第三十二話
ガートルンがおすすめだという店は、確かに品ぞろえの豊富な店ばかりだった。刺繍の凝った衣服、物珍しいお菓子、有名な吟遊詩人の詩集、新品の魔法の道具。そのどれにも晴也は目を奪われたが、一方で、そのどれもがエルノアに送るには不適当に思えた。
「随分真剣に考えるのだな」
広場の腰掛に座り考える晴也に対して、グライダムがそう口にした。
男性が女性に贈り物をする。エルダフィートにはあまりない慣習だった。これが貴族間のやり取りであればまだしも、単に恩返しという意味合いとなると、あまり聞く話ではない。それこそ、婚約を切り出す切り口として利用される印象が強い。
晴也を見れば、そう言う意図がある訳ではないことくらい理解できる。ただ純粋に、恩返しという意味合いでの贈り物だ。
「普通、こういうのって真剣に考えるものじゃないんですか?」
グライダムの問いに晴也がそう口にした。
相手に喜んで欲しい。そう思えば、やはり贈る物に気を遣うのは当然のことだ。無駄な物を贈っても迷惑で、かといってあまりに高価な物を贈るというのも気を遣わせてしまう。しかし質素すぎるのも問題だ。
そう考えると、晴也には何をエルノアに贈ればいいのかわからなくなってしまった。もとより、彼女に何が欲しいのかなどわからない晴也だが、それが今は、果たして彼女に贈り物を、という考え自体が正しいのかわからなくなっていた。
さも当然のように真剣に考えている晴也を見て、グライダムは僅かな違和感を覚えた。
お礼として何かを贈ろうという考えは素直に感心する。エルダフィートの人間は、感謝の気持ちを、物品という形で示すことは少ないためだ。一方で、その考えがどこかひねくれているようにも見えた。純粋な感謝という感情を捨て置き、何か別のことを気にしているような、そんな気がしてならない。
「贈り物というのなら、別にそこまで深く考える必要はないんじゃないかと自分は思う」
素直な感想を口にしたグライダムに対して、晴也は首を傾げた。
「いや、変な物を贈って相手に迷惑かけないように、やっぱり真剣に考えるべきなんじゃ……」
「ああ、そう言うことか。いや、余程の物でもない限り、贈り物を迷惑だと思う人はいないだろう? それに、感謝を伝えるための贈り物ならば、自分の感謝をどんな形で伝えたいか。それを考えるべきなんじゃないか」
どんな贈り物が迷惑じゃないか。そう考えるのは確かに不毛だ。どれだけ相手を想ったところで、それを考える自分は結局他人でしかなく、相手のことを理解しきることなどできない。そうであるのなら、相手の迷惑を考えるよりも、自分がどういった形でその感謝を伝えたいか。そちらのほうをより先鋭化するほうが、よっぽど誠意が伝わるだろう。
「……確かに、グライダムさんの言う通りかも」
かくいう自分とて、相手からの贈り物は余程の物でない限りは邪魔に思うことはない。そう考えれば、贈り物をもらった相手のこと以前よ、それを贈って感謝を伝えたい自分のことを掘り下げたほうが、良い贈り物を考え着くかもしれない。
「よしっ! それじゃあ、もう一回見て回るか! グライダムさん、付き合ってくれる?」
「自分は勇者シオタの護衛。幾らでも付き合おう」
自分の都合に付き合わせているというのに、嫌な顔一つしないグライダムに晴也は感謝する。これはお金を返すだけでは恩は返せないだろう。段々と返すものが大きくなっていくことに、晴也は思わず乾いた笑いが零れてしまう。
「――っと、すみません」
歩き出し始めると、また人とぶつかる。東京で生まれ育った晴也は人ごみの中を歩くということにだいぶ慣れたつもりだったが、如何せんこのグリムシャニスは勝手が違う。相手側に人を避けようという意図がないのだ。故に、誰もが自分の肩や足が人のそれらとぶつかっている。
何度も体験すればいい加減晴也もそれに慣れる。しかし、今接触した人は、どういう訳か晴也の首筋に僅かな痛みを覚えた。まるで何かを擦るような痛みに、晴也は首を傾げた。
「おい」
グライダムが晴也と接触した人間の肩を掴む。すると、その男は勢いよく振り返る。その手にはガタガタに刃こぼれした短剣が握られ、それを突きつけながらグライダムへと突進してきた。
それをしっかりと見捉えていたグライダムは、突きつけられた短剣を掌底で弾き、空いていたもう片方の手で男の首を掴む。動きが止まった男を見て、グライダムは流れるように掴んだ首を引き寄せ、足払いで相手の体勢を崩し、そのまま掴んだ首を地面に抑えつけるようにして押し倒した。
男が潰れた蛙のような声を上げると、その手から何かが落ちる。透き通った海のような青い石がついたネックレスだ。
「あれ、それって……」
晴也は慌てて自分の首元を見る。そのネックレスの形は、『貴光の洞』のダルディンから譲り受けた物に非常に似ていた。貰って以来首に付けていたそれを確かめるが、晴也に首にネックレスのチェーンはなかった。
「この男、勇者シオタにぶつかったときに、首飾りを引き千切ったようです」
男をうつ伏せにして、腕の関節を締めあげて拘束するグライダムがそう告げる。それを聞いて、擦れるような首の痛みに納得がいった。
「どうします? このまま騎士の詰め所につれていくことも、ここで自分が処することもできますが」
要人の護衛という任務の元の行動である以上、今のグライダムには抜剣する権利が与えられている。晴也が望めば、グライダムはこの場で剣を抜き、倒れ伏している男の首を落とすこともできるのだ。そんなグライダムの言葉に晴也は答えた。
「詰め所に連れて行きましょう。何も命を奪うようなことじゃない」
晴也の言葉に、グライダムは倒した男を立ち上がらせる。痩せこけた男の顔は、ここ数日ロクに食事をしていないことが伺えた。見ていて憐れに思う。しかし、それが罪を働く免罪符になる訳ではない。どのような理屈であろうと、犯した罪は正当化されない。
では、自分はどうなのだ。晴也は隧道での出来事を思い出す。
殺されそうだった。だから殺した。きっと正当防衛が成立するだろう。だが、それで殺人という罪が容認されるべきなのかは疑問だ。あのときの晴也に、騎士達への殺意があったかはもはや定かではない。それだけ必死だった。必死になって身を守ろうとして、身を守るために、騎士達を殺した。
理由を考えれば幾らでも用意できるだろう。けれど、どれだけ高尚な理由を並べても、晴也が彼らを殺したことに変わりはなく、それは明確な罪だろう。
罪は正当化されない。つまり、相応の罰が与えられる。ならば、彼らを殺した自分に下る罰とは、果たして何なのか。
「――勇者シオタ? どうかしたのか?」
男を詰め所の騎士に引き渡したグライダムが、晴也の顔を覗き込む。
騎士の詰め所に向かうまで、ずっと浮かない顔をされれば誰であっても気になってしまうだろう。そんなグライダムに対して、なんと言い訳しようかと何度か意味のない声を発してから晴也は答えた。
「えと、ネックレス! チェーンが千切れたからどうしようかって思って……」
そう言って晴也は手に持っていたネックレスをグライダムに見せる。それを見ると、グライダムは納得したように声を上げた。
「なるほど。では、先に宝飾店のほうに行って修繕を頼もう。少し待っててくれ、詰め所の騎士に宝飾店がどこにあるか確認する」
そう言うとグライダムは再び騎士の詰め所の中に入る。
本当にグライダムには頭が下がる思いだ。何から何まで世話されるだけでなく、晴也の身まで守っている。そんな彼を労わらないことこそ重罪というものだろう。
しばらくすると、詰め所からグライダムが戻ってくる。
「宝飾店は向こうのほうに有名な店があるようだ。そこに一度行ってみよう」
「……何から何まで、ありがとうございます」
グライダムに対してそう頭を下げると、それを見た彼は、照れくさそうに視線を逸らし、誤魔化すように頬を指で掻く。
「勇者シオタの護衛は自分の仕事だ。別に礼を言われるようなことじゃない」
そうは言うが、今グライダムがしていることは明らかに護衛という仕事を逸脱しているだろう。やはり何かお礼をしなくてはならない。改めてそう決めた。
「早く宝飾店に行こう。一応、人気店らしい」
そう言う歩き始めるグライダムの後ろを晴也はついていく。前を歩くグライダムの様子は、先ほどよりも周囲に気を配っているように見えた。同じようなことが起こらないようにと反省が見えるが、気を張り過ぎているようにも見える。
それを指摘しようとも思ったが、何を言っても彼にとっては侮辱的に聞こえるかもしれない。そう思うほど、周囲を警戒する彼の横顔は真剣だった。
「ここが詰め所で聞いた宝飾店だ」
グライダムはそう言うと、そのまま店の中へと入っていく。宝飾店というのに入ったことのない晴也は、店の中に入るなら、外の様子との差異に驚いた。
活気あふれるグリムシャニスの街の様子とは裏腹に、宝飾店内はどこかゆったりとした時が流れていた。店内にいる人は、外で客引きや値引きに叫び声をあげる人々とはまるで人種が違うように、静かに展示されている宝飾品を吟味し、店員も優雅な所作と丁寧な口調でその宝飾品の説明をしている。
まるで、別の街の店に来たような雰囲気の変わりように、晴也は一瞬呑まれてしまっていた。
「いらっしゃいませ、お客様。今日はどのようなご入用でしょうか?」
店内に入った晴也達に、店員がすぐさま近づき応対してきた。
「先ほど、この方の首飾りを盗もうとした愚か者がいてな。その際に首紐が切れてしまった。治せるだろうか」
そう説明したグライダムに続いて、晴也がネックレスを店員に見せる。「失礼します」と店員がネックレスを受け取ると、その様子をつぶさに観察する。
「鎖状の首紐ですね、鎖の一部が千切れただけなので、治すことはできます。ただ……」
「ただ?」
「随分腕のいい職人が仕立てたのですね。この鎖の一つ一つに紋様が刻まれているんです。代用の部品で応急処置はできますが……流石に同じものは当店にはございません」
無理もない話だ。何せこのネックレスは『貴光の洞』の職人、ダルディンが趣味で仕立てたものと口にしていた。彼がどの程度の労力をそのネックレスにつぎ込んだのかまでは知らないが、彼が仕立てたネックレスともなれば、生半可な店で完全に治せないのは想像に易かった。
「ひとまず、応急処置だけお願いできますか?」
「わかりました。では、少々お待ちいただいてもよろしいですか? すぐに終わらせますので」
そう言うと店員はネックレスを持って店の奥へと消える。
「しかし、意外だ」
店の一角に備えられた腰掛に座る晴也に、グライダムがそう言った。
「勇者シオタが、海洋石の首飾りを持っているとは思わなかった」
「あの石、海洋石って言うんだ」
真珠のような光沢のある青い石を晴也は知らなかった。あるいは、こちらの世界だけの宝石なのかと考えていた。
「希少なものなんですか?」
「手に入れるのが困難というほどの物ではないが、希少なものに変わりはないだろう。特に、あれほど澄んだ青をしたものは高価だ。どこで手に入れたんですか」
まさかそれほどの物だとは思わなかった。それなりの値打ち物であるとは考えていたが、そこまでのものとは考えていなかった。
渡す時にダルディンも行ってくれればよかったというのに。そう後悔しながら晴也が答える。
「『貴光の洞』の職人に貰ったんです。お近づきの印にって」
「エルチェートの職人か。なるほど、それならば店員が感嘆するのも頷ける」
納得したようにグライダムはそう口にすると、何を思ったのか店内を見渡した。釣られて晴也も店の中を見渡す。
展示されている宝飾は煌びやかなものだった。大きな宝石のはまった指輪や、チェーンに小さい宝石をちりばめたネックレス。何らかの紋章を象ったような飾りを吊るしたイヤリング。どれも晴也にはあまりにも遠い場所にあるようなものばかりで、目に毒と言わんばかりに晴也は視線を逸らした。
「……勇者シオタ、ここで殿下の贈り物を買わないか?」
「えっ、ここでですか?」
グライダムのその意見に、思わずそう訊き返してしまった。グライダムは頷き、言葉を続けた。
「エルノア殿下は例え宝飾品を身に着けずとも、淡い碧の瞳と輝くような金色の長髪が自身を飾り立てている」
グライダムのその言葉に、晴也は同意を示すように首肯する。彼女の金髪は、太陽の輝きを受けると本当の宝石のように輝いて見える時がある。碧い瞳もそうだ。淡く透き通ったその輝きは、さながらエメラルドグリーンの宝玉のような高貴な輝きを灯している。
そんな彼女に、飾り立てる宝飾品などは無意味だろう。むしろ、彼女自身の輝きを邪魔してしまう。故に、晴也はエルノアへの贈り物として宝飾品は端から考えていなかった。
「しかし、見た目の美しさと女性の欲しいという欲求は全く別物だ」
グライダムとてその考えは持っていた。恐らく、店を勧めたガートルンも同じ考えで、あえて宝飾品が並んでいる店をグライダムに伝えなかったのだろう。しかし、宝飾店に入ってその考えを改めた。何せ、店内には女性客が多かったのだ。
女性は美しい物を好む。それが花であれ、絵であれ、宝石であれ変わらない。例えその人物が、それら以上の美しさを誇っていようと、女性である故にそれらに対する欲求はあるはずなのだ。
グライダムの言葉を聞いて、晴也は愕然とした。確かに、エルノアに宝石は役不足と忖度していた。しかし、そんな事実と彼女の内心は必ずしも合致しないだろう。
「そっか、そうだよな、うん。確かに、良い考えかも……」
問題は、宝飾品となると値段が高いことだ。晴也自身が金銭を持っていれば大した問題ではなかったが、この場で会計をするのはグライダムだ。彼の懐を、晴也の事情で痛めつけるようなことを進んでしようとは思えなかった。
「安心しろ、勇者シオタ。あまり高い物は無理だが、大体の物は買えるぞ」
そう言ってグライダムは自らの懐を叩いた。その申し出はありがたかったが、どうしても気になることがあった。
「グライダムさんは、なんでそんなに俺に良くしてくれるんですか?」
ここまで良くされる理由を晴也には思い浮かばなかった。確かに晴也は勇者としての価値を示したが、それは聖剣を扱う者という価値でしかなく、晴也の個人的な用事にここまで付き添う理由にはならない。しかも、自らの貯金を使うとまでなるとただ事ではない。
晴也のその質問に、グライダムは少し考えるような仕草をしてから答えた。
「あまり褒められた理由ではない。単に打算ありきの行動だ」
「打算?」
「こうしておけば、いつか自分の味方をしてくれるだろう。そんな打算さ。失望してくれ」
「いや、むしろそれくらいのほうが安心したよ。もっと歯の浮くような言葉で善人を主張されたらどうしようって思ってた」
自分に与えられる善意がどこからくるものなのか。その所在が明らかになると、晴也も少しだけ安堵できる。タダほど怖い者はないと誰かが言っていたのを思い出す。確かに、対価の無い報酬ほど、自分に何を求められているのか勘ぐって恐ろしくなる。
そんな会話をしていると、店の奥から先ほどの店員が戻って来た。
「お待たせしました。違和感のない部品で応急処置をしましたが、気になるようでしたらこちらを仕立てた職人に問い合わせていただけますか」
「いえ、ありがとうございます。助かります」
店員から海洋石のネックレスを受け取った晴也は、再びそれを首からかける。
「えっと、それからちょっと質問したいんですけど……」
そう言って一拍置いてから、晴也は店員に訊ねる。
「お世話になっている人への贈り物を買いたいんですけど、相談に乗ってくれますか?」
晴也のその言葉に、店員は満面の笑みを浮かべる。それがいわゆる営業スマイルなのか晴也にはわからないが、少なくとも気分の悪くなるようなものではなかった。
「はい! ではこちらへどうぞ。どのような物をお求めか、聞いてもよろしいですか?」
「まだ何にも決まってなくて。こういうのにしようっていうのも今決めたばっかりで」
「なるほど。では、贈る方はどのような方なんでしょう? 何か特徴があれば教えていただけますか?」
店員にそう訊ねられ、晴也はエルノアのことを思い浮かべる。
輝ける金髪に、澄み渡った碧眼。白い肌は雪のようで、か細い指先は一級の職人が仕立て上げたような滑らかな美しさをしている。
性格はどうか。とても優しく理知的。その聡明さはまるで先を見透かしているかのようなのに、いざ自分のことになると不安に押しつぶされそうなほどに弱々しく、守りたくなる。
そのどれもが、エルノアの本質を突いていないように思えた。どれもエルノアの魅力だが、それが真の魅力だとは思わなかった。そう俯いたとき、首にかけた海洋石のネックレスが目に入る。
海。そう、思えばエルノアは海に夢を見ていた。そのときのエルノアは、いつもの綺麗なエルノアと打って変わり、子供のようにはしゃいでいた。
「――海だ」
噛み合ったように晴也はそう口にした。晴也のその言葉に店員は疑問符を浮かべて首を傾げる。そんな店員に晴也は言った。
「その人、海について語るとき、すごく嬉しそうなんです。いつもは大人びてすごく綺麗な人なのに、そのときは子供みたいになって。そのときに浮かべてる笑顔とか、すごく可愛らしいんです」
できることならば、もう一度そんな顔が見てみたい。酷く個人的な感情だが、自分が贈る物で、そんな表情をしてくれるのなら。そんなことを晴也は考えていた。
「海、ですか。少々お待ちください」
そう言うと店員は再び店の奥へと消え、今度はすぐ戻って来た。
戻って来た店員はその手に箱を持って現れた。それを晴也の前で開けると、箱の中には綺麗な宝石が幾つか入っていた。
「こちらにあるのは、全て海に関する宝石です」
「海に関する?」
「はい。経典に登場する青き果てしない水辺。それを思わせる宝石です。こちらはお客様の首飾りに使われているのと同じ海洋石。その隣にあるのは水の流れる山で採れる水泡石というものです。こちらにあるのは蒼氷石。それでこちらは流水金剛というものです」
そこにあるどの宝石にも晴也は目を奪われていた。しかし、その中でも一等注目していたのは、やはり海洋石だった。何せそこにある海洋石は、晴也の物とは違い、淡い緑色をしていたのだ。
「この海洋石は、本当にこれと同じものなんですか?」
自分のペンダントに触れながら訊ねると、店員が答える。
「はい。採掘される環境か加工の仕方で、色合いが異なるんです。お客様の首飾りの海洋石は群青海洋石という物で、北で採掘されるものです。一方でこちらの翡翠海洋石は、南で採掘された海洋石なんです」
店員の説明を話半分に聞きながら、晴也はその海洋石を眺める。
まるでエルノアの瞳のような色をしている。さながら紺碧の色をしたその海洋石に、晴也は心を奪われていた。そんな様子に、店員は微笑を浮かべる。
「こちらの海洋石を使った宝飾品を、幾つか持ってきましょうか?」
「いいんですか?」
「はい。少々お待ちください」
そう言うと店員は展示されている宝飾品を幾つか手に持ち、晴也の元へ持って来る。
「こちらにある物は全て、先ほど見せた海洋石を発掘した場所と同じ場所で採れた物です。如何ですか」
店員が持ってきたのは指輪とネックレス、イヤリングとブローチだった。輝く海洋石に目を引かれるそれらをエルノアが着けていたらと想像する。その中で、一番エルノアに似合うと感じた物を晴也は指差した。
「これ、これにします」
晴也が指差したのは、海洋石を施したイヤリングだった。
第三十二話を読んでいただきありがとうございます。
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