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兄妹は仲良しな忍者!

作者: チャンドラ

 忍者ーー数こそあまり多くないがこの世界で確かに存在する職業である。

 もちろん、大変な職業である。いや、楽な職業なんてそうそうあるとは思えないけど。

 たくさん立ち並んだ高層ビル、疲れ切ったサラリーマンがいっぱいのこの東京にも忍者が潜んでいる。

 何を隠そうこの俺、琴宮阜ことみやつかさも忍者として働いている。

 今日は最新施設が兼ね備えられた東京城に来ていた。

 俺の雇い主である『姫様』に呼ばれていたのである。

「あなたに仕事を与えるわ。大阪城にある忍術に関わるデータを盗んできて欲しいの。はい。これ」

 俺は姫からUSBを渡された。

「姫様。すごいざっくりとした指示ですが具体的にどうしたら?」

 姫である徳川亜希子とくがわあきこは考え込んだ。姫は俺と同じ十七歳であるが、同い年とは思えないくらい仕事ができる。

 また、人形のように可愛らしい容姿をしており、メディアでも取り上げられているほどである。

「えーっと、大阪城のどっかのパソコンにデータがあると思うからそれをちょちょいと獲ってきて欲しいのよね。あなたなら楽勝でしょう?」

 意地悪そうに姫が微笑んだ。東京と大阪は仲違いしており、たまに向こうが攻め込んでくることがあった。

 なんでも、大阪の殿は大阪を日本の首都にしたいらしい。

「はぁ、買いかぶりすぎですよ。まぁ頑張ります」

「ええ。頑張って。成功したら私とデートしましょ?」

「いや、普通に給料振り込んでください。それに、仮にも姫なんですから庶民の俺とデートなんてしたらメディが黙ってませんよ」

 すると、姫ははぁ......とため息をついた。

「全く、本当堅物ね。阜くんは。そんなんじゃ彼女できないわよ」

「余計なお世話です。それじゃ任務に行きますね」

 俺は東京城を後にした。

 快適な温度に設定されていた東京城とは違い、外はじわじわと蝕むような暑さだった。

 セミはうるさいくらいに合唱のように鳴き続け、太陽はどうだと言わんばかりに日差しを放ち、アスファルトを温めつづけ、より東京の暑さを加速させた。

「あっちーな......」

 俺は電車に乗り家へと戻った。電車の中は冷房がそれなりに効いていたが、なにぶん人が多いためあまり涼しくなかった。

 池袋駅を降り、歩くことおよそ五分自分の家へに着いた。築三十年の木造の家はところどころ傷んでいた。

「ただいまー」

 玄関を潜り、リビングに入った。

「おかえりー! お兄ちゃん! 今日、あっついね!」

 俺の妹の琴宮恵梨香ことみやえりかは下着姿でソファーに寝っ転がりながらパタパタとうちわを仰いでいた。

「お前......なんつー格好してんだ」

 恵梨香は俺の一つ下で十五歳になる。もう年頃なのに女性らしさを置き去りにして来た感が半端ない。

「だってあっついんだもん! いいじゃん! お兄ちゃん以外誰もいないし!」

 言っても無駄だと思った俺は早速、本題に入ることにした。

「まぁいいや。それよりも恵梨香。任務だ。大阪に行くぞ」

 恵梨香も俺と同じく忍者である。こういっちゃ何だが俺より恵梨香の方が忍者の素質がはるかに高い。

 大阪に行くと聞いた恵梨香は銀色のアホ毛が立ち、口元をニンマリとさせた。

「よっしゃー! 大阪大阪! 大阪にーはー美味いーもんがーいっぱいあるんやでー!」

 歌いながら恵梨香は自分の部屋に戻り、身支度を始めた。




 俺と恵梨香は新幹線で大阪へと向かった。

 東京と大阪は敵対状態ではあるのだが、普通に行き来することができる。

 こっちも向こうも、攻撃を仕掛けるのは城のみで他は攻撃しないという暗黙のルールを決めていた。

「お兄さん、着いたらたこ焼き食べていい?」

 麦わら防止に白いワンピースを来ている恵梨香が訊いた。恵梨香は見た目は悪くないため白いワンピースがさまになっている。

 外出するせいなのか普通におしゃれしてきたようである。

「仕方ないな。それしても、そんな動きにくそうな格好で大丈夫なのか?」

 ちなみに俺はジャージを来ている。これは動きやすさ重視である。

 忍者は一般人に溶け込まなければならない。ジャージは動きやすさ、一般人に溶け込みやすさともに最高の服装である。

「うん、ちゃんと私もジャージを持って来たからね」

 ドヤ顔を俺に見せて来た恵梨香だった。

 新幹線に乗ってからおよそ三時間後、大阪に着いた。

 この日は恵梨香と一緒に道頓堀でたこ焼きを食べ、ホテルにチェックインした。


 次の日。

「おー! ここが大阪城かおっきいねー!」

 俺たちは大阪城の前へと訪れた。もちろんジャージ姿である。

 観光客と思われる人たちはパシャパシャと高くそびえる大阪城を撮っていた。

「お兄ちゃん、一緒に大阪城を背景に写真撮ろう!」

「全く、しょうがねぇな......」

 俺と恵梨香はピースをして、写真をした。

 今から任務だというのに俺は一体、何をしているんだろうか。

「お前、念の為言っておくが、SNSにあげるなよ!」

「えー! そんなぁ......」

 俺が言わなければあげるつもりだったのか、こいつ。

 気を取り直して大阪城の入り口に目をやった。見張りが二人いる。

 見張りはいかにも忍者のような黒い装束を来ている。

 大阪城は入るには入門証がなければ入れない。

「お兄ちゃん、どうやって入るの?」

 恵梨香は訝しんだ様子で俺を見た。

「正面突破しかないな」

「えー!」

 恵梨香は非難の声を上げたが俺はバッグの中からある物を取り出した。

「ほら、これを着るんだ」

 見張りが来ているのとそっくりの装束を渡した。

「うわー暑そう」

「任務を終えたらすぐ脱げるようにジャージの上から着るんだぞ。それじゃ、俺はトイレで着替えてくるからお前も早くしろよ」

 そして、俺はトイレに向かい、着替え終えると恵梨香と合流した。

「お兄ちゃん、全然似合わないね」

「ほっとけ、そんじゃ行くぞ」

 門を目指し、ゆっくりと俺たちは歩いた。見張りは俺たちの姿に気づいたようだった。

「止まって」

 見張りのうちの一人が話しかけて来た。

「入門書見せてくれる?」

 俺は見張りのうちの一人に手を翳した。

「忍法、『催眠の術』」

 俺の忍術にかかった見張りは気を失い石の壁にもたれこんだ。まぁ、眠らせられる時間は短いのだが。

「き、貴様! 曲者か!」

 もう一人の見張りが腰に刺さっている刀に手をかけた。

「あらよっと!」

 恵梨香は見張りに手刀を決めるとバタッと気絶した。白目を向いて泡を吹いている。こっちはしばらく起きそうにないな。

「よし、入るぞ」

「うん」

 大阪城に中に入ると、展示会のように色々な武器が飾られていた。普通に自動販売機や売店もあり、割と庶民的に感じだった。

「ねぇ、お兄ちゃんどこの部屋に向かうの?」

「殿様の部屋だ。そこに目的のデータがあると思う」

 なにせ重要なデータである。そこが一番怪しい。

「そっか、どこだろうね。殿の部屋は」

 俺は奥にあるエレベーターに目がいった。

「よし、あれに乗ろう」

 恵梨香に提案し、エレベーターに向かった。中に乗り込み、最上階のボタンを押す。

「そういえば、最上階に殿様の部屋があるの?」

「多分な。偉い人は高いところにいる気がする」

「ええー適当だなぁ......」

 恵梨香は呆れたような顔をした。

 すると、ピンポーンという音が鳴り響いた。ウィーンと扉が開く。

「降りるぞ」

 扉を出て、少し進むと殿の部屋という木でできた表札が目に入った。

「本当にあった......」

 恵梨香はポカーンと口を開けた。

「ラッキーだったな。早いとこ、済ませてしまおう」

 金属の扉に手をかけるが、ドアノブをガチャガチャと動かすが開かなかった

「ダメだ、鍵が掛かってるな」

「何か用かー?」

 殿様と思われる声が聞こえて来た。

「しゃーない、ここは力づくで! 忍法、『火炎の術』!」

 炎の球を作り出し、扉へ放った。しかし、大きな音が響くが、扉は少し焦げただけでこじ開けることはできなかった。

「うわ! なんだだんだ!」

 扉に何かされているという異変に気づいたのか、殿様が声を上げた。

「やばい、時間がない、恵梨香頼む!」

「分かった」

 恵梨香は頷き、扉の前へと移動し、顎を軽く引き、体勢を整えた。

「オラァ!」

 バン、金属の扉が奥へと倒れ込んだ。さすがの怪力である。

「うわぁ! なんだ、君たちは!」

 俺はすぐさま殿様に近づき、忍術をかけた。

「忍法、『催眠の術』」

 バタンと殿様が寝転んだ。そして、殿様が操作していたパソコンにUSBメモリを差し込み操作する。

「お兄ちゃん、早くしてね!」

「分かった。気が散るからあんまり急かすな」

 俺は無心でパソコンのキーボードを叩き続けた。

 しばらくすると、六人の忍者がこの部屋に駆けつけて来た。

「あ、あいつらです! 侵入したのは! あ、殿が倒れてる! あいつら、まさか......」

 見張りに一人と思われる男が俺たちを指差した。

 くそ、もう気づかれたか。

「安心しろ。気絶させただけだ。恵梨香、時間稼ぎ頼む」

「任せて!」

 恵梨香はブンブンと腕を振り回した。

「お前ら! 容赦はするな! 行けー!」

 リーダー格の人が叫ぶと、五人の忍者は刀を片手に恵梨香に迫った。

「オラ! くらえ! ふん!」

 恵梨香は敵に対して、パンチ、蹴り、金的など容赦なく攻撃し、倒していった。

 残りはリーダー格の忍者ただ一人である。

「やるな、貴様。この風磨小太郎様ふうまこたろう様が相手をしてやろう」

 風磨小太郎と名乗る右目に傷のおった忍者は手裏剣を取り出した。

「喰らえ!」

 三枚ほど、恵梨香に投げて来た。かなりの速さである。

「ふん!」

 恵梨香は持っていた刀で手裏剣をはたき落とした。

「ならば、これならどうだ! 忍法、『分身の術』!」

 ドロンと小太郎が二人になった。

「ぶ、分身の術? 初めてみた......」

 恵梨香は口をパクパクとさせている。俺も分身の術の使い手を会うのは初めてである。なんでも、すごい難しい術らしく取得者がほとんどいないらしい。

「くらえ!」

 二人がかりで手裏剣を投げてきた。恵梨香は懸命に手裏剣を防いだが、

「く......」

 一枚の手裏剣が恵梨香の腕に命中したようで、血が流れていた。

「あはははは! 降参するんだな。さもなければ命は......」

「忍法、『超速移動の術』」

 俺は二人の小太郎のうちの一人の前まで移動した。

「き、貴様......いつのまに」

「オラ!」

 俺はアッパーカットをお見舞いしてやった。攻撃したのは分身だったようで、ドロンと消えた。

「この!」

 本体の方の小太郎が刀を振り落として来た。

 後ろにバク転ながら、俺は手裏剣を投げた。

「うわー!」

 手裏剣は小太郎の刀を握っていた手に刺さり、小太郎は刀を床に落とした。

 俺は小太郎の背中に触れ、

「さてと、そろそろ終わりにするか。忍法、『束縛の術』」

 相手を動けなくする忍術をかけた。

「か、身体が......痺れて動けない!」

「よし、恵梨香とどめをさせ!」

「分かった!」

 恵梨香は口笛を吹きながら、小次郎に接近した。

「や、やめろ! お前ら、何なんだ!」

 風磨小太郎は俺たちの正体を尋ねた。


「俺たちは兄妹の」

「忍者だよっと!」

 恵梨香は小太郎に金的を決めた。

「が.....!」

 小太郎は強烈な恵梨香の金的によって気絶した。

「さーて、ハッキングの続きをするか」

 再びハッキングを始め、およそ一分後にようやくデータを取ることができた。USBを抜き、ポケットにしまいこんだ。

「よし、終わった。脱出するぞ!」

「うん! よーし、行くよ! お兄ちゃん!」

「え? おい!」

 なんと、恵梨香は俺をお姫様抱っこし始めた。

 恵梨香はそのままこの部屋の窓へと突っ込んだ。バリンと窓が割れ、破片が空中に飛び散った。

「うわぁぁぁぁ!」

 ものすごい速度で俺たちは落下している。大阪城はなかなかの高さである。普通に飛び降りればいくら恵梨香でもさすがにただでは済まない。

 着陸直前で恵梨香が叫んだ。

「忍法、『空中浮遊の術』!」

 ふわりとと恵梨香の身体が浮かび、ゆっくりと着陸した。

「はぁ......死ぬかと思った」

「すごいでしょ? うちの忍術」

 恵梨香が微笑んでいる。

「ああ。でも正直、怖かったぞ」

「もう、怖がりだな。お兄ちゃんは」

 馬鹿にするように言ってくる恵梨香だった。

「けど......さっきはありがとう。少しカッコよかったよ......」

 顔を赤くさせていう恵梨香だった。さっきのというのは、小太郎に攻撃した時だろうか。

「気にするな。それじゃ、帰るか。東京に」

 俺は黒い装束を脱ぎ、ジャージ姿に戻った。すると、恵梨香は不満そうな顔をした。

「えー、もうちょっと観光しようよ。通天閣とか新世界とか」

 もの惜しげそうに恵梨香がねだって来た。

「全く、しょうがねぇな」

 そういうわけで、その後、俺たちは一緒に旅行を満喫するのだった。
































































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