Ⅵ「ほな、オレら付き合おかー!」
壱さんにつれられて広間へ。昔ながらの座敷に、卓袱台。きちんとテレビもある。そこでは、何人かの人が楽しげに会話していた。私達が来たことに気づくと、ひときわ盛り上がりながら私達に席を空けてくれた。
「いっちー!ひめのんと一緒におったんか。ピンバツから聞いたで!めっちゃおもろいゆーてな!」
そういってけらけら笑う男の人。さっきドア越しに話していた人だろう。綺麗な白髪。銀色の瞳がまた綺麗で。息を呑み、まじまじと見入ってしまう。
「ん?なんや?ひめのん、オレの顔になんかついとる?」
なにか聞かれているが、頭に入らない。とりあえずコクリと頷いた。白髪綺麗だなぁ...こんな髪みたことない...。張本人である彼は慌てて他の人になにかいっている。
「えっ、雨!どこに何がついてるんや!」
「...何処にも...何もついてない」
「ほななんや!ひめのんどうしたんやろか!?」
なにか応酬を交わしたあと、男の人はまた私に聞いてくる。
「...ひめのん、もしかしてオレを気に入ったんちゃう?」
コクリ。肯定。
「ほな、オレら付き合おかー!」
コクリ。こうて...しようとしたところで、頭をべしりと叩かれ、我に返る。
「はっ」
「...姫。オマエぼんやりしすぎて変な話になってるぞ。ホントなんなの?死ぬの?」
不機嫌そうに頬を膨らませる壱さん。とても可愛い。と、綺麗な白髪の男の人は、ケラケラと笑い、壱さんに文句を言っている。
「えー、なんで止めるんや。上手いこといきそうやったんに!もしかしていっちー、ひめのん狙っとったりするん?」
「そういう話じゃない!ぼんやりしているところに漬け込んで姫を騙そうとしてるからだ!変なふうに取るな。死ぬの?」
今更だけど、壱さんが目線が同じくらいだということに気づく。どうやらわざわざ椅子を引っ張ってきて、乗って頭を叩いたようだ。ご丁寧に履いていた靴はそろえて下に置いてある。
「ははは、いっちームキになりすぎやで!で、どしたん、ひめのん。」
そういって、私に聞いてくる男の人。どうしたって、それは。
「え、と。私、非現実的な髪色とか、眼の色とか、好きなんです。憧れる、と言いますか。それで、髪が綺麗だなってみとれて...」
「!!」
和やかにしゃべっていた人々に緊張が走った。自分でも恥ずかしいことを言ったことに気づき、慌ててとりつくろうけれど、最早誰も聞いていない。
「いやー、ひめのんいいこと言うわー。やっぱオレら付き合おかー?」
「やめろ黒。急にそういうのとかマジ禅なんですけど。死ぬの?」
「ちょっと待ってなんで俺?」
なんかわからないけど、付き合うなんていう選択肢が出てしまっている。いやいや、歳の差あるでしょう。どうみても成人にしか見えない彼に私は合わない。まあ多分、冗談のつもりなんだろうなぁ。すごいにへらと笑っている。
「...なにやってんの」
無感情な声が降ってくる。振り向くと、鉄面皮を保った赤目さんが立っていた。
「...赤目さん」
私の呟きに、他の人が反応した。禅の言ったとおり本当に赤目さん呼びなのか、とか。そんな反応だった。
「......悪かった。俺は女心とかわからないから、これからも知らずに怒らせるかもしれない。...許してほしい」
「!?」
何なのこの人、いきなり謝ってきた。本当にしゅんとうなだれている。もしかして、あの後ずっと考えていたのかもしれない。私が、勝手に戸惑って逃げただけだというのに。本当変な人だ。そしてこんな大勢の前で謝るとか。羞恥心なさすぎ。事実早速怒らせたのかとかいって面白がる人が大勢いて。こっちが恥ずかしくなってくる。
「.........ッ!」
私の反応がなかったことで聞こえていないとでも思ったのだろうか。彼は少しぽかんとしたあと、再び頭を下げる。
「悪かった。俺は女心とかわかんないかr」
「分かりました!わかったからもう!謝らないでください!」
「...本当か?」
「こっちこそ、...心配してくれたのに逃げて、ごめんなさい」
顔をそむけてそういうと、丁度壱さんと目があった。
『がんばったな』
クチパクで紡いだ音のないその言葉に私は心が暖かくなった気がした。そして、赤目さんはというと、鉄面皮だけど、瞳が少し安心したように和らいだ気がした。本当に暗殺者なのかわからなくなってくる。それ以前に大人なのかすらも怪しいけれど。特に精神が。
「ボクたちは最初から、好きでこの道を選ぶような狂った人間じゃない。...オマエと同じ、ならざるをえなかった奴らだ。...誰かを守るために、な。」
ふと、壱さんの言葉を思い出した。赤目さんもその中の一人なのだろうか。私と、同じ。
少し天への印象と感情を変えた雛でした。