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恋するお嬢様と召使いのはなし

作者: 狸路鯉

 私には婚約者がいる。何を考えているのかわからないし、いつも上の空。遠いどこかを見つめて、哀しそうな顔をするの、一人で。

 私はそんな彼を抱きしめたいけれど、その傷に触れたいけれど、それは許されないことだから、いつも目をそらす。


 だからこそ、こんな異常事態に何よりも戸惑っている。いつも上の空で、わたしを見てくれなくて、遠いどこかに思いをはせる彼が、たった一人の、留学生に目を奪われているのよ。


 どうしてそんなに泣きそうなの? どうしてそんなに嬉しそうなの? どうしてそんなに留学生を見つめているの?


 聞きたいことはたくさんある。喉元までせり上がった言葉は、カクテルで胃へと押し戻した。胃が焼けるように熱く、熱気でむせかける。


 ねぇ、私が隣で顔をうつむいていても気づかない酷い人。あなたは何を考えているの?


「留学生よ」

「そ、そうなのか。美しい、人だな」


 そんなことないわ。普通の人よ。普通の人。髪は綺麗だけど、それだけの人よ。私の方が可愛いわ。私の方があなたのことをわかってるわ。だから、私を見てよ。


 シャンデリアの光は、彼女よりも、私に輝いているわ。ねぇ、目が眩んで私が見えないのかしら。なら、その目をこの両手で隠して、私に触れさせてあげるわ。


「疲れちゃった。すこし、休憩しましょ」


 思いっきり袖を引っ張って、連れ出した。薄暗い中庭。さらに瞬く無数の星。あの子より、この夜空の方が綺麗ね。


「すこし、肌寒いわ。……けど、素敵な空。みて、はくちょう座。昔、二人でずっと夜の空を見上げたわね。あのあと、私が風邪をひいちゃって、あなたは怒られたのよね」


 たくさん、たくさん、思い出はあるのに。あなたと二人っきりの思い出はたくさんあるわ。けど、キスはおろかデートもしたことないって、どういうことなのかしら。

 そうやって、冷めた目で空を見上げているけど、本当は留学生をみていたいのでしょう? あわよくば、お話を、なんて考えてるんでしょう?


「寒いなら、中に入ろうか。君は寒がりだから」


 ここは、その外套を優しく私の肩にかけるところよ!! ばかっ!

 なんでこの人はこんなに鈍いんでしょう。ぼんやりぼやぼやしちゃって、どこみてるかわかんないし、そのくせ、留学生に目を奪われるし。


「そうね。……もう、帰るわ」

「なら送るよ」


 なんて、鈍い人。なんて、ひどい人。なんて、悪い人。なんて、バカな人。その頭、引っ叩いてしまおうかしら。



 頭の中でぐるぐる回る。彼と留学生の笑顔。どうやって、彼は留学生に近づいたのかしら。そして、私を差し置いてなぜ留学生は彼の笑顔を向けられているのかしら。ふしぎだわ。


「お、お嬢様……! 扇子が! 扇子が折れてしまいます!!」

「おだまりっ!! こんなもの、こんなものっ!!」

「扇子を! 踏まないでください!」


 オロオロと慌てる従者を尻目にため息を吐いた。すかさず、扇子を拾い上げて傷を確認する甲斐甲斐しさ。

 なんだかんだ言って、冷静な我が従者が憎い。


「ねぇ、恋話しましょ。一方的に私の話を聞きなさい。耳を傾けなさい、傾聴なさい」

「えぇー、お嬢様、婿殿をべた褒めするだけじゃないですか……」

「う、うるさいわね!! 今日は、違うの! ……違うのよ」


 だばぁぁ、と机に突っ伏して、おいおい嘆く。仕方ないと観念した従者は優雅に席に着いた。


「さっすが、私の祐樹ね!! ものわかりがいいわ!  さ、話を始めましょう! 始まりは私が五歳の時よ……」

「……また、5歳からですか……」



 初めて会った時に私は恋に落ちたの。お転婆な私は庭を走り回って、こけてしまった。泣いてる私を慰めてくれた彼。一瞬で恋に落ちた。許嫁なんて話は持ち上がってなかったけど、それはまぁ、小さな私が頑張ったわ。

 恋にまっすぐで、恐れ知らずで、なにも知らなくて、小さな私は彼を知らなすぎた。


 気づいたのは十歳のとき。彼は本を読んでた。私は少し退屈で、彼の服の袖をツンツンして遊んでた。べったりと彼にくっついて満足していたわ。

 本を読み終わって、私は彼の手を引っ張って、庭に連れ出した。

 咲き誇る大輪のバラと大きな噴水。綺麗に舗装された小道。美しい庭を自慢したかったのよ。

 きっと、深く印象に残っていたのでしょうね。彼の目は、地面に咲いた小さな花に。名前のないような、雑草に釘付けだった。


 腹立たしいったらないわ。だって、こんな花に私のバラが負けるなんて、ありえないでしょう? けどまぁ、いいの。彼だから。彼は、その花に価値を見いだす理由があるからいいの。

 理由? そんなの知らないわ。けど、あるのよ、それはわかる。それで十分だわ。


 祐樹、お茶を入れてちょうだい。それとお菓子も。


 そんな雑草に目を奪われた彼は泣いたの。静かにね。子供の泣き方じゃなかった。

 私は呆然とそれをみていたわ。だって、どうすればいいかわからなかったもの。それに泣くのを邪魔してしまえば、彼はもう二度と泣かない気がしたの。そんなの、ダメよ。

 今思えば、これはただの独占欲ね。私は嫉妬深いもの。


 だから、泣き止むまで待ったわ。薔薇を見ながら。どれだけ時間が経ったんでしょうね。気がつくと彼が隣にいて、私はただ「キレイでしょう? 私のためにあるの」といったわ。案の定彼は上の空だったし、ぽかんとした顔で「いいね」とだけ。そんな言葉しか言えない彼は野暮ったいし、それ以上にそんな言葉に満足してる私はただのばかよ。


 私は彼の底知れない苦しみがあることをしった。彼はきっと、すでにあの頃には大人だったの。


 高校に入ってからは会えなくて大変だったわ。だって、全寮制だし、帰省できるのは長期休暇だけだったし。

 毎日会いたくて仕方なかった。面白くないクラスメイトとの会話も値踏みするような視線も一人っきりの寮生活も、全部彼への愛しさに変わったの。


 彼が大学に入るのはわかっていたから、私はどんな大学にも入れるように勉強はしてたわ。

 なんとか私は彼と同じ大学に入って、彼の隣を手に入れた。……彼の隣しか、手に入らなかったけど。


 私は、頑張ったわ。本当に、頑張ったと思う。だけど、手に入ったのは彼の隣だけ。彼の心は手に入らないの。ほんの、ほんのすこしでいいから、私を見て欲しいのよ、恋愛対象として。

 だって、こんなの悲しいじゃない。どれだけ頑張っても報われないなんて、苦しい。



「そしたら、留学生よ! 一瞬で、彼の目を引いて、彼の心を持っていたの!

 あんまりじゃない! 私の方が彼を好きよ、大切よ。なんで、ぽっとでの留学生に!」


 ぺしぺしと扇子を打ち付けてはイライラが募る。この、この……!


「お嬢様、お茶を飲んでください、おちついてください! お気に入りのお菓子もありますから……!」


 だから扇子を私に渡してください、という言葉が聞こえてきたがあえて無視。

 お菓子を口に含んで、お茶で流しこむ。はぁ、と一息ついて目を瞑った。

 笑顔だ。彼の笑顔。暖かくて、輝いていて、優しさに溢れた笑顔。私だけに見せてくれてると思ってた。それが、留学生に向けられているのを見た私の気持ちが彼にわかるかしら。


 胸が一杯になったの。苦しくて、息が止まるかと思ったわ。


「……う、うぅ、バカ。ばか、ばか……」

「お嬢様、元気出してください。婿殿はお嬢様を大事に思っておりますよ。誕生日プレゼントは素晴らしいじゃないですか。態度はそっけないですが、心の中ではベタ惚れですよ」

「べつに、べっつに、私は。……う、うぅ……」


 彼に好かれたい。愛されたい。けど、それを言葉にするのは、ちょっと悲しい。気づいてほしいと思うのはわがままかしら。


「いざとなったら俺が頑張りますから、ね? お嬢様は笑っていてください」

「和樹ががんばってもなにも変わらないわよ! ……彼は、彼は、変わらないんだもの!!」

「お、お嬢様、おちついてください。それに、俺にだってできることはありますよ」

「うるさいっ! どうせ、他人を紹介するだけでしょっ! もうわかってるわっ!」


 和樹のほっぺたをつまんでぐにぐにひっぱる。


「いひゃい、いひゃい、です、おじょぉ、さま……!」


 涙が浮かび始めた目。それに満足して、手を離した。和樹はまっかっかなほっぺたを手で撫でている。


「痛いじゃないですか……。俺の顔が変形したらどうしてくれるんです? それにもう、お嬢様は大学生なんですから、もう少し淑女らしく振舞ってくださいよ……」

「べつに変形してもいいでしょう? 仕事に差し障りはないわ。それに、こんなの和樹の前でしか見せられないわ!」


 ふふん、と高らかに宣言する私をみて、和樹は顔を両手で覆う。はぁー、と大きなため息が聞こえたが、無視を決め込む。


「……昔の可愛らしいお嬢様に会いたい」

「今だって十分かわいいわよっ!!」


 しつれいねっ! ぺしっと軽く和樹の頭を叩く。


「婿殿に、そういう暴力的なところを教えたいっ!!」


 紅茶を飲んで、お菓子を食べる。従者の情けない嘆きは無視よ、無視。

 気分もだいぶスッキリしたし、これからは建設的なことを考えましょう。

 次のパーティのドレスは何を着ようかしら。


 ◇


 くるくる回る視界と絢爛豪華な会場。熱気がこの場を支配していて、私は酔っていた。彼は私をエスコートしていたけど、友人とどこかへ行ってしまった。途端に、周りが慌ただしくなった。

 嫌気がさして、笑顔で距離をとった。本当に、彼はどこにいったの?

 少し気持ちが悪かった。アルコールを飲みすぎたみたい。彼がいてくれたら、こんなに飲むことはなかったのに。


 会場の喧騒も遠くなって、ここには静寂が満ちている。冷たい風が酔いをさまそうとする。頭だけが重くて、熱くて、涙が込み上げてきそう。

 切り取られたここで、私は彼を待つの。


 今日、ここに彼がこないなら、私は諦めるわ。すっぱりと彼のこと。だってこれは、運命のない証明になるもの。

 タイムリミットは私の酔いが覚めて、寒気で中は戻るまで。それまでにこなかったら。


 思い出はたくさんあるの。けれど、大人な彼しか知らない。初めから大人で利発で寡黙で寂しげで飽かない人。そして、私を好きにならない人。

 頬が濡れている気がした。雨が、降っているような気がした。酔いがまわって、目眩がした。

 ドレスの裾をぎゅっと掴んだ。大きな皺ができて、丸い染みが大きくなって歪む。


 どれくらいの時間がたったのか。それは永遠にもひとしく感じられた。ほんの一瞬をれ一時間に引き伸ばされたみたいだった。

 きてよ、きて。まだ、私は彼を諦めたくないの。いつか、彼が私をみてくれるって信じていたい。


 本当はいつも苦しいかった。そばにいるのに近くにいない彼。遠くに思いを馳せるひと。

 冷たい私の手を温かい彼の手が包んで、その度に私は勘違いしそうになる。そんな訳はないから、胸は締め付けられた。

 ばか、ばか、ほんとうにばかな人。でも一番愚かなのは、わたし。


 涙は止まらなかった。しゃくりあげて、鼻をすする。顔は熱くて、胸が痛かった。息が苦しい。


「……お嬢様、お嬢様。もう、帰りましょう」

「いやよ、待つわ。わたし、まだ待てるもの」


 背中からかかる声が切なげで、わたしを憐れむようで、ない意地を張った。

 本当はもう、帰りたかった。だって、こないのはわかっていたし、体が冷たかった。


 だって、ここにいるなんて言ってないのに、くるわけがないことぐらい、誰でもわかるわ。


 けど、こんな馬鹿げたことができるのは今日だけよ。ぐすぐす泣いて、無様な姿をさらしているのだから。

 草を食む足音がだんだんと近づいてくる。ぐいっと、後ろから顔を持ち上げられた。

 真上には祐樹の顔。どうしてだかとても辛そうだった。


「……なに、するのよ。辛いのだけど」


 それを意に介したようはなかった。涙目で小言を言われても大してこたえないのだろう。裕樹の手は温かい。じぃん、と頬から彼の体温が広がっていく。涙が手を濡らしてしまう。

 頬に添えられた大きな手が、急にぎゅっと強く頬を掴んだ。


「いひゃい、いひゃいっ! ばかっ」

「はは、お嬢様、すごい顔してる!」


 満面の笑みを浮かべる従者。


「お嬢様、泣かないでください。ひどい顔です。それに、風邪をひいてしまいますよ? 今日は帰りましょう。温かい紅茶をいれますから、ね?」


 冷たい心を溶かす言葉に私は崩壊した涙腺が、さらにぼろぼろになるのを感じた。大粒の涙を流して、ひっくひっくと嗚咽を漏らす。


「ほんと、酔っ払ったお嬢様はめんどくさいんですから。しゃきっと立ってください。帰りますよ! ふらつくようなら俺が支えますから……」

「一人で、立てるわ……!」

「あーあ、言わんこっちゃない」


 背中に手を伸ばして、しっかりとした手つきで私を支える。

 隣がふっと鼻で笑っていたが、それも仕方のないことだから甘んじて受け入れた。

 肩にそっとコートがかけられる。驚いて隣を見ると、なんだか妙ににこやかな顔だったからなにも言えない。


「今日は、祐樹の言う通りに帰ってあげるわ」

「暖かい部屋で紅茶を飲めばすっきりしますよ」


 鼻歌でも歌い出しそうな様子で、そんなにもパーティが嫌だったのね。

 赤く腫れてグズグズな顔が見えないようにコソコソ隠れながら足早に会場を後にする。できるだけ顔を伏せて、祐樹の服の裾を掴んで。

 そのとき、祐樹の足が止まった。そのせいで祐樹の背中に顔がぶつかる。恨みがましく顔を上げ、見る。そして、祐樹の視線の先へ。


「……由梨、帰るのか?」

「お嬢様はお疲れのようですので。お先に失礼します」

「先まで送ろう」

「いえ、私一人で十分です」


 お気遣いありがとうございます。ぼーっと見つめているうちにやりとりが終わった。少し寂しがっている瞳をし始めたのは、ここ最近のこと。それもきっと、留学生のせい。


 私なら、そんな瞳させないのに。


「……さよなら」

「あぁ」


 また涙が滲んでしまうから、彼の姿を見たくないわ。

 袖を掴む手が震えているのも、全部内緒にしたい。

 彼を想って悩む全てのことを、彼に知られたくないの。





「祐樹の、ばかっ」


 頬杖をついて、じろりと睨む。

 祐樹の入れた紅茶にホッとする自分が憎い。

 唇を離すと、水面に波紋ができた。反射し重なり合って通り過ぎて波紋は大小様々な円を描く。


「本当に、お嬢様はめんどくさいですねぇ。そうやって適当な理由をつけては終わらせようとして、失敗してばかりなんですから、諦めたらどうですか。お嬢様は婿殿を諦めるなんて無理なんですよ。ひたすら婿殿を好いていてください。俺を振り回さないでくださいって……」


 ここぞとばかりにまくし立てられ、呆気にとられる。疲れました、やれやれです、と言わんばかりの態度だ。


「な、なによっ! パーティが嫌で、私を口実にさっさと退散したくせにっ!!」


 お互いの利害が一致したのだから、ここまで言わなくてもいいじゃない。

 虚を突かれた顔をして、片手で半分顔を覆って、ハハッと乾いた笑い声。


「な、なによ!? 事実でしょう!?」

「……いやー、そうですね。俺はパーティが嫌でお嬢様を連れ出したんですよ。はい、そうです」


 お手上げです、とため息を吐いて紅茶を一口飲む。私にお代わりを入れてくれないのかしら。もうからなのだけれど。

 祐樹のせいでまた気が高ぶったのだけれど。


「やっぱり、お嬢様は婿殿を諦めるなんて無理です。お嬢様は婿殿とつつがなく幸せになってくださいね」


 あんまり急に真剣で真面目に言われると、対応に困ってしまう。

 なんでよ、なんで、ふと真面目なのよ。情緒不安定にもほどがあるわ。


「きゅ、きゅうになによ。改まった口調で、そんなの、当たり前じゃない。私は幸せになるわ」

「俺はお嬢様を支えますよ。ずっと」

「それも、あたりまえよ」




「サラさん、好きだ。俺は君が好きだ」


 目の前が真っ暗になる。血の気が引いて、うまく息ができない。どうすればいいの。

 手を引っ込めて何事もないように去らなきゃ。じゃないと、だめ。だめになる。

 音を立てないで、慎重に息ゆっくりと吐き出して、手を握りしめて、二人から目を逸らさないで後ずさる。

 聞こえる会話には耳を塞いで、意識をそらす。冷静でいるためには、何も聞こえない方がいい。

 じっと目を逸らさずに、近くの建物の後ろに身を隠す。

 そして二人に背を向けて歩き出した。なにも、見てない。なにも、聞いてないわ。


 たまたま見かけた喫茶店に入った。客は誰もいなかった。誰にも見つからないようで安心した。端っこの席に腰掛けて、コーヒーだけを頼んだ。

 バッグから携帯を取り出して、震える指で祐樹をよぶ。声が聞こえる。涙が止まらなかった。苦しくて仕方ない。

 どうしたんですか、今すぐ行きますから、どこですか、俺じゃダメなんですか、携帯から流れる声に私は場所だけを告げた。

 早くきて。その一心だった。


 携帯が震える。祐樹からだった。なんで、切ったのに。迷った末にでる。


「俺がつくまで電話してましょう。一人だとお嬢様は考え込んじゃうから、だから俺と話をして」


 好きは食べ物はなんですか、好きなおやつはなんですか、好きなブランドは、好きな花は、好きな言葉は、好きな音楽は、好きな場所は、好きな本は、好きな時間は、好きな映画は、好きな……。


 滔々と流れる声に私はできるだけ答えた。祐樹はただ私の好きなものだけを聞いてきた。そのうちに落ち着いて、涙が止まった。気がつけば置かれていたコーヒーに口をつける。苦かった。


 カランと喫茶店のベルがなる。ぎぃと音をたててドアが開く。

 そそくさとわたしを見つけて、向かいの席に座ると、祐樹は口を開いた。



「お嬢様と俺で、お嬢様の好きなこと、全部しましょう」



 それはとても今まで見たことのない麗艶な微笑みで。

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