〜黄巾の乱〜肉と政と一族最強の武
実は結構前からシナリオに関わるかなり重要な伏線が既に張られております。
もう何話かしたら伏線が回収されますのでお楽しみに~。
ついでに何進さんの立ち位置が大幅に変わりました。
蒼天の覇王未プレイ時は【何進魔王化計画】という何進を史実の董卓の様にする変な構想を練ってましたが没ネタになりました。
傾さんが素敵過ぎて暴君に出来る訳が無い!
※この物語の何進さんは羅貫厨の補正を受けています。
董卓が招集を受けるより前に時は少し遡る。
~洛陽~
ジャラジャラ…チャリン…カチャカチャ…
サラサラ…コトッ
ジャラララララ…カチャカチャ…
サラサラ…コトッ
ジャラジャラ…カチャカチャ…
「はぁ…」
サラサラ…コトッ
艶やかな唇から思わず溢れるはため息。
健康そうな褐色の肌に黒く長い髪を一つに束ねた女性が贈られたきたであろう賄を数えその額を書簡に記入していく。
「全く、この国はどうなっとるのだ…」
愚痴も出よう。
漢という国の財政は火の車だった。
民から徴収された税は汚吏官吏の横領により規定額に全く届いていない。
そしてその横領した税を賄賂として彼女に贈って来る者が後を絶たない。
彼女は元々ただの肉屋だった。
妹や弟と共に切り盛りし、毎日が楽しく充実していた。
彼女には野心があった。
肉屋として肉で天下を獲るという野心が。
それがいつの間にか宮中で銭を数えている。
「なんでこうなった…」
事の発端は一人の宦官が彼女の経営する肉屋を訪れた事。
「霊帝陛下がこの店の肉をとてもお気に召したとの事。至急参内せよ」
この言葉が彼女の運命を変えた。
皇帝に認められたとあれば皇帝御用達の肉屋として天下を獲れると妹や弟と喜んだもので、嬉々として参内した。
もしこの時、彼女一人で出向いていたら今頃は肉屋を切り盛り出来ていたかもしれない。
彼女は妹と共に参内したのだが、それが取り返しのつかない失敗だった。
妹が霊帝に気に入られ皇后として侍る事になり、彼女もまた外戚として侍中に収まる事になってしまったのだ。
「なんと非生産的な…女同士で世継ぎをどうするつもりなのだ…?」
かつてそんな事を思った事もある。
しかし、妹が皇后になってしまったものはなってしまったでいまさら仕方がない事である。
それ以上にこの国には大きな問題があった。
彼女が侍中として政に関わる様になってからわかった事。
――この国は金がない。
民から徴収した税は横領され殆どが国庫に入らない。
侍中として霊帝に侍っている彼女に賄賂として横領された税が入ってくるのである。
元が経営者であった彼女にとって赤字経営が許せるはずもなく、自らに贈られた賄賂を国庫に納める事でなんとか国費を回すという策に出た。
本来ならば税を横領し賄賂を贈っている輩を除けば良いのだが、人数が多過ぎて政務が立ちいかなくなるだろう。
故に排除するにも排除出来ない。
不正を咎め敵を増やせば回せる物も回せなくなる。
賄賂として贈られた税を彼女が国庫に納めているうちは国は回る。
肉屋の女と陰口を叩きながら尻尾を振って賄賂を贈ってくる佞臣達。
清濁を合わせて飲まねばやっていけない。
故に国の為、仕方無く賄賂を受け取る。
そしてその賄賂を国費に充てるという意味があるようで意味の無い作業を延々と繰り返す毎日。
侍中になってから三年。
肉も満足に触る事も出来ないでいる。
「…肉屋に戻りたい…」
ぽつりと口から願望が漏れる。
そんな彼女の名は……、
『何進。字は遂高。真名を傾』
後の大将軍である。
「姉様。入るわよ」
ふと背後から声を掛けられ振り返ると清楚な美女が部屋に入ってくる所だった。
「瑞姫か…どうした?」
「色々と報告しなきゃいけない事案があるのよ」
瑞姫と呼ばれた美女の表情は硬い。
彼女こそ何進の妹であり後宮の最高権力者とも言える何太后その人である。
「十常時が無理難題を吹っ掛けてきたか?それとも中常時か?」
何進は視線を賄と書簡に戻し、興味無さげに言葉を吐き出す。
妹の表情が硬いという事は碌な話ではないだろう。
「宦官絡みの話もあるわよ。あまり良くない話、悪い話、凄く悪い話、最悪な話とあるけど…どれから聞きたい?」
提示された選択に良い話という選択が無いあたりがこの国の実情を物語っている。
「聞きたいとは思わんが、そういう訳にもいかんか…最初から全て話せ」
「ええ、じゃあ先ず一つ。黄巾を着けた賊の首謀者が波才という人物だと判明したわ。追随してる軍勢は40万を超えるみたいね」
「そうか…戦になるな」
只でさえ金が無い現在。
金が掛かる戦は大きな痛手になる。
真面な装備や糧食を準備出来るとは思えない。
一つ目でコレなのだから残りを聞くのも嫌になろうとも。
「二つ目。黄巾と繋がっていた中常時と官臣、それを扇動したとして馬元義という男が処刑されたわ」
「そうか…」
ぎりっと握られた拳に力が入る。
つまり朝廷内部にまで黄巾の手が伸びているという事か。
恐らく汚職に塗れた現朝廷の在り方に不満を持っていたであろう忠臣達が処刑された事になる。
まあ、最も忠臣だけでは無いだろうが。
処刑された忠臣達を死に追いやってしまったのは何進の落ち度とも言えるだろう。
上手く立ち回れていれば彼らと連携し、内部から腐敗を浄化出来たであろうに。
仕方無くとはいえ、賄賂を受け取り汚職に関わってしまった何進自身が忠臣達と折り合いが着けられたかは分からないのだが…。
「三つ目。処刑に連座して扇動に加担していた可能性があると見做された民が千人程、老若問わず処刑されたわ。関係の無い民もいたでしょうね…」
「宦官共め…。民をなんだと思って…「宦官達はその処刑を姉様の名を使って行ったのよ」」
「…は…?」
言葉を失う。
よりにもよって宦官達は何進の名を使い彼女に責任を押し付けたのだ。
「謀られたか…。黄巾を鎮められなければ危ういな…」
十常時や佞臣達の策謀。
黄巾に対する全ての責を何進に被せる為の布石。
その一手が今回の処刑劇なのだろう。
失敗すれば失脚どころではない。
下手をすれば妹や弟まで危険に晒す事になる。
「それから最後に…これは私達にとって最悪な話になるのだけど…」
言い淀む瑞姫。
重く閉じそうになる口を呟く様に開く。
「…凱が黄巾側に居るの…」
「なんだと!?」
妹の口から吐き出された言葉に驚きガタッと音を立て立ち上がる。
凱と呼ばれた人物。
その名は『何儀。字を遂徳。真名を凱』
何一族の男で一年程前まで潁川の太守を務めていたが、義侠心の強かった彼は朝廷の腐敗を理由に宦を辞していた。
彼は曰く、虎を絞め殺した、素手で熊を殴り殺した、二千を超える山賊を一人で蹴散らしたなど武勇伝が凄まじく、何一族で最も優れた猛者と言われた漢である。
彼をよく知る何進が驚くのも無理はない。
何一族最強の武は黄巾の旗の元、波才の幕下にあった。
「この事を十常時共は知っているのか?」
「分からないわ…でも知られていると思った方が良いわね」
「このままでは我々も疑われてしまう可能性が高いな。
仕方無い…。三傑に動いて貰うしかないか…。
瑞姫、使いを出せ。それから涼州の董卓も呼べ。アレの下には飛将呂布がいる」
的確に状況を把握し最善の手を導き出す。
「凱を討たなければならないの?」
「何儀という猛者が敵に回ったのならば討だねばならないだろう。敵に回したくはなかったが…。アレをなんとか出来るのは飛将くらいだろうよ」
「でも…」
「言いたいことはわかる。だがそれでも我らは漢の臣下だ。朝敵に情けをかける訳にはいかぬ」
妹の言葉を切って捨てる。
「瑞姫。使いを出すのを忘れるなよ」
「……」
そう言い残し妹を置いて部屋を出る。
「兄……」
俯き呟かれたその一言にどれだけの想いがこめられていたのか。
それは彼女以外に知る由はない…。
次回も洛陽でのお話です。




