどっちってことかな。
しっかし……今アニキ達がウォータースライダー行ってて良かったぁ……。
アニキと天梨さんがちょっとでも進展すればって思って荷物番を引き受けたけど、これはちょっと不味い。
堺さんは明確にアニキのことが好きだから、あまなちゃん達が一緒とはいえ天梨さんと来ていることを知られるわけにはいかないよね。
「黒音ちゃん、カズ君は今どこにいるのかしら?」
「うえっ!?」
え、待って堺さん。
なんでそんなアニキがいる前提で尋ねて来るの!?
ビックリして変な声を出しちゃったけど、堺さんは朗らかな笑みを崩さないまま続ける、
「あぁビックリさせちゃってごめんなさい。実はカズ君から今日ここに行くって聞いてたから、私も暇だったしちょっと悪いとは思ったけれどお邪魔させてもらおうかなって」
「あ、そういうことですか……」
アニキがバラしてたんかい!!
いくら堺さんの気持ちに気付いてないからって、自分から修羅場を呼び込むような真似しないでくれる!?
ってことは、あまなちゃん達や天梨さんが一緒だってことも伝わってる可能性高いよね。
うわ、ちょっと待ってこれもう修羅場不可避なんじゃ……いや、天梨さんがアニキを好きって確証はないけど、それでも堺さんが何とも思わないわけないよ。
そこまで考えが追い付いた瞬間……。
「おねーちゃん! ウォータースライダーたのしかった!」
「ぐわーっていってぎゅーんってすべって、さいごはざっぱーんってなったっす!」
「こわかったけど、たのしかったね……」
「あ、アタシはおよぐから、つぎはみんなで行ってきていいわよ!」
「黒音さん、荷物を見て下さってありがとうございます」
「うわちゃ~……」
狙いすましたかのようなタイミングで、天梨さん達が戻って来た。
堺さんの反応をちらりと横目で見てみると、案の定というか天梨さんの美人ぶりに驚いているのが分かる。
こんだけ綺麗なのに結婚してて子持ちとか、高校生のアタシはともかく同年代の堺さんからしたら不公平に思えるかも。
「あ! おねーさん! おひさしぶりです!」
「え? あ、えぇ久しぶり、あまなちゃん……」
面識のあるあまなちゃんが堺さんに気付いて、可愛らしく挨拶をする。
それによって他の子達や天梨さんが彼女へ顔を向けた。
「あなたは……?」
「天梨さん。この人は堺茉央さんっていって、アニキの職場の同僚なんです。ほら、ショッピングモールで迷子になったあまなちゃんを見つけてくれた人ですよ」
「なるほど……私は天那の母親の南天梨です。娘を助けて頂いてありがとうございます」
「い、いえ。カズ君にも同じようにお礼を言われたけれど、私はたまたま通り掛かっただけなんで……」
天梨さんに堺さんを紹介すると、流石あまなちゃんの母親と思える礼儀正しい対応を見せた。
こんな大人になりたいなぁ。
しっかし、修羅場が起きそうとはいえ美人が顔を合わせて会話をしている光景は目立つね~……。
ナンパして来そうな男達が気後れして声を掛けて来ないとか、相当だよこれ。
「おにーさんのどーりょーさん、めっちゃキレーっすね!」
「かっこいい……!」
はすみちゃんとかなちゃんは、堺さんへキラキラとした眼差しを向けている。
如何にも仕事が出来る女って感じだもんねぇ。
憧れるのも無理はない。
「あ、あの!」
「ん?」
そんな微笑ましい気持ちでいると、ちゆりちゃんが顔を赤くして堺さんに声を掛けた。
きっとどうやったらそんな風になれますかー、みたいな質問でもするんだろうなぁ。
ほら、今にも口を開いて──。
「おねーさんって、もしかしてやまとおにーさんのこいびとなの!?」
「ええっ!?」
「──ブッ!?」
ちゆりちゃんの遠慮のない質問に、堺さんは顔を真っ赤にして狼狽した。
ちょっと待って……それ、修羅場の地雷だよ!?
「ど、どうしてそう思ったのかしら……?」
「だって、さっきおねーさんはおにーさんのことを『カズ君』ってよんでいたもの! だったらこいびとなのかなって……」
あ、堺さんちょっと嬉しそう。
好きな人と恋人に思われてるからか。
でもごめんなさいちゆりちゃん……ウチのアニキが鈍感過ぎてつい最近やっと進展したばかりで、まだご期待に沿えるような関係じゃないんだよ……。
「そ、それはあだ名ね? べべ、別に私はカズ君のことは──」
「えー? あ、じゃおにーさんがもどってきたら、おねーさんのことをどう思っているかアタシがきいてきてあげるわ!」
「まま、待って!? 流石にそれはちょっと……」
そして途轍もないありがた迷惑を口に出した。
この子、良い子なんだけど明らかに行動が空回りしてない?!
呆気に取られてどうしたものかと頭を悩ませられる。
一方の堺さんは恥ずかしさで今にも泣きそうな表情だ。
せっかくアニキに会いに来てくれたのに、そんな表情をさせてたら申し訳ない。
そう思ってちゆりちゃんを止めようとすると……。
「智由里ちゃん。堺さんを困らせては、早川さんもいい気分はしませんよ」
「あ、ごめんなさい……」
「う、ううん、大丈夫よ……」
天梨さんがサッと止めた。
けどなんだろう……なんか機嫌が悪い……?
表情は至って平静なはずなのに、どこかそんな雰囲気がした。
「えっと、ありがとうございます」
「いえ。職場の同僚というだけで勘違いで噂をされることは、私も経験がありますので」
「──っ、そ、そうですね……」
お……?
なんか今の天梨さんの言葉、やけに棘が鋭くなかった?
別に自分に言われたわけでもないのに、背中に日差しの暑さとは関係ない冷や汗が流れる気がしたんだけど?
堺さんはというと、癪に障ったように眉間にシワを寄せている。
あー……アニキと交際してるって噂されてたって言ってたもんねぇ~。
話を聞いた限り、自分から千載一遇のチャンスを逃したみたいで、アタシですら何やってんのって思ったし。
気にしてたんだね、堺さん……。
「……それにしても南さんも大変ですよね?」
「何がですか?」
「カズ君がお子さんと仲良しだから、プールに付き合うのも一苦労しているんだなぁと」
「──っ、む、娘は私も早川さんと仲良しでいて欲しいようですから。子供の願いに応えるのは親として当然ですよ」
ヒェ……堺さんが反撃した!?
そのカウンターを受けて天梨さんの笑みが一瞬だけ揺らいだけれど、さも自分は当たり前の行動を取っているだけと返す。
え、ヤダ待ってよ……。
冗談で修羅場って例えてたら、本当に起きてないこれ?
ていうかそれよりも、天梨さんって……。
そんなアタシの動揺や剣呑な雰囲気に押されて何も言えなくなっている子供達を他所に、アニキが戻って来るまで2人は人目も憚らず口論を続けるのだった……。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回は11月17日に更新します。
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