2 ラーメンデート
2 ラーメンデート
ブロスナーと別れた俺は、ひとまず職場に来ていた。
正確に言うなら、昨日まで勤めていた元・職場、なのだが。
今日はちょっと、ロッカーの私物を回収に来たのだ。
ま、明日と明後日は、人手が足りないとのことなので、また出勤だったりする。
「お疲れさまでーす。」
当然だが、挨拶をして中に入る。
「お疲れさまです……って、あれ?
手伝ってもらうのは、明日と明後日だったんじゃ……?」
「ちょっと、ロッカーを片付けに。」
「あぁ、お疲れさまです。」
俺は、自分のロッカーを開ける。
まずは持参した、洗濯済みの制服をハンガーにかける。
次に、持って帰る物をかばんに入れる。
風邪薬、鎮痛剤、絆創膏、あとは……500ミリの水とバランス栄養食も1つづつ。
あと2日来るし、水と栄養食は1つづつは置いとくか……
「クッキー有るけど、食べる?」
ロッカーにクッキーも有ったので、声を掛けてみる。
「食べる~。」
食べるそうなので、1箱寄贈という名の丸投げをする。
その後、仕事上の話を少しして、俺は職場を出た。
自宅に戻った俺は、北欧神話やヴァルキュリアに関して、ネットで検索してみる。
「うーん、アイツ……本物か?
さっぱり、判らん……」
まぁ、ネット検索したところで、本物かどうかなんて分かりはしない。
ただ、空中浮遊した時のあの感じ。
香港映画ばりのワイヤーアクションも、透明なアクリル板の足場が有ったわけでもない。
それは当然の話なのだが、だからといってアイツの正体に直結もしない。
ただ、アイツ、……嘘吐いてるとは思えなかったんだよなぁ。
Wikiった感じだと、神や人間の王の娘として産まれる話が載ってたけど。
とんでもない美人だし、デートぐらいまでなら、付き合ってもいいか。
なんか、そんな気分に俺はなっていた。
万一、デートDVなんぞになったら、ボロ負けしそうだがな。
ただ、アイツが俺の何を気に入ったのかが全く分からん。
タッ、タラララン、タラララン、タラララララララ……
ター、タラララ~、ラララ~、タラララ~……♪
まずい、まずい。
いつの間にか、ガキの頃に遊んだ、ヴァルキュリアが主人公のテレビゲームのBGMが脳内リフレインしていた。
パスワード方式のアクションRPGで、かなり好きだった覚えがある。
って、そんなことはどうでもよくって!
明後日の仕事が終わったら、メシでも誘ってみるかな。
からかっているのではなく、本気なのなら、断られることはないだろう。
逆に、もし断られたら、俺と結婚する気なんてないってことでいいだろう。
アレコレ考えるのも面倒臭いし、直球勝負でいいや。
だいたい、本物のヴァルキュリアだったら、考えてもどうにもならん。
2日後、仕事帰りに例の公園に立ち寄る。
やっぱり居た。
いつもの格好で、公園の真ん中に立っている。
アイツ……普段、何やってんだろ?
まさか、ずっとあそこに立ってんのか?
一昨日、喫茶店に入った時以外、立ち姿しか見たことない。
汗臭かったりはしなかったので、ちゃんと風呂には入ってるんだろうけど、どこに滞在してるんだろ?
てか、定住してんのか?
まあいい、一先ず声を掛ける。
「こんばんは、ブロスナーさん。」
「こんばんは、カミヤさん。
お仕事帰りですか?」
「そうそう、仕事帰り仕事帰り。
それで、よければ、これから一緒に食事しませんか?」
「それはもう、喜んでご一緒します。」
ものすごい満面の笑みで返事が返ってきた。
これはもう、一先ず現段階では、俺のことが気に入ってると判断して良いだろう。
結婚が、本気なのか喩えなのかは、現段階では判別しかねるものの、金欠だから、という理由ではないことを祈るのみである。
「それはよかった。
それで、どういったものが食べたいんですか?」
「食事に誘っておいて、それを女性に訊きますか?」
「そりゃーねぇ、あいにくとワルキュリアが普段何食べてるのかなんて分かりませんからね。」
「ああ、それもそうですね。
ヴァルホルでのメインは、セーフリームニルという猪の肉を使った煮込み料理ですね。
もちろん、パンや野菜料理もありますよ。
ただ、食べたい……いえ、食べてみたいと言った方が正確ですかね、カラアゲという物とラーメンという物が気になります。」
「ラーメンと、カラアゲ……?」
思いっきり、予想外である。
「はい、ラーメンとカラアゲです。
複数の人間から言語情報を抽出した際、その2つが美味であるという情報が強く結び付けられていましたので、気になっているのです。」
………………
初回が、ラーメンデート?
いや、落ち着け。
まだこの段階では、デートにすらなっていない。
様子見の可能性を忘れるな!
「分かりました。
では、行きましょう。」
「はい。」
この時間なら、あそこが良いかなとか、居酒屋よりも安上がりだな、とか考えながら歩きはじめた。
「いらっしゃいませー!」
ラーメン屋の扉を開けると、店員の威勢のいい声が聞こえた。
そして、その声を聞いた1時間後、俺は、絶句していた……
「…………。」
「どうかされましたか?」
「あー、いえ、なかなか健啖家ですね。」
「ケンタンカ?
それは、何ですか?」
「健啖家というのは……そうですね、よく食べる人、といった意味ですかね。」
嘘は言ってないし、間違った説明もしてないが、どう説明するのが最適かは分からない。
「よく食べる人?
それに、何か問題でもあるのですか?」
俺は、首を振って否定する。
「いいえ。
むしろ、あまりに食べない人よりも良い事ですよ。」
「でしたら何故、その様なことを言うのですか?」
「そりゃあね、5人前も食べられたら驚きますよ。」
塩ラーメンから始まって、醤油、豚骨とラーメンだけで5人前。
カラアゲ4人前にナンコツ1人前、さらに餃子も3人前である。
そりゃ、驚くわ!
「そんなに、驚きましたか?」
「驚きました。
貴女がワルキュリア以外の何者にも見えないぐらいには。」
「そうですか。」
ヴァルキュリアって、こんなに食うのが一般的なのか?
「あと、箸の扱いも上手いし。」
「ありがとうございます。
お褒めに預かり光栄です。」
日本に来て日が浅いみたいな事を言っていたが、とても信じられない。
と思っていたのだが、……
「それでも、慣れない道具は、扱いが難しいですね。」
「まぁ、箸に関しては、時間が掛かりますよね。
ところで、箸の使い方に関しても、言語情報と一緒に人間の記憶から抽出したのですか?」
「そのとおりです。」
ヴァルキュリアって、やる事がコワイなっていうか、エグイな。
ラーメン、1000円×4杯=4000円
替え玉、 500円×3玉=1500円
ギョウザ、 500円×4皿=2000円
カラアゲ、500円×5皿=2500円
飲み物、 800円×6杯=4800円
合計、2人で14800円?
ラーメン屋の値段じゃないよね?
こりゃ、ファミレスならどうにかなるかもしれんけど、ちょっとお高いお店になると、もう無理だな。
そんな俺に負けず劣らず、お会計してくれた店員さんも驚いていた。
わざわざ、内容を確認した程度には。
ま、お会計の話はおいといて、これだけ食べたってことは、ラーメンやカラアゲが気に入ったってことだろう。
食事中の表情も穏やかだったし。
よかったよかった。




