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真・恋姫†夢想~朱霊伝~「六人目の大将軍」  作者: 羅貫厨
2章・歌姫+黄巾=乱
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~黄巾の乱~戦場に掲げた大義と理想

朱霊と波才さんの戦いは2話くらいに引っ張ろうかなと思ったのですが、弛れちゃいそうだったので1話で終わらせました。

駄文ですがお付き合い下さい。

「はあああああ!!!」


「うおおおおお!!!」



 翻る剣閃が幾重にも重なり合い火花を散らす。


 鐙の無いこの時代。


 騎乗状態での一騎打ちは上半身の強さが物を言う。


 朱霊は波才に対し、騎乗状態での戦闘経験の差で遅れを取っていた。


 剣速では朱霊が上回るものの、上手い具合にいなされ斬り返される。


 馬術に於いて波才の技量が朱霊を上回っている訳ではない。


 むしろ朱霊より低いくらいだろう。


 だが、馬上での戦闘経験が剣速や技量を上回り、互角以上の戦いを可能とさせていた。


 そして遅れを取っている状況には波才の戦闘経験以外にも要因があった。



 それは朱霊の『戦闘スタイル』である。


 現代にいた時から今に於いて朱霊は剣術を修めて来た。


 地上戦に於いて剣を振らせれば朱霊の武は遺憾無く発揮されるだろう。


 だが、騎乗した状態に在って地に足の着いていない朱霊は上半身と腕の力を効率良く扱えず一撃離脱を前提とした戦い方を是としている。


 朱霊は元々馬上での一騎打ちをほぼ想定していない。



「威勢は良かったがこの程度か?」



 波才が皮肉の言葉を投げる。



「その言葉は俺を殺してから言えよ!」



 言葉を返すと共に剣を振るう。


 朱霊は押されながらも『ある機会』を伺っていた。



「一番勢いのある義勇軍の大将であるお前の首を穫れば、元々士気の下がっていた官軍や諸侯は瓦解する!わざわざ誘いに乗ってくれて感謝するぞ!」


「もう俺に勝った気でいるつもりか!?馬鹿だなお前!!」


「その程度の腕でノコノコ出て来たお前が言える事か!?」


「だからそう言うのは俺を殺してから言えよ!!」



 剣と剣がぶつかり火花を散らす中、交わす言葉でも火花が散る。



「小僧!殺す前に聞いておいてやる!何故、漢を救わんとする俺達の邪魔をする!?お前はこの腐敗した世を嘆かわしいとは思わないのか!?」



 ―――来た!


 待ち望んだ展開が訪れ、朱霊の口元が僅かに吊り上り歪む。



「俺の目的は儒教により腐敗した漢を滅ぼす事だ!漢を救わんとするお前は俺にとって邪魔なんだよ!だから殺す!!」


「―――なんだと!?」



 波才は朱霊を迷わせようと揺さ振りを掛けたつもりだった。


 だが、朱霊が口にした漢を滅ぼすという思いも拠らない言葉の反撃に波才自身が動揺してしまった。



「――死ね――」


「くっ!!??」



 動揺した波才の首を目掛けて朱霊の剣閃が翻り、慌ててなんとかそれを凌ぐ。


 次の瞬間―――






 朱霊が波才の操る馬の首を刎ねた―――



「なっ!?まさか!!??」



 首を失った波才の馬が崩れ落ち、そのまま大地に投げ出される形となる。


 朱霊も馬から飛び降り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべゆっくりと剣を肩に担いだ。



「お、お前正気か…!?一騎打ちの最中に相手の馬を傷付けるなど…!?」



 余りの事態に波才の思考が掻き乱される。


 この波才の混乱は当たり前の事だった。


 この時代、一騎打ちに於いて相手の馬を傷付け勝利を得るという行為は恥とされ、忌み嫌われている事だ。


 それを平然とやって退け、剰え不敵に笑みを零している。


 ここに来て波才は朱霊が持つ異質さに恐怖した。


 朱霊が一騎打ちの途上で波才の馬の首を刎ねたをの見てしまった周りの兵達も、余りの事に殺し合いの最中であるにも関わらず動きを止めてしまっている。



「正気か…、ね。俺は正気だが?お前をさっさと始末すればその分失われる自軍の兵の命が救える。至って合理的だろう?」



 朱霊は剣の腹で肩を叩きながらゆっくりと波才の元へ歩を進める。



「…っ!お前は恥を知らんのか!?卑怯者め!!」



 睨み殺さんばかりに朱霊を睨み罵声を浴びせる波才。



「名を惜しんで目的が達せられないのなら、名を捨てるさ。お前は名を惜しみここで死ぬ。それだけの話だ」


「お、お前は…、お前は一体何の為に戦っている!?」


「…殺される側がそれを聞いてどうする?お前の問いは無意味だ」


「…ちっ!!」



 波才は自身が追い込まれた事を理解し、剣を構えた。


 馬上に在った時とは違い、朱霊に隙を見い出せない。



 波才は朱霊が最も得意とする地上戦に引きずり込まれたのである。


 加え、朱霊の常識外れな言動と行動に精神的な揺さ振りを受けた波才は判断力を奪われ、絶対的に不利な状況へ追い込まれていた。



「来い、波才。ここがお前の墓場だ」


「…っ!うおおおおおおっ!!」



 朱霊の挑発を受け波才が大地を蹴った。






「ここで私は何をしているのかしらね…」



 朱霊と波才の戦闘を目に曹操の口からポツリと独り言が零れる。



 張邈軍の指揮下を離れた曹操軍は義勇軍の右翼と共に水を得た魚の様に奮戦。


 隔離した黄巾軍右軍を圧倒的な強さを以て撃破し、黄巾本体を急襲しようとした。


 そこで見えた物が朱霊と波才の一騎打ち。


 僅かに押されていた朱霊が波才の馬の首を刎ね、地上戦へ移るのを静かに見ていた。



「ちっ!志牙の奴!馬を傷付けて優位に立とうとは情けないことを!!」



 朱霊の行動が気に入らなかったのか、夏侯惇が憤慨している。



「落ち着け姉者。馬を傷付けた事は褒められた事ではないかもしれないが、憤っても仕方あるまい」



 夏侯淵が夏侯惇を宥めに掛かるものの、



「違う!私だったら馬ごと敵将を叩き伏せている!!」



 憤慨しているベクトルが変な方向にズレていた。


 ギャアギャアと騒いでいる夏侯惇を気にも留めず曹操の視線は朱霊と波才の戦いに釘付けとなっている。


 黄巾党の首領である波才との戦い。


 この勝敗が戦の命運を握っていると言っても過言ではない。


 ましてや天下の行く末を左右しかねない戦いだ。


 その場に彼女自身が立っていない事が恨めしく思えた。




『漢を滅ぼさんとする朱霊』と『漢を救わんとする波才』




 彼らの姿は曹操にとって天下を論じる【王】のソレであった。




「まだ漢は終わっていない!漢の腐敗を取り除けば世は変わる!!」


「ベラベラと良く吠える!変えられると思うのなら先ず俺を殺す事だ!」


「お前は何様のつもりだ!?理想も持たない小僧が偉そうに!!」


「全く、丁遠志といい、お前といい自分に酔うのもいい加減にしろ…!」



 剣撃に依る火花を散らし激闘を繰り広げていた朱霊と波才。


 信念を貫かんと言葉を荒げ、剣を振りかぶった波才に朱霊の侮蔑する様な冷たい視線が突き刺さった。



「――なにっ!?」


「もう吠えるな波才!お前はただ自分の理想に酔っただけの道化だ!」


「誰が道化だ!!信念も誇りも持たぬ小ぞ――っ!?」


 なんの予備動作もなく一足で懐に飛び込んで来た朱霊の動きに反応出来ず、振り上げた剣を慌てて振り下ろす波才。


 朱霊はその一撃を剣を寝かせ頭上で受け止め、交わった剣を軸に一回転しそのまま波才の首を狙い薙ぎ払った。



「…綺麗な理想を掲げてさぞ満足だっただろうな波才。殺し合っている相手に理想を語って共感が得られるとでも思ってたのかコイツは」



 首を失い後ろへ倒れる波才の身体へ目をやる朱霊の視線はまるで氷で出来た刃の如く。



「戦争をやってるんだ。大義や理想で殺しを綺麗に飾るなよ。…首だけの奴に言っても仕方ないか」



 転がっていた波才の首を掴み、曹操陣営に足を進める。



「首があれば華琳の手柄になるかなぁ?…いらないとか言われたらどうしよう?」



 プライドの高い曹操がただで受け取ってくれるか分からず首を捻る朱霊だった。






「志牙の奴!あんなザコにチマチマと時間を掛け過ぎだ!」



 夏侯惇はまだ憤慨していた。



「…天下の行く末を占う戦いにしては奸雄(志牙)の相手が小物過ぎたかもしれないわね」



 ゆっくりと近付いてくる朱霊を見やり、小さく笑みを零す曹操。



(志牙。私はただであなたを迎え容れるつもりは無くなったわ。いずれ私が覇王として奸雄(あなた)を飲み込んでみせるわ)



 自らが欲した男の【王】としての素質。


 それが覇王と称された少女の心に火を灯した事を奸雄と称された男はまだ知らない―――

黄巾の乱編は次で終わります。

次回は9/9に投稿予定です。

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