1話
尻もちをついている少女の姿を見てアルの思考が止まる。少女の肩にかかるくらいの髪の色が紫色だったのだ。
アルは、その髪に見とれていた。その少女がウェルミヤ人であることはこの時微塵も頭に浮かばなかった。
見とれて固まっていたアルだが、少女が倒れているのは自分のせいであることを思い出した。
「あっ!ごめん!大丈夫?」
すぐに少女のもとへ駆け寄り、少女に手を差し伸べる。
「え?・・・・あ、ありがとう。」
差し出された手を少し怯えたように見ていたが、恐る恐るといった感じでアルの手を取り立ち上がる。
立ち上がって初めてフードが取れていることに気づいたのか慌ててフードをかぶり顔や髪を隠す。
「え⁈ど、どうしたの。」
余りにも慌ててフードをかぶる少女を見て困惑したようにアルが少女に問いかける。
「な、何でもないよ⁈き、気にしないで。」
「じゃ、じゃあ、どうしてフードをあんなに慌ててかぶったの?」
「え・・・そ、それは・・・」
何にも思いつかなかったのか、続きを言えず場に沈黙がおとずれる。
その空気に最初に耐えられなくなったのはアルだった。
「ごめん、ごめん。言いたくないなら言わなくてもいいから。」
「え・・・?」
「眠ってしまった僕を起こしてくれた恩人様を困らせたくはないからね。」
「その・・あり、がとう。」
「それを言うのは僕の方だよ。起こしてくれてありがとう。もし君が起こしてくれなかったら夜に起きて、この森で迷子になってたかもだよ。だから、本当にありがとう。」
「ふふふ。じゃあ、どういたしまして、かな?」
最初の戸惑った雰囲気はいつの間にかどこかへと消え去り、暖かな雰囲気になっていた。そんな空気を感じとったのかアルが本題を切り出す。
「君ってさ・・・ウェルミヤ人、なんだよね?」
「っっ⁈ど、どうしてそう思うの?」
「さっきフードがはずれた時に見えたんだ、君の綺麗な紫色の髪が。」
「っ⁈・・・・・」
その言葉を聞いて、フードがはずれて髪を見られたことを思い出したのか怯えたように黙り込んでしまった。
そして、すぐに踵を返してアルに背を向けて走り出した。
「え⁉︎ま、待って‼︎」
その言葉に、森の方へ入る一歩といったところで少女は足を止める。アルは止まってくれたのを見てすぐに言葉を投げかける。
「ウェルミヤ人だからってどうこうしたり、言ったりするつもりは全く無いんだ。ただ、君が本当にウェルミヤ人かどうかを知りたかったんだ。・・ウェルミヤ人に会ったことなかったから。」
「・・・そうだよ。私はウェルミヤ人だよ。それを知って君は私をどうしたいの?」
ウェルミヤ人であることを告げる、というより明かすことが恐いようで、言葉のところどころで震えた声を絞り出しているような感じになっていた。
「・・両親や村の大人の人達からウェルミヤ人のことをたくさん聞かされたんだ。でも、僕は、人から聞くよりも自分の目で、耳で判断したかったんだ。だから、ウェルミヤ人に実際に会って、見てそれが正しいのか、間違っているのかが知りたかったんだ。でも、今はそんなことよりも君と友達になりたいんだ!だから、君のことが知りたかったんだ。」
「え?友・・・・達?」
「そう。寝ていた僕を心配して声をかけてくれた君となら友達になれると思うんだ。駄目、かな?」
「え、そ、その・・・初めてそんなこと言われたからどうしていいか私にはわからないよ。」
「え?そうなんだ?・・でも簡単だよ。いいか、駄目かを言えばいいだけなんだから。」
「・・でもそれって、結構難しいことだと思うんだけど?」
そう言い合って、お互いの顔を見てお互いが同時に吹き出して笑う。
「あははは。確かに君の言う通りだね。でもこういうのって、結構適当っていうか勘、だと思うよ。」
「勘?」
「うん。この人と一緒にいたら楽しそうだと思たら友達になれる。この人と一緒は辛いかもって思ったら友達にはなれない。そういう勘だと思うよ。」
「・・・・確かにそうかもしれないね。」
「でしょ?」
「うん・・・・・・じゃ、じゃあ、私と友達になって、くれる?」
「あはは、僕がお願いしてるんだよ。当たり前じゃないか。」
「・・ありがとう。」
アルは少女の方へと歩いて行き、握手をするために手を差し出す。少女は始め戸惑ったがすぐに意図が伝わったのかアルの手を握る。
「そう言えば、僕の名前を言ってなかったね。」
アルは、どこか罰が悪いように握手していないもう一方の手の人差し指で頰をかきながら言う。
「僕は、アルバ、アルバ=ユーリス。君は?」
「私・・私はリナ。ウェルミヤ人だから家名はないよ。」
「知ってる。」
アルは笑みを浮かべる。フードで顔は見えないがおそらくリナも笑みを浮かべているのだろうことだけは伝わってくる。
「リナ、か。いい名前だね。」
「そ、そうかな?ありがとう。アルバもいい名前だね。」
「ありがとう。アルでいいよ。僕の友達やお父さんとお母さんもみんなそう呼ぶんだ。」
「わかった。・・・・ねぇ、アルは本当に私が、ううん、ウェルミヤ人を何とも思わないの?」
「う〜ん。ウェルミヤ人だからって、何でもかんでも決めつけるのは良くないって思ってるだけで、実際に会ったら何かは思うと思うよ。リナには仲良くなりたいと思うし、ウェルミヤ人みんながリナみたいな人じゃないと思うから、どう思うかは実際に会わないとわからないよ。」
「・・・そっか。」
「そうだ。リナ、友達になったんだからさ、フードを取ってくれないかな?友達なのに顔を合わせられないのは嫌なんだ。」
「そう、だね。アルと一緒にいる時ははずすことにするよ。」
リナはゆっくりとフードをはずした。
「うん。やっぱり顔を合わせていた方が友達っぽくっていいね。」
「ふふ。そうだね。・・・でも、そろそろ暗くなってきたからお母さんのところに帰らないと。」
「うわ、本当だ。もう暗くなってきてるや。僕も帰らないと。」
「また・・会えるかな?」
「当たり前だよ。友達なんだから。そうだ!明日もここに来れる?」
「えっと・・・多分大丈夫、だと思う。」
「じゃあ、また明日ここに来るから。いっぱい話をしよう!」
「ふふ。わかった。じゃあ、また明日、だね。」
「うん。また明日。」
そう言って森の奥に消えていくリナの姿を見届けてからアルは家へと帰って行くのだった。
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