お父様、やり過ぎですわ!!
すいません。途中で力尽きました……………。
……………私、忘れていたのです。
お父様、お母様、3人のお兄様方が、とても実力のある方々である事を……………。
これは私から見た、色々な意味で頭痛を起こした、あの日の物語―――――。
◇◇◇◇◇
ご機嫌よう、私はザーベック侯爵家の長女、ティアナと申します。
家族は、父であり、やり手の侯爵である、お父様。
社交界の花と言われ、未だに影響力があるお母様。現国王様の妹でもあります。
長男で嫡男のイチ兄様。とても優しいお兄様です。
書類作成はプロ、内務省のエリートのニノ兄様。落ち着いた雰囲気を持つお兄様です。
王宮のエリート近衛兵、サン兄様。……………やんちゃなお兄様です。
そして、末っ子の長女である私、ティアナです。
そんな私には、幼なじみで婚約者のファルト様と婚約していました。何でも、向こう側からのお願いに、お父様が折れたそうです。
仲は、とっても仲良し………とは言えませんが、良い仲ではあったはずなのですが……………。
「ティアナ! 子供が出来たから、別れてくれ!」
「ティアナ様! この子の為にも、お願いしますわ!」
「…………………はい?」
唖然となったのは、言うまでもありません。まず、ここ、城下町のカフェですわよ!? 貴族街の近くの為、治安はいいですが、幾ら何でも言っていい事と、ダメな事があるでしょう!?
誰が聞いているか、分からない場所で、何という話をしているんですかっ!!
私の婚約者が、こんな世間知らずのアホだったなんて……………。
この後、私は、しばらく意識を飛ばしていました。気付いたのは、お父様に報告が終わり、自室に帰ってからでしたわ。婚約破棄よりも、こんな世間知らずのアホと婚約していた事が、こんなにショックだったなんて………………。
あ、念のために申しておきますが、私は婚約破棄にショックだったのでは無く、世間知らずのアホと婚約していた事がショックだったのです! 間違えないで下さいませね。
「ティアナ、可哀想に…………大丈夫ですよ、私達がついてますからね」
お母様は、とっても心配して下さいます。時々、チラチラと怖い部分が見えますが、見ないふりです。えぇ、藪から蛇を出すなんて、愚かな真似はしませんわ。我が家でお母様を怒らせたら、大変な事ぐらい、娘の私はとっても理解しておりますもの。
でもどうやら、思った以上に、アホと婚約していた事実が、私はショックだったようです。その日から、私は部屋に籠もるようになりました。部屋から出たいとは思わないのです。
「ティアナ、今日は天気もいいし、庭で散歩しましょう? ね?」
お母様が誘って下さいますが、今はそんな気力すら湧かないのです。何といいますか、家族が心配しているのが申し訳なくて、それも今の私には、ストレスとなっていたのです。
そういえば、家族が何か企んでいるようですが、何をしようとしてるのかしら? 邪魔にはなりたくありませんが、家族を溺愛しているお父様が、只で済ますはずがありませんわね〜。
「はあ………、あの馬鹿と漸く縁が切れると思うと、……………あら? 何で私、こんなにショックを受けてるのかしら?」
改めて考えてみると、馬鹿らしくなってきました。家に籠もるなんて、私らしくありませんでしたわ!
その日、いえ、籠もっていたのは、3日程でした。そもそも私、やられて黙っているなんて、大人しい性格はしていません。あの子爵令嬢は、うちを敵にまわしたのです。彼共々、間違いなく、見事な仕返しが待っているでしょう。家族はカンカンになっているのですから……………。
「お父様、お母様、お兄様方…………何をしていますの?」
久方ぶりに部屋を出て、夕食は皆で、と思っていたのですが…………何やら家族会議が始まっていました。間違いなく、議題は婚約破棄の仕返しでしょう。
「ティアナ! もう大丈夫なのかい? お父様は心配で心配で…」
お父様、いい歳した男性が、ウルウルとした目をさせても、微妙ですわ……………。これが、我が家で見せる、お父様の顔だとしても。
「だ、大丈夫ですわ、もう気持ちも落ち着きましたもの…………でも、随分と楽しい事をしてますのね? 私も混ぜて下さいませ」
お父様の親バカ発言に、顔が引きつりましたが、何とか耐えました。いつもの事ですもの。
それよりも、楽しい事ですわ。恐らく、私のやれる分は少ないでしょうが、それでも楽しみですわ。私に出来る分は、しっかりとやらせて頂きますわ!
「大半は終わっているんだ、陛下もノリノリでな…………恐らく、お前の元婚約者は、男爵になって左遷されるだろ、あの令嬢共々な、あぁ、因みにだが、あのバカの親はまともだったから、手は出さないように」
あら、良い事を聞きましたわ! 元々、彼の両親は優しかったですし、仕返しは致しませんわ。それはお父様達の領分ですから。
「では、子爵様や令嬢、ファウル様本人には、可能ですのね?」
私の確認に、家族が頷きますが、何故か微妙な顔をされました。まあ、私が稚拙な嫌がらせなんて、する訳がございません。ウフフ、えぇ、しっかりと行いますわよ?
女を怒らせると、怖いんですわよ……………? ニヤリと微笑んだ私に、家族が顔を強ばらせていましたが…………これくらい、可愛らしいですわよね? だって、破滅する訳じゃないのですから。私の仕返しは!
◇◇◇◇◇
翌日、お母様が王妃様とお茶会があり、私も同行する事が決りました。何せ、王妃様は、私を可愛がってくれる方なのです。今回の話を聞いたようで、私も呼ばれたのです。多少、今回の事で愚痴っても、おば様ならば聞いて下さいますでしょう? 私も会いたかったので、招待を喜んで受けましたわ。
「私、何を間違えてしまったのでしょう? 子爵令嬢に子供が出来たと聞いて、ショックを受けてしまって…………」
涙ながらに語れば、王妃様は私を労ってくれました。使用人の皆様も、大変心を痛めて下さっています。本当に、あんなボンクラと婚約していたなんて、悔しさで涙が出て来ますわ!
「可哀想に………ティアナ、私がもっと素晴らしい方を、貴女に見付けてあげますわ! 安心なさい! あんな男等、忘れてしまえばいいのです!!」
後半、王妃様の口調が物騒な気配を含めた気がするのですが…………、見ないフリをしますわ。えぇ、目を吊り上げた般若が居ようとも、私は何も見ていません!
「でも、子爵令嬢が婚約者となり、伯爵夫人となるのでしょう? これから先、顔を会わせる機会もありますし……………」
実は、一番の心配はそれです。優越感を持たれては、たまった物ではありませんからね! お父様から聞いてはいますが、あくまで予定。王族が許可をしなければ、嫡子交換は出来ませんからね。
「あら、大丈夫よ? あの阿呆男は、男爵になるそうだし、男爵夫人になるでしょう? ティアナと会っても、口は聞けないわ」
この国では、上位の者から声をかけねば、お話が出来ません。まあ、細かい細分化がありますが、これが基本的な礼儀なのです。
「それに、そんな曰く付きと、他の貴族が仲良くするなんて、ありませんもの」
……………王妃様、目が笑っておりません! 口元は優雅な微笑みですのに、目は氷点下の冷たさです!
「あら、では、どこのパーティーにも呼ばれないのでは?」
私も今気付いたのですが、どうなんでしょう? 国が開くパーティーくらいではないですか?
「フフッ、そうね…………余程、仲がいい人なら呼んでくれるのではなくて?」
あの方に、仲がいい方なんて、居たかしら? 産業もない田舎貴族になる、あの方に。
「私達が何もしなくても、彼らはこれからずっと、社交界での笑われ者ですわね」
お母様まで…………、まあ、そうでしょうけれど。
あら? 私のやる事、本当にありませんわ。弱りましたわ、ざまぁ! をするつもりでしたのに!
◇◇◇◇◇
それから、数日後のパーティー。
私は出席しませんでしたが、そこでファウル様は、男爵に任じられ、更に私との婚約は正式に破棄され、子爵令嬢と新たに婚約しました。
その後、伯爵家からはお詫びとして、勘当したとの手紙が届きました。男爵位を与えたのは、貴族の醜聞が何代にも渡り残るから…………なんて、怖い理由でしたが、私には関係ありませんね。
さて、私には恐れ多くも陛下から、縁談を頂きまして、先代陛下の異母兄弟が臣籍降下した公爵家の嫡男様と婚約する事になりました!
今は毎日が充実しております!
嫡男様は素敵な方で、私を大切にして下さいますし、公爵家の方々も優しい方ばかりです。今は礼儀作法や公爵家の事を学んでいます。
でも、お父様方? 一体、陛下に何をしましたの? それにお兄様方、何で良い笑顔なんですの…………? 伯爵様方も怯えておりましたし。
それから数年後、父達がやらかしたあれこれを知り、驚愕し頭痛を起こしたのは良い思い出ですわね。でも、一言許されるならば…………。
お父様方、やりすぎですわ!!
END
お読み頂きまして、ありがとうございます。秋月煉です。
前作は賛否両論が多数ありました。本当は、続編は書かないつもりでしたが、何だかモヤモヤしまして、結局書いていました(笑)
未だに敬語等が怪しい秋月です(;^_^A ご指摘下さったのに、申し訳ないです……………。
さて、今回の作品は、前作の補填のつもりだったのですが、果たして書ききれていますでしょうか?
質問等ありましたら、お声がけ下さいませ。
では、またお会いしましょう♪