39 幼女が我が家に来ました(親公認)
あまなちゃんを乗せた車を走らせること40分程……車酔い等のトラブルもなく無事に俺が部屋を借りているアパートに着いた。
運転中は退屈じゃないかと思っていたが適度な会話はもちろん、初めて車に乗ったことによる高揚感と好奇心から、目まぐるしく変わっていく外の景色に目を奪われていたのが大きかったのか、道中も楽しそうだったと思う。
駐車場に車を停め、先に降りてからあまなちゃんに怪我をさせないようにゆっくりと降ろす。
「ここにおにーさんのおうちがあるの?」
「あぁ。そっちとは違って広くは無いけどな」
この子と天梨が住んでいるマンションに比べたら、何とも格差を感じずにいられないアパートだ。
それでも7年も過ごしていればここで良かったって思える。
まさに住めば都ってことだ。
とりあえずはあまなちゃんの背負っている荷物を置くために、俺が住んでいる201号室に向かう。
玄関の前で立ち止まり、掛けていた鍵を開けてドアを開いてあまなちゃんを入れる。
「さ、どうぞ」
「はーい、おじゃましまーす!」
元気な挨拶に頬が緩んでいくのが分かる。
今まで三弥かたまに来る妹以外に誰も招いたことのない部屋に、まさかあまなちゃんみたいな幼女が来るとは……。
可能な限り片付けているのが、やはり緊張感を懐いてしまうのは仕方ないだろう。
俺が部屋を借りているアパートの家賃は4万6千円で、間取りは1DKの広さだ。
玄関から入って狭い廊下の突き当り洗面所兼脱衣所があり、そこから浴室に繋がっている。
その手前側はトイレだ。
トイレ横のドアから8畳未満の広さがあるダイニングキッチンに行けて、隣には4畳以上の洋室があり、さらに奥はもっぱら洗濯物を干す用途にしか使っていないバルコニーとなっている。
「ふわぁ~!」
部屋を一通り見渡したあまなちゃんは、興奮を隠し切れない様子だ。
というかこの子がいるってだけで、ただ寝るだけの場所だった部屋が住むまでもなく都に匹敵すると思うのは俺だけか?
なんてことを考えていると、あまなちゃんは何故か深呼吸を始めた。
吸って吐いてを繰り返す事3回……こちらへ満面の笑みを向ける。
「おにーさんのニオイがする!」
「え、一応消臭はしてあるけど、臭かったか?」
「ううん。あまな、おにーさんのニオイすきだからきにならないよ」
「ぐふぅ……」
満面の笑みを以って不意打ちで放たれた、微塵も隠さない好意に俺は胸を抑えて蹲る。
どストレートな好きが心を癒したからだ。
でもな、あまなちゃん。
俺はともかく安易に男にそういうこと言っちゃうと、変に勘違いさせちゃうよ。
天梨に似て可愛いんだから、モテることは間違いないだろう。
「おにーさん?」
「だ、大丈夫。とにかく荷物を置こうか」
「うん!」
逸れていた思考を戻して、洋室の空いているスペースにあまなちゃんが背負っていたリュックサックを置く。
ちなみにこの3日間に彼女に寝てもらう場所は俺が普段使っているベッド(洗浄済)である。
俺の方はたまに来る妹用に出していた布団を使うつもりだ。
添い寝なんて高望みはしない。
出来たら最高以外の何物でもないけど、ちゃんと線引きはするべきだろう。
「それじゃあまなちゃん、お母さんから預かってるメモを見せてくれるか?」
「ちょっとまってて……はい!」
「ありがとう」
迎えに行った際に、天梨からあまなちゃんを預かる上での注意事項を書いてあるというメモを取り出してもらう。
小さいクリアファイルに折りたたんで挟まれていたメモを広げて、内容に目を通す。
天梨らしくかなり細かく書かれていたが要点を纏めると……。
①アレルギーは無く、好き嫌いはしないがトマトが少し苦手。
②お風呂は1人で入れる。
③就寝は午後9時から10時、起床は午前6時頃。
④衣類の洗濯物は出来ればしてほしい。
⑤もし体調を崩した時のために、保険証と診察券を持たせている。
⑥午後8時以降に定期連絡をすること。
こんな感じだ。
正直お風呂は助かった……幼女とはいえ女の子と一緒に入るのはまずいしな。
洗濯物に関しても、泊って来た妹のを洗ったことがあるから気にならない。
食事も問題は無い……あるのは俺の方だということを除けば。
天梨と違い俺は自炊をあまりしないため、食べられなくはないけど際立って美味しいわけではないからだ。
果たして、そんな出来の料理モドキをあまなちゃんに出していいのか……。
うん、変に意地を張らずに外食で済ませよう。
そうメモの内容から自分の取るべき行動を結論付けた俺は、ふと時計を見やる。
今の時刻は午前8時半過ぎ……何をするにしてもまだ朝の時間帯では早すぎるだろう。
何をしようか悩むところだが……元よりこうなることは予測済み。
なので、まずは昼飯まで退屈させないようにあまなちゃんがしたいことを尋ねる。
「あまなちゃん。何かしたいことってあるか?」
「え? なにかしていいの?」
「あぁ。なんだって付き合うぞ」
「ん~っと……」
俺に遠慮してか大人しくするつもりだったようだが、せっかく一緒に過ごすのにそんなつまらないことは避けたい。
可能な範囲で遊びに付き合うと保証したことで、やる気になった様子のあまなちゃんは腕を組んで上半身を左右に揺らしながら熟考し始めた。
見てるだけで非常に可愛く、微笑ましくなる……はぁ~可愛い……。
そうやって和んでいる内に決まったのか、あまなちゃんは目を開けてどの遊びをするのか提案する。
「──かぞくごっこがしたい!」
「あ~、おままごとか!」
笑顔で挙げた女の子らしい提案に頬が緩む。
「それじゃ、あまなちゃんは何の役をやりたい?」
「ママがやりたい!」
え、それは俺に対する遠回しなプロポーズかな?
あまなちゃんみたいな嫁がいたら、どんなに辛いことだって乗り越えられそうだ。
遊びとはいえ、気分だけでも夫婦になれるというなら拒否する理由なんてない。
ある意味至福と言える光景を幻視しながらも、俺は表情を笑みに保ったままさらに尋ねる。
「俺は何の役をやればいいかな?」
「あまなのあかちゃん!」
まさかのBABY。
旦那役じゃなくて子供……それも赤ん坊になれと申すか。
なんだって付き合うとは言ったが、それは流石に予想してなかった。
大人相手にそのチョイスは些か惨過ぎるのではないのかと思うが、当の本人は輝かんばかりの期待の眼差しを向けて来る。
しかし、言葉に詰まった俺の反応が思わしくなかったのか、あまなちゃんは申し訳ないような表情を浮かべ出して……。
「おにーさん、あまなちゃんのあかちゃんやるの、いやだった?」
「喜んで拝命をさせて頂きます」
その問いで俺の心の天秤は意図も容易く『あまなちゃんのあかちゃんになる』へと傾いた。
俺は一体何を迷う必要があっただろうか。
あまなちゃんが母親になるなんて天国以外何物でもないだろう。
「はいめー……?」
「嫌じゃないってことだよ」
「ホント!? ありがとー!」
拝命の意味が解らないあまなちゃんの疑問に簡潔に答えると、俺が了承したと分かったようで実に嬉しそうにバンザイする。
この子が今から俺のママかぁ……最っ高じゃね?
そんな感想を浮かべつつ、俺は全力でオギャる決意を固めるのだった……。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回も明日のお昼の12時に更新します。
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