7 2人目
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「ふふふふ……、ふぁはははは……!」
声が聞こえてきた方、頭上を見上げれば、変な女というか少女みたいなモノが浮いている。
しかも、妙に露出が多く、今の季節には寒そうだ。
(何だ?
神か、ヴァルキュリアか、その他か。
いずれにしても、何かヤバい!)
俺には、恐怖と警戒心しかなかった。
「何が可笑しいのですか、ルクサウト!
何故、貴女がここに居るのです?」
ブロスナーが、若干怒気をはらんだ大きめの声を上げる。
(知人、か?)
「くくくくくっ……
いや、なに、ブロスナーが選んだ男が気になってね。
わざわざ見に来た、って訳さ。」
ルクサウトと呼ばれた浮遊女は、ブロスナーの問いに答えた後、さらに笑い転げる。
「それにしてもねぇ……
ふふふふふ…………」
「いいかげんにしなさい、ルク!」
ブロスナーがそう言うと、周囲が若干寒くなった。
どうやら、攻撃とは言わないまでも、魔法の力らしい。
「いいじゃないか、アンタらしい面白い男だと思うよ。
それよも、さ。
教えてやってもいいんじゃないか?
かつてその選択をした男が、オージン様の級首を狙った、って。」
(え……?)
「ルク!」
俺は、ブロスナーに訊く。
「ブロスナーさん、彼女は?」
「彼女は、ルクサウト。
私と同期……同世代の、ヴァルキュリヤです。」
(てことは、アイツも3000才ぐらい?)
「それで、さっきのは……」
俺が言い終わる前に、ブロスナーが答える。
「本当のこと、です。」
「危険」や「警告」の意味が分かってしまった。
人間で言うところの、テロや暗殺の常套手段、みたいなイメージだ。
再び、ルクサウトとやらが喋り始めた。
「ねぇ、どうせ結ばれないんだし、アタシが貰ってやろうか?」
「いい加減に!」
ブロスナーの声がそこまで聞こえた次の瞬間、「ガキン!」、と金属音が聞こえた。
ブロスナーが斬りかかり、ルクサウトが受け止めていた。
文字どおり、一瞬。
地上5メートルぐらいの攻防。
ガガガガガガ……
しばらく打ち合う音がして、2人が距離をとる。
そして、2人とも地上に下りる。
「そこの人間!」
ルクサウトが、いきなり俺に声を掛ける。
「どうだ、アタシと手合わせしないか?
エインヘリャルに、なりたいんだろう?
何、殺しはしないし、怪我も治してやる。」
今の2人を見る限り、殺す気がなくても瞬殺されそうである。
「冗談でしょ?
自殺願望なんて、ありませんよ。」
「どういうつもりですか、ルク?」
「ブロ、分かって言ってるんだろう?
エインヘリャルに求められる強さを、そこの人間に教えてやるだけだよ。」
「ブロスナーさん、アイツの言ってること信用できるのですか?」
はぁ、と溜息を一つ吐いて、ブロスナーが答えてくれた。
「問題ありません。
襲撃されたわけでもないので、人間を殺すことは禁じられています。」
「…………」
(「覚悟」とやらを、決めてみるか。)
「そうですか、ありがとう。
ルクサウトさん、手合わせ願えますか?」
「度胸だけは、一人前だな。」
「カミヤさん、どういう……いえ、本気で言っているのですか?」
「本気ですよ、師匠。」
(そうだ。
アイツが「結ばれない」とか言い出して、師匠が怒ったんだ……
師匠が怒った理由は分からないけれど、もしかしたら俺のせいだったり、俺のためだったりするのかも。
なら、100%負け戦でも、退くわけにゃいかねぇ……!)
ドンッ!
視認できない速さで、一振りの剣が目の前の地面に突き刺さる。
「使えよ。」
これまでより格段に低い声で、ルクサウトが言い放った。
俺は、剣を引き抜いた。
さすがに、木刀とは比較にならない重さだった……
(真剣って、こんなに重いのか。)
俺は、きちんと両手で構えた。
「行くぞ。」
ルクサウトが言うと同時に、突っ込んできた。
初撃と次撃は、かろうじて受けることができた。
だが、その後は反応するヒマなんてなく、当然一撃を振るうこともできなかった。
その後は、昨日と同じくサンドバッグである。
どうやら刃は付いていないようだが、鉄剣……かどうかも分からん金属剣である。
何本か、確実に骨まで折れてる……
だが、あっさりとは倒れなかった。
違うな、おそらくは「倒れることすら許されなかった」だ。
そんな状況なのだから、どこをどう殴られたのかすら分からない。
そして最後に、見事なまでに倒れたのである。
大体、初撃を防いだのだって実力ではない。
それどころか、運ですらないのだろう。
大方アイツが、俺が剣を構えいるところに打ってきたんだろう。
「ふん、全く実力もないくせに、馬鹿なことを考えるからこうなるんだ。
どうせ今まで、剣を握ったこともないクチだろう?」
「ルクサウト!」
「いや、最後まで言わせてもらう。
そのくせ弱いくせに、倒れるまで剣を手放さなかった。
ブロが気に入るだけあって、非常に腹立たしい!
だが、まぁ約束は約束だ。
きっちり、治療はしてやる。」
こうして俺は、ルクサウトに回復魔法を掛けられることとなったのだが、何と言うか師匠に回復してもらうのとは、何かが違った。
「お前は、ブロスナーという名前の意味を知っているか?」
「たしか青い雪か何か、そんな意味だったかと。」
「そうだ。
そしてアタシの名の意味は、赤い塩、だ。
赤と青、雪と塩。
その違いが、魔法の差になっているんだ。」
「名前が魔法に影響……」
ちょっと信じ難いが、多分事実だろう。
ま、とっちにしても、だ。
「二人とも、キレイな名前だと思うな。」
「また、お前は、そんな事を!
だから、お前は、馬鹿だと。
大体、お前は、自分が持っている物にも気付いていないだろう。」
俺が持っている物?
「一体、何の話だ?
さっぱり心当たりがないよなぁ。」
問い返すといよりは、思わず言葉が漏れたといったところだった。
「少しは自分で考えろ。」
考えて分かるような物、なんだろうか。
その後、ルクサウトはブロスナーと二人で話していた。
何を話しているのかは分からんが、とりあえず二人とも喧嘩腰ではないようなので安心した。
そして用が済んだのか、ルクサウトが突然言い放った。
「では、アタシは帰る。
人間、ちゃんと長生きしろよ。
じゃあな。」
そう言うとルクサウトは、すう~っと消えていった。
(ブロスナーと一緒、か。)
とか思っていると、ブロスナーから声が掛かる。
「カミヤさん、お話があります。」
「はい、何ですか?」
「こちらに来て、座ってください。」
「え?」
「ここに、座ってください。
この国では、こういう時には、正座をするものなのでしょう?」
(この状況で、地面に正座?
まさか、説教?
ヤバイ?)
「早く、座りなさい。」
なんか、よく分からん強制力で正座をさせられた。
魔法の力だろう。
「カミヤさん、貴方は一体何を考えているのですか?
エインヘリャルには程遠い、全然戦えない生身の人間が、ヴァルキュリヤ勝てると思ったのですか?
いえ、昨日の今日です。
戦いにすらならないことは、分かっていましたよね?
それなのに、どういうつもりですか!」
「いや、それはその……」
(ヤバイ!
何て言えばいい?
いや、何言っても無駄か?)
「何ですか?
ハッキリと言いなさい、ちゃんと私の目を見て。」
ブロスナーは声を荒げていないし、言葉も丁寧なままだ。
だが、さすがに3000年も生きてるだけあって、背筋が凍りそう、いや、心臓が止まりそうなぐらいには怖い。
(これは……無理だ……)
「その、ごめんなさい!
師匠がかなり怒ってたから、ワルキュリアの価値観は知らないんで何に怒ったのかは分からなかったけど、ルクサウトさんに何か失礼なことを言われたんだろうと思って。
それで、勝ち目がゼロなのは分かってたけど、手合わせを受けました。
ご心配おかけして、申し訳ございませんでした。」
と言って、そのまま正座から土下座に移行する。
「ちゃんと分かってるじゃないですか。」
意外と穏やかな感じで返ってきた。
「でしたら……
………………」
(?)
ブロスナーが言葉を区切ったまま、何も言わなくなった。
とりあえず、俺は顔を上げてみる。
ゴン!
直後、脳天に信じ難い衝撃が走った。
「きちんとヴァルキュリヤの力を、教えておかなければなりませんね。」
どうやらさっきのは、ブロスナーに拳骨を叩き込まれたらしい。
正直、昨日木刀で打ち込まれたのどころか、先程のルクサウトの鉄剣並の威力である。
その後、俺は、ブロスナーに正座で説教を食らいながら、拳骨でしばきまわされた。
「失礼な。
貴方は、私の弟子なのでしょう?
でしたらこれは、しばいたのではなく、折檻です。
師匠として、弟子を躾け直しただけです。」
誰だよ、「折檻」とか小難しい言葉教えたの……
それに俺、アンタの結婚相手候補じゃなかったの?
「それにしても、まさか彼女だったとは。」
「あの、何がですか?」
俺は、完全に弟子モードで質問した。
「そういえば、カミヤさんは、聞いてなかったんですね。
ルクサウトが、この国のエインヘリャルを集めていたんですよ。」
その一言で俺は、何かとアタマが痛い気分になってしまった。




