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死神に逆軟派されました  作者: 弓木
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 5 剣術稽古

    5  剣術稽古

 

 「足の捌きが止まってますよ!」

ブロスナーの檄が飛ぶ。

直後、俺の脳天に木刀が打ち込まれる。

さらに、立て続けに、今度は上腕に向けて横薙ぎに打ち込まれる。

「くおぉぉぉぉ!」

骨が折れたかと思うほどの痛みがはしる。

だが、どうにかではあるものの、今回は木刀を取り落とさなかった。

「今回は、打ち込まれても剣を手放しませんでしたね。

 よろしい、その調子で行きますよ!」

ブロスナーは、さらに容赦なく打ち込んでくる。

それに対して俺は、打ち返すどころか、剣を振るうことも避けることもできなくなっていた。

最早、サンドバッグ状態である。

 

 昨日、素戔嗚神社で素振りをするブロスナーを見て、格好良いと思ってしまったのである。

流れるような美しさに惚れたのである。

もちろん、異性としてではなく、剣士というか戦士としてのブロスナーにである。

流石の戦乙女!

それで思わず、「剣を教えて」と言ったら快諾してくれたのである。

であるが……その結果が、これである。

素人相手に超スパルタ、ぼろ雑巾である。

とはいえ、ちゃんと剣の握り方から教えてくれたし、最初は素振りからだった。

「剣が真っ直ぐ振れてない!」

「腕を挙げる!」

「足を止めない!」

「背筋を伸ばして!」

うん、その都度、木刀でしばかれたけどね……

で、みっちり2時間ほど素振りをした後、少しの掛かり稽古を経て、実戦形式での打ち合いになった。

 

 (死ぬ!)

本気で死ぬほどキツイ!

痛みも、体力も、精神力も、全てが。

で、膝が落ちたところに一撃をもらい、倒れた……

「では、少し休憩しましょうか。」

そう言うと、ブロスナーは俺を起こしてベンチへと連れて行く。

2人で座ると、水筒の水を俺に手渡す。

「ありがとう。」

そう言って、水を受け取る。

癒しの水だそうで、コップ1杯飲むだけで、元気が出てくる。

さらに、回復の魔法まで掛けてくれる。

しかも、あれだけ動いているのに、ブロスナーは全く汗を搔いていないみたいだ。

呼吸も乱れていないし、さすがはヴァルキュリア、恐るべし、である。

「ワルキュリアって、すごいな。

 身体能力も、鍛え方も、全てが。」

思わず、俺は感想を漏らした。

「オージン様にお仕えするためには、この程度は当然です。

 ですが、褒めてくださりありがとうございます。

 それと、カミヤさんもすごいですよ。

 この短時間で、最初よりちゃんと上達しています。」

「そんな実感は、全くないけどね。」

あれだけ一方的に打ち込まれた俺には、上達してる実感は、全くなかった。

「それは、残念です。

 それでも、あと半月も続ければ自覚できるのしょうけど。」

「あと半月……も、寿命は残ってないんでしょ?」

「はい、残念ながら。」

(だよね~。)

俺は、声に出さずに言う。

「そろそろ休憩は終わりです。

 稽古に戻りますよ。」

「はい、師匠。」

雑談はともかく稽古に関しては、敬意を込めてブロスナーを師匠と呼び、敬語を使っている。

師匠と呼ぶか、先生と呼ぶかでは、少し迷ったのだが……

 

 「では、ここで昼食を摂りましょう。」

そう言うとブロスナーは、再びサンドバッグになって倒れた俺を、ベンチへと連れて行った。

そして今度は、先程までとは異なる液体の入ったコップを俺に差し出す。

「えーっと、これは……」

「これは、ヘイズルーンの乳です。

 ヴァルホルでは、これを酒として飲みます。

 それとこれは、セーフリームニルの肉を焼いてパンに挟んだ物です。」

と言って、パンの入った篭を出した。

「…………」

「どうかしましたか?」

「いや、あの、昨日から思ってたんですけど、これ、どこから出してるんですか?」

昨日購入した木刀も、すぅ~っとどこかに収納してたし、今日もいろいろ出てくる。

どうなってんだ。

(ま、おかげで木刀を持って電車に乗る不審者は、演じなくて済んだけど。)

「これも、人間に詳しく教えることはできません。

 ただまあ、こことは異なる空間に収納してある、というだけは教えても問題ないでしょうかね。」

「やっぱり、詳細は秘密ですか。」

「秘密です。」

だろうね。

「それはさておき、美味しそうですね。

 いただきます。」

とりあえず、乳を飲む。

ちょっと、血の匂いがする。

肉は、ヴァルハラで食うとか言ってたヤツか?

とか思いながら、焼肉サンドを食べる。

(ぬ、うまい。)

「どうですか?」

「これ、美味いじゃないですか!

 さすが、バルハラの食材!」

ブロスナーの問いに、俺は素直に飾りも世辞もない、本音の感想を答えた。

「人間……カミヤさんの味覚にも合って良かったです。

 安心しました。」

「安心?」

「セーフリームニルを生身の人間が食べたと言う話は、私は聞いたことがなかったので。

 エインヘリャルでない生きている人間が食べて、もし味覚に、そして身体に合わなかったら、という不安です。」

「師匠、それ怖いです。」

「ヘイズルーンにも、セーフリームニルにも、毒はないので、危険は少ないと判断しました。」

(まぁ、何にでも「初めて」ってのは、あるよな。

 この国では、何かにつけ「前例がない」初めてを嫌がるけど。)

だが、俺には関係ない。

「毒がなくて美味しいのなら、細かいことはいいんですけどね。」

ふふふふふ……

ブロスナーが笑っている。

「カミヤさんなら、そう言うと思いました。」

とか話しながら食べていると、なんだか筋肉が……

俺は、食事の手を止め、腕やら体やらを触ってみた。

「何だろ、何か変だ。」

「ああ、それは、傷ついた身体が回復し、成長しているのです。」

筋肉の超回復、というやつかな?

「ちなみに、筋肉痛になる前に、回復が終わりますよ。」

「スゴイ!

 これが神の食材!」

なんか、どこぞのマンガっぽいけど、神界の食材なら納得してしまう。

「そうですね、神の食材であると同時に、死者の食材でもあるわけですね。」

死者の食材……スサノオ……日本神話……えーと。

たしか、イザナギとイザナミの話に、あの世の食事云々てのがなかったか?

「あのこれ、毒ではないけれども、生きている人間が食べるとあの世に連れて行かれたり、なんてことはありませんよね?」

「その点は大丈夫です。

 オージン様に確認済みです。」

「そうですか、安心しました。」

いつ、何のために確認したのかは、聞かないでおこう……怖いから。

 

 「今日は、ここまで!」

「ハァッ、ハァッ、ありがとうございました!」

ブロスナーの終了宣言に、俺は肩で息をしながらも礼を述べる。

ハァッ、ハァッ……

全然、息が整わない。

立ち上がるのが精一杯なので、深々と礼なんてできていない。

結局、夕方近くまで打ち合ったのに、俺はブロスナーに一本も入れることができなかった。

それ以前に、最後まで立っていられなかった。

何度倒れたことか。

「当然でしょう?

 私を誰だと思っているんですか。」

俺の心を読んだかのように、回復魔法で俺の怪我を治療中のブロスナーが言葉を放つ。

「これでも私、3000年近く生きているんですよ。」

「3000年……」

ダメだ、絶対勝てねぇ!

「ついでにお話しておきますと、ヴァルキュリヤの寿命は、人間の100倍程度と言われています。

 まだ一番最初の、「原初の9人」が誕生して5000年程ですから、断言はできませんが。

 それに、ヴァルキュリヤも戦死することもりますから、決して不死不滅の存在ではありません。

 だからこそ、子を生す必要がありますし、エインヘリャルを集めるのです。」

「えーと、いろいろ疑問はありますけど、1つだけ。

 その話は、私に聞かせても問題がない話なのですか?」

「話せる範囲でしか話していませんので、問題はありません。」

「そうですか。」

「話は変わりますけど、昼間に話したカミヤさんが上達している話、覚えてますよね?」

ブロスナーが念を押すように聞いてくるので、俺もハッキリと答える。

「もちろん、覚えています。」

「今日、稽古を始めたばかりの時には、かなり早い段階で倒れていたのが、最後には倒れるまでの時間が延びていたことに気付いてますか?

 それは、誤差ではなく、明確に上達によるものです。」

「言われてみれば、そんな気もしますけど、自分ではハッキリとは分かりません。」

「そうですか。

 それでは、この後はしっかり休んでください。

 エインヘリャルと違い、カミヤさんは生身の体なんですから。」

「はい、師匠。

 本日は、ご指導ありがとうございました。」

「お疲れさまでした。」

今度はしっかりと礼ができた。


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