第二十六話
現在、シャーンの目の前で執り行われているのは、第五騎士団団長のノルートル・クーラレーン・ヴァイシアの査問だった。
部屋の中心に被告であるノルートルを立たせ、その周りに各騎士団の団長を。上座には国王エルガンダや軍務大臣であるジュリオスが座している。そんな場に、シャーンは立っていた。本来であれば第二騎士団長グライダムがいるべき場所にだ。
このような責任ある場に副官としてもあまりに未熟な自分がいることにも、このような大事においてエルノアの護衛を優先したことにも、シャーンは怒っていた。彼女が感じている苛立ちの半分はそれだ。
「――再度問うぞ、クーラレーン・ヴァイシア。貴様、此度の南部監視塔騎士の謀計に関して、一切関知していないのだな」
上座のジュリオスが低い声でノルートルに詰問する。それに対して彼は、散々と口にしてきた意見を、淀みない真っ直ぐな声で言い放った。
「はい。僕は今回の件に関して、何ら関知していません」
静まった部屋の中に強く響き渡るノルートルの声は、所詮一介の騎士でしかないシャーンには強い説得力のような物を感じた。彼は常に堂々と、何ら陰りを見せることなく今回の査問に悉く答えた。そのような御仁が、自ら謀反の扇動をするとは思えなかった。
「幾つか質問したいことがある」
そう口を挟んだのは、第三騎士団長のノイエル・クロローシュだった。
彼は懐から何枚かの紙を取り出し、そこに書かれている文章に目を通しながらノルートルに訊ねた。
「今回の件は南部監視塔で起こったことだが、これと関連づけられる事柄が一つある。クーラレーン・ヴァイシアはしばらく前から南部の査察に行っていない。全て部下に任せていると報告書に記載があった。建前としては部下の指導の一環なのだろうが、些か恣意的なものに映る。そこのところはどうだ」
「偽りはありません。南部監視塔は北部に比べ緩やかな地形で、西部に比べて忙しくもありませんから。部下の教育には適当な場所なのです」
山岳部にある北部監視塔や、国境検問や防衛などで常に稼動している西部監視塔に比べれば、確かに南部監視塔は部下の指導に適した場所だろう。やはりそこに矛盾点は見受けられない。
「しかし、スーリロム領の防衛体制の評価は、近頃下降傾向にあります。話によると、人里の近くにヴォンターの巣があるとか」
ノイエルのその言葉に、場が僅かにわなないた。神代より存在するとされる、人に害をなす獣。その駆除も騎士の仕事の一つだ。それ故に、基本的に街や村の近郊に巣はない。作らせないことも仕事の一つなのだ。しかし、それがなされていないというのは明確な職務怠慢と言えるだろう。
「確かに、そのような報告はこちらにもあります。しかし……」
ノイエルの意見を認めつつ、しかしノルートルは鋭い視線を向ける。針のような視線に、ノイエルは思わず唾を呑み込んだ。
「治安の維持は本来、あなた方第三騎士団の仕事だ。そちらの職務怠慢を、我々のせいにしてほしくはない」
「――ッ」
手に持っていた書類を怒りのあまり握り潰す。誰が見てもわかるくらいに顔を真っ赤にして憤るノイエルの様子は、騎士団長としての拙さを窺わせた。無理もない。ノイエルは今年に入って騎士団長に就任した十代の騎士だ。血筋も実力も申し分ないが、如何せんその経験や技量という部分で他の騎士団長よりも浅いのが目立つのは致し方ない。
そんなノイエルに代わり、ノルートルに反論したのは第四騎士団長のドクテルだった。
「しかしですよ、クーラテール・ヴァイシア。確かに治安維持を主任務とする第三騎士団の怠慢であったとしても、彼らの勤務地は主要都市だ。傍田舎の村まで手を広げられるほど、第三には人員がない。ともすれば、その補填として監視塔騎士が治安維持をするべきなのではないですかな」
あからさまに表情を歪ませながら、ノルートルは口を開く。
「勿論、南部のみならず、全ての監視塔に勤務している騎士には、監視塔周辺の見回りを命じ、治安維持に貢献しています。しかし、民間人同士の喧嘩の仲裁はともかく、暴徒鎮圧やヴォンターの討滅などの武力介入は第三の領分だ。我々はその権限を有していない」
騎士団は役割を細分化することで、効率的にエルダフィートを守っている。しかし、実際のところは柔軟性の無さが現場では指摘されている。例えば、第二騎士団の面々は、緊急時以外は専守防衛の際にしか抜剣を許可されていない。同じように第五は、施設運用や防衛、あるいは拠点地確保の際以外は抜剣を認められない。このように、自分が所属する騎士団の任務以外では、剣を振ることは愚か、抜くことも認められていないのだ。
人倫を問えばドクテルの意見はもっともだ。しかし、組織として考えればノルートルは間違っていない。
人を守るのが騎士。だというのに、騎士団が定めた法に雁字搦めにされるとは、滑稽にも程がある。
シャーンは思わず溜息をついた。どうにも話が妙な方向に逸れていると思ったためだ。
ここでは第五騎士団長ノルートルの南部監視塔の謀計に関する査問を行っていたはずだ。だというのに、いつの間にか話が各騎士団の粗捜しに変わっている。
あるいは、各騎士団長の本懐はそちらなのかもしれない。他よりもより強い立場でありたい。男というのはなんとも愚かしい。これはグライダムでなくともこの場に立つのを倦厭するだろう。
「しかし、緊急時には如何なる騎士でも抜剣を許されています。民の危機は、騎士として緊急時と言うべきないですか?」
これに関してはシャーンもドクテルに賛成だった。腰に佩いた剣がなんのためにあるのか。忌々しい規則ばかりを守っていては、本当に守るべきものを守ることすらできない。
「危機の定義を議論するのはまた今度だ。この場は、あくまで南部監視塔の件をクーラテール・ヴァイシアに査問する場だ」
「失礼いたしました、クレイメンティ・イディオン」
第一騎士団長にして、騎士団全体の長であるヴァーテインの言葉にドクテルはすぐさま頭を下げる。
ドクテルがノイエルに肩入れした理由を、シャーンは何となく理解していた。彼はノルートルを降格させ、代わりに自分が第五騎士団の団長に就任しようとしているのだろう。
第四騎士団の仕事は、国家防衛ではなく、魔法研究所への技術協力だ。その特性上、第四騎士団には魔法使いが多い。話を聞く限り、ドクテルという騎士は剣の腕よりも魔法の腕で騎士団長にまで上り詰めた男だ。その役目を統括するのは最適解と言えなくもない。しかし、ドクテルは騎士としてその仕事が不満なのだろう。そんな感慨が明け透けていた。
「さて、俺からも一ついいか」
ヴァーテインの言葉にノルートルが頷くと、彼はこう訊ねた。
「お前が今回の件に関わっていないというのは信じよう。お前ほどの忠義者が簡単に国を裏切るとは思えんからな。だが、だとしたら問題がある。今回の件は誰によって引き起こされたものなのかだ」
南部監視塔を最も容易に掌握できるのは、第五騎士団長のノルートルであることは事実だ。しかし、彼がその犯人でないとなれば、やはりどこか別の部分に裏切り者がいると考えるべきだろう。
「……可能性があるとすれば、我が団の団員ではないかと」
非常に言い難そうにノルートルが答える。その様子を見れば、彼が如何に部下を信用しているのか理解できる。そんな彼が、自らの部下を疑うというのは、自分が疑いの刃で斬りつけられる以上の痛みを伴うのだろう。
「僕が南部に送った人員の内の誰か。そう考えるのが妥当かと」
「まあそうなるわな」
ノルートルの言葉に、ヴァーテインはどこか納得していないように不満げな声を漏らした。それを即座にジュリオスが指摘する。
「ヴァーテイン。何か気になることがあるのか」
「……正直、今回の手の込み具合を考えると、そんな簡単にボロを出すような輩には思えねーわけですよ。裏切り者が何者であったとしても、隧道が露呈するまでにはそれなりに時間がかかっている。つまり、隧道なんて巨大なものを隠し通せたということだ。それができるのは、相応の魔法使いか、相当の権力を以て隠蔽したかだ」
つまるところ、騎士団長でもない騎士ができるような謀計でもないということだ。第五騎士団の騎士達は、ノルートルの教導によって基礎力が高い。一方で、卓越した何かがあるという訳ではない。そう言う意味で言えば、第五騎士団は容疑から外れることになる。
「ドクテル。魔法で隧道を隠すことはできるもんなのか?」
「可能です。表面上、隧道が見えなければいいのなら惑いを使えばいい。しかし、それを永続的に行うのは現実的ではありません。持って半日でしょう。幾ら人員をつぎ込んだとしても、使い捨てるつもりでやらなければ、数日と瓦解します」
「他に方法はあるのか?」
「方法論を語れば色々とありますが、最も現実的なのは儀式を用いた方法です。ですが――」
儀式を用いて魔法を強化すれば、神殿がそれに気づかない訳がない。逆説で語れば、神殿に裏切り者がいるとも考えられるが、それを審議するには、神殿側の人間がこの場にはいなかった。
「儀式か。これは、一度魔法研究所や神殿も交えて議論したほうが良いか」
それは参考人としてか、あるいは容疑者としてか。ジュリオスの言葉の意図をシャーンは理解しきれなかった。そんな彼に対して、今まで唯一口を開いていなかった第六騎士団の団長――通称クランドが口を開いた。
「容疑者、と言えるかどうかはわからないが、騎士団長の中に妙な動きをしている奴がいる」
その言葉に、誰もがクランドのほうを見た。
「適当なことを抜かすな! 外にしか目を向けていない第六が、どうして他の騎士団長のことがわかるんだ!」
クランドの言葉にノイエルは過敏に反応し喚き散らす。ノルートルに言い負かされた鬱憤を晴らさんと騒ぐ彼の姿は非常に愚かで、自分よりも上位の階級でありながらその様子にシャーンは不快感を表した。
「確かに、他の騎士団のことなどわからない。しかし、今この瞬間、わかることがある」
そう言うとクランドはシャーンのほうを見た。いきなり視線を向けられたことに驚き、思わず視線を逸らしてしまう。
「どうしてこの場に、第二騎士団長が出席していない」
「そ、それは……」
エルノアの警護を理由に、グライダムはこの査問を欠席している。ジュリオスやヴァーテインには苦い顔をされたが、エルガンダはそれを快諾した。
「エルノア殿下の警護で外せないのは把握している。しかし、今いる場所は魔法研究所だ。有能な魔法使いの他に、優秀な第四騎士団だって駐留している。そこにわざわざ、彼が残る必要があるのか?」
「なるほど。確かに、これは我々のことを信頼していないと捉えてもいいのかな。クレイヴェス・メリネア」
思わぬ方向から思わぬほうに話が飛んでいったことに、シャーンは即座に対応することができなかった。何音か意味のない声を発してから、ようやく理解が追い付き慌てて口を開いた。
「ま、待ってください! 我々も団長も、そのような意図はありません! 言いがかりです!」
第二騎士団としての職務を全うしている。それが謀反を企てているなどと思われたら堪ったものじゃない。憤りを声音に滲ませるシャーンに対して、クランドは続けた。
「確かに、言いがかりかもしれない。しかし、根拠がないとも言えない」
そう言うと、クランドはノルートルのほうを見た。ノルートルは苦い顔をしながらシャーンのほうを見ている。
彼とグライダムが同期の騎士であることをシャーンは知っている。グライダムは距離を取ろうとしているのを何となくわかっていたが、一方でノルートルのほうは未だに彼と親し気に話そうとしているのは、シャーンは度々目撃している。
そんな彼が懐から書類を取り出した。それは、ノイエルが握り締めてぐちゃぐちゃになった物に酷似していた。
「……これはここ数年の間に、南部監視塔に誰が来たのかを記した報告書だ。部下を南部に送る度に、これを回収させている。ここには、数年前から一人の男が頻繁に出入りしていることを克明に記されている」
そう言ってノルートルは報告書をシャーンへと見せた。名前を記載する欄の左側。欄外に赤い印がつけられている人物の名は、グライダム・バルトス。
シャーンはそれを見て確信した。この査問会は茶番だ。理由はわからないが、端からグライダムの容疑を周知させるためにこの場に立ったのだと。否、監視塔騎士は既に敵に落ちていた。その報告書は信頼に値しない。つまり幾らでも偽造可能だ。それを持ち出したということは、やはり彼が裏切り者ということか。
ちらりと周囲を見渡す。誰もノルートルの言葉に意見しない。あれほどノルートルに噛みついていたノイエルでさえだ。端から全員グルだったということか。それを把握していて、グライダムはこの場に参上しなかったのか。
もしそうだとして、事情くらいの説明は欲しかった。いや、あるいはこれは自らの価値を問うているのかもしれない。グライダムという男に付き従う副官に相応しいか否か。
シャーンには既に、周囲にいる騎士団が全員敵に見えていた。グライダムか、あるいは第二騎士団全体を陥れようとしている。
このことをジュリオスやエルガンダは把握しているのか。いや、していなかったとしてもここで口を挟まないのはおかしい。ノルートルが出した証拠には、何ら根拠にもならないことなど、誰にでもわかることだ。それを指摘しないというのは、現状の流れを黙認していることに他ならない。
この場に正義はない。シャーンはそれを悟った。信じていたものに打ち破られたことに絶望する。しかし、それ以上に憤慨を抱く。悪に屈する理由なし。この場にいる全てが悪であるのなら、シャーンは騎士として、それを糾さねばならない。
そう決心がつけば、体を雁字搦めにしていた緊張の鎖は一気に弛緩し、軽くなった口が調子よく動き始める。
「断言します。我々第二騎士団は、団長グライダムを含め、エルダフィートを守るために剣を執り、体を盾とする誇り高き騎士です。我々はこの国に蔓延るありとあらゆる悪性を削ぎ落し、必ずやこの国を脅かす脅威を、須らく排除してみせましょう」
正義は我にあり。それを確信したシャーンは、その場にいる全員にそれを宣言する。
騎士としての誇り。民草を守り、国を守り、主を守る。そのためならば、例え自分より圧倒的に強い相手であれ、尊き身分であれ、剣を振るう。滴る血が、国を浄化すると、シャーンは信じていた。
*
シャーンには随分と酷なことをした。
グライダムは魔法研究所の眩しい渡り廊下を歩きながら、遠き王都で行われている査問会に出席させたシャーンのことを思っていた。
今回の査問会では、グライダムが南部監視塔に足繁く通っていたことを追及されるだろうと考えていた。それに対する弁解などいくらでも思いつくが、これはシャーンにとってもいい経験になると考え、彼女を査問会に出席させた。
彼女は優秀だが、どこか生真面目で固い部分がある。軟弱であるよりはマシだが、柔軟性の無さはやはり欠点だ。副官としての彼女はそれだけが致命だった。
故に、今回の査問会は彼女の真価を問うことになると考えていた。ノルートルに肖ったグライダムなりの教導のつもりだが、任せる仕事にしては些か重すぎたようにも思える。しかし、それくらいでなければシャーンという騎士の価値を測りきることはできなかった。
それはすなわち、第二騎士団の騎士か。あるいはグライダムの副官か。
呑まれるか超えられるか。手塩にかけた部下として見れば、乗り越えて欲しいとも思う。一方で、彼女のような純粋な人間を、裏切りと非道の世界に堕としたくないという親心もある。
それでも、決めた覚悟を揺るがせはしない。グライダムは決めたのだ。何としてでもこの国を打倒すると。
「――おや、クーラレーン・バルトスではありませんか?」
正面から聞こえた声に、グライダムは肩を揺らした。視線を持ち上げると、そこにいたのは、エルノアと晴也に挨拶をしに来たオーセムだった。
「スーリロム卿。どうかなさいましたか」
「いや、勇者様へのご挨拶も叶い、お暇させていただこうと思った道中、誉れ高き第二騎士団の団長殿を見かけまして、思わず声をかけてしまった次第でございます」
「そう、でしたか……」
正直な話、グライダムはオーセムと会いたくはなかった。利権の問題だ。第二騎士団は任務中であれば、直轄領外でも調査権や抜剣の権利を主張することができる。しかし、それは文章の上でのことで、人の心の中まで縛るようなものではない。オーセムがそれを厭味ったらしく指摘することがないことをグライダムは知っているが、それでも領主として、騎士団長であるグライダムに小言の一つは言われると思っていたのだ。
「今回の件はお疲れさまでした。まさか、南部監視塔がガグランダに掌握されているとは夢にも思いませんでした」
「ええ。我々も驚きです。しかし、南部の山壁の隧道を考えれば、紛れもなく現実でしょう」
「由々しき事態です。まさか、我が領内でこのようなことが行われているとは考えもしなかった。……しかし、あなたは想定していたのではありませんか? 我が領で何かが行われていることを。でなければ、いくら殿下の護衛と言えど、あなたと副官のクレイヴェス・メリネアが同行する理由にならない」
第二騎士団の面々に伝えた建前としては、それは正しかった。エルノアと勇者の護衛の裏で、南部監視塔に怪しい動きがあるという情報を入手したと告げ、第二の精鋭を率いて監視塔へと赴いた。
「我々が掴んでいたのは、南部監視塔が妙な動きをしているということだけです。何をしているのかまでは流石に掴めていませんでした」
実際のところは、グライダムがエルノアの警護のために監視塔に行く必要はなかった。それでも監視塔に向かったのは、監視塔騎士がしっかりと仕事をしているかの確認のためだ。精鋭を集め監視の目を強めたのは、その行いが容易に露呈するような雑さはないか、いわば抜き打ち検査でもあった。
部下がしっかり仕事をしているか。騎士団長という管理職としての癖で、グライダムは監視塔に査察に向かったのだ。
想定外は二つ。一つは慧眼を持つエルメリアが帯同したこと。そしてもう一つは、エルノアと晴也に隧道を見つかったことだった。
これらがなければ、今も無事に隧道の建設は進められていただろう。そうすれば、ふた月もすれば隧道は繋がり、ガグランダからの進攻が始まっていた。
急いだツケがここに来た。グライダムは吐きそうになった嘆息をどうにか呑み込んだ。
「ほう。第二は随分と優秀な情報網をお持ちのようだ。わたしも個人的な情報屋や商人などの伝手で領内外各地の情報を仕入れていますが、あなた方のものには劣る」
「第二の任務は要所要人の防衛。最大限の防衛とは、敵がいないことに限りますから」
「なるほど、確かにその通りですな」
などと軽口を叩きオーセムは笑った。
ひとまず、変に小言を言われることだけは免れたか。あるいはエルノアとの挨拶の際にその手の話は済ませていたのかもしれない。だとしても、きっと北方の領主、ノディスであったらこうも和やかに会話などしなかっただろう。彼は民に対しては穏やかな人柄だが、官吏に対しては攻撃的な部分がある。
「もう少しお話をと思いましたが、如何せんこれから用事がありまして」
「失礼ですが、どちらへ?」
「西部です。数日後に他の領主と会合がありまして。我が領で起こったことの説明と、今後の対策について話し合うんです」
西部で会合とは、なんとも慌ただしい場所を選んだものだ。今回の件で王国は内外への警戒を厳としている。国の玄関口としての機能を有する西部など特に顕著であろう。彼としてはいち早く各領主に現状を伝えたいのだろう。そのため、忙しい西部領主のアルトーラを思い、西部での開催を決めたのだろう。
客人をもてなす余裕などないだろうに、きっと押し切られたのだろう。かの領主は、少しだけ気が弱い部分がある。
「そうでしたか。では、川をお渡りに?」
「ええ。既に神殿から許可を得ましたから」
お気をつけて。グライダムがそう頭を下げると、オーセムはそんな彼の肩に手を置いた。親し気なその仕草に、グライダムは背筋がくすぐったくなるのを感じた。
「今後ともよろしく、グライダム君」
それだけ言うと、オーセムはその場を後にした。
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