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第1話:ピアノの音

連載ですが、そんなに長くならないと思います。

よろしくお願いいたします。

 


  昔は。自分で、自分の色で、セカイを染められるって信じていた。


 

  本当になんでも。

  私は特に歌が大好きだった。真っ白なキャンバスを染めるのと同じように染めることを楽しんだ。自分でアレンジして、流行りの曲を歌うこともあった。それこそ、自分で一から曲を作って歌うことも。

  とにかく音楽というセカイを純粋に楽しんでいた。

 



  でも。私は現実を突きつけられてしまってからは、楽しめなくなった。音楽を聴くことはあっても、自分でそのセカイに触れたいと思うことがなくなった。


  所詮、楽譜は楽譜。曲は動かない。アクリル絵の具みたいに水をたらしても色がにじまない。一度塗ったら応用が効かない。他の人のものは他の人のもの。自分ではどう足掻いても変えられない。



  ‥‥‥そう思うようになってしまった。


  そして、それはずっと変わらないはずだった。




 



  彼と、彼の音楽と出会うまでは。
















  「なに‥‥‥この音‥‥‥ピアノだよね‥‥‥‥‥‥?」



  グラウンドの方からは、体育祭の応援団の渇れ気味な叫び。野球部やサッカー部たちのチームを応援する声。校舎内では吹奏楽部などの音楽系の部活の様々な音。加えてどこかで廊下を走るバタバタという騒音。

 



  そんな雑音だらけの中でもはっきりと目立つ音。



  「聴いたことない曲だ‥‥‥‥‥‥」


  音だけじゃない。曲も知らない。多分、J-POP。それしかわからない。ピアノの弾き方とか本当に独特だし。爽やかなんだけど、どこか淡くて繊細で。格好いい感じの疾走感ある曲なのに、耳にすっと届く。‥‥‥すごく、斬新。


 

  「音楽室って‥‥‥どこだっけ」



  そう思わず呟いてしまい、ハッとなる。なに言ってるの私‥‥‥‥‥‥。ピアノ弾いてるやつなんて、音楽コースのプロ意識高いエリートなはずなのに。近くに聴きに行っても相手にされないし。


  ってそうじゃない!!


  根本的に違う!!私はそういう音楽とかとは縁切ったんだって!!

 だから全然気にならないんだから!!!



  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



  う。ちょっとだけ、やっぱり行ってみようかな‥‥‥。どんな人が弾いてるかは気になるし。



  私はまず一ヶ月以上経ってもまだ馴れない校舎内から、音楽室を探さなきゃいけなかった。美術、音楽、書写の中から選ぶ選択授業では書写を専攻していたので、美術室がどこにあるかなんて知らない。自分の教室がある4階でないことだけはわかるんだけど。


 

  「んー‥‥‥お。あった!えっと、3階の奥か‥‥‥」


 

  今いるのは2階の職員室付近。ピアノの音が自分に聴こえるのも妙に納得。私は元々耳がいいほうだし。(何気ない自慢)



  廊下歩いてるだけでも本当に色々な音が聞こえるなぁ。廊下走ってたり、女子の話し声が一番目立ってるけどさ。学校内の音を聞いているだけで、青春した気分になれる。


  でも、やっぱり。ピアノが何より私の中では目立つよ。


  かれこれ五分くらい聞こえ続けてるけど、ずうっと私の中で一番大きく鳴り響いてる。どうしてみんな耳を傾けないの!?と怒りたくなるくらいに。

  弾き方とか技術だけじゃなくて曲もすごくいいのに。なんでだろ。なんでみんな気づかないんだろう。この学校には音楽コースあるくらいなんだから、少しは普通コースの人にも音楽のセンス的な何かがあるだろうに。



 

  「‥‥‥‥‥‥こっちかな」

 

  階段を登り、4階の奥へと耳をたよりにして歩く。ピアノに近くなればなるほど、音が耳に響き渡る。そして残って消えない。

  さらり、と流れるようなのに、いい意味で引っ付いている。離れようとしない。




  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ」




  ここ、だ。音のする場所。



  「やっぱり間近で聴くと違うなぁ‥‥‥‥‥‥」


 

  雑音はあまり聞こえない。お隣の美術室を使用している女子生徒の話し声さえも、私の耳は雑音と判断して断ち切っている。完全に自分の耳にはピアノの音だけが聴こえている状態だ。

 

 

  一体誰がこの音を紡ぎだしているんだろう。



 

  す、少しみるくらいなら気づかれないかな。見られたら‥‥‥さすがに気持ち悪いって思われるかもだけど。気づかれなかったらいいよね!多分!!


  すーはーと深呼吸してからぐっと拳を握りしめた。そーっと体を傾けて、ドアにある薄いガラスから中を除きこんだ。



 

  「‥‥‥‥‥‥うわあ‥‥‥」




  今までにない感情を生み出した音を奏でていたのは。




  ーーーひとりの、少年だった。




  私達が着てる制服じゃなくて、音楽コースオリジナルの制服。後ろ姿しか見えないけれど、なんだろう。美しい、ってこういう時に使う言葉だよね。きっと。

  クセのないサラサラな髪。細めな体躯。

  繊細な曲なのに、弾き方は意外とダイナミックで。ただ聞いていた時よりも心が掻き乱される感じ。


  目が‥‥‥放せない。




  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!」

  「なに、してるの?」




  いつのまに彼は弾き終わっていたらしい。くるっと座ったまま向きを変えて、私をじっと見つめている。


 

  「うぇ、あ、その‥‥‥」



  威圧感じゃないけど、すごく焦ってきたよ!?

  少し大きくて澄んだ瞳が私をとらえる。



  「‥‥‥別に、怒ってるわけじゃないよ。おびえないで、入ってきたら?」

  「‥‥‥え、は、はい」

 

 


  面白がるように彼はくすっと笑った。後輩にも先輩にも見えないし、同い年かもしれない。笑うと少し子供っぽいなぁ。な、なんかときめいちゃったし。


 

  「ピアノ。聴きに来たの?」

  「ま、まあ‥‥‥そうなるのかな?」

  「そっか。ありがとう!」


 

  う。なにその純粋な笑顔!!

  あれ、てか‥‥‥ん?どうなんだろ。どんな人が弾いてるのかなーって思って来たんだよね、確か。



  「手、大きいね」

  「え!?」

 

  な、何々急に!!!思わずばっと後ろに隠してしまう。



  「なんか楽器とかしてた?あ。ギターとかしてる手だね。癖がまだ残って‥‥‥」

  「もう。やめてるから。一年以上前に、音楽との縁は切ってるよ」

  「‥‥‥‥‥‥でも、僕のピアノ聴きに来たんだね?」



  探るように柔らかく彼は微笑む。



  「自分が諦めただけ。さっき弾いてたのはオリジナルでしょ?」

  「そう、だけど」

  「貴方には私にないものがあるの。私はどんな人の、どんな歌を歌っても、自分のものにはできない。作っても一緒。自分で作ったはずなのに、自分のものじゃないみたいになる」

  「‥‥‥むずかしいこと言うね」




  「私には才能がなかったって言いたいだけだよ」


  「僕には才能がある。とでも言いたいの?」

 

 


  すぐさま彼は言い返す。にやり、と笑っているのが妙に腹立つなぁ。てかこいつ、意外と腹黒?



  「あんたには才能、あるよ。私には全然ない」

  「そうかなー。前、やってた音楽って何?」

  「‥‥‥‥‥‥ピアノとギター。あと、歌は趣味」

  「ふーん‥‥‥」



  「僕はほんと、ピアノしか弾けないからさ。ある意味、尊敬しちゃうなー」

  「今はもう縁切ってるけどね」

  「‥‥‥今はスランプなんじゃなくて?」



  うるさいなぁ。



  「スランプでもないよ。弾けなくなってやめたんじゃない。弾きたくなくてやめたの。気持ちの問題だよ」


  「僕のピアノをわざわざ聴きに来るなんてこと。してくれるくらいには音楽をまだ好きなんじゃん?」

  「だぁかぁらぁ!!‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



  急に、なにも言い返せなくなる。だって、どんな人がこの曲を奏でてるんだろうって思ったから来たんだよ!?‥‥‥ふつー引かれるよね!

  音楽を聴きに来たって言ったら「まだ未練あるんじゃん」とか言われそうだし!!


  ああもう、なんでそんなにニコニコしながら私を見てるの!?




  「まあ、どういう理由でも聴きに来てくれたのはうれしいけどね。んー!なんか気分いいし、もう一曲くらいなら弾いてあげるよ?リクエスト、ある?」

  「私、クラシックとかそういうのわかんないよ」

  「かといって、俺も最近の曲わかんないし。‥‥‥オリジナルでいい?」

  「何気ない自慢と、私がピアノを聴く前提の話な気がするけど。わかった。聴く」

  「ありがとう。じゃ、君が少しでも音楽を好きでいられるように」



 

  そう、キザな台詞を吐いてから。彼はゆっくりと撫でるようにピアノの鍵盤に指を置いた。

 


 

  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!」




  派手な出だし。叩きつけるような弾き方。でもちゃんと、さっきの曲みたいに繊細さは残っていて。疾走感あるかっこいい曲調なんだけど、ピアノの音によってクラシカルになっているぶん幻想的にも聴こえてしまう。

 

  なにこの音楽‥‥‥。すごく斬新でかっこいい‥‥‥!!



 

  「‥‥‥‥‥‥あ」



  彼はすぐに弾くのをやめた。不自然にキリの悪いところで。



  「目。すごく輝いて見えたんだけどなぁ」

  「‥‥‥!!!う、うるさいなぁ!」


  「これさ。一応オリジナルで、まだ作り終えてないんだよね。で、これには歌詞つけようかなって思ってるんだけど‥‥‥歌詞つけたら‥‥‥誰かしら歌わないともったいないよねぇ?」

  「う、歌えっていいたいの?」

  「歌いたいなら?‥‥‥あ。これは君にとってどうなのかな?セーフ?アウト?」



  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



  「私はやっぱり、自分で歌ったりするのは無理。でも、あんたの音楽は‥‥‥ピアノは嫌いじゃない、から。


  ーーー曲作るのは手伝うよ」




  「素直じゃないなぁ」

  「う、うるさい!!」





  こうして。私と彼は。一緒に曲を作ることになった。





  この時。私は気づかなかったけど。

 

  自分が関わるのが嫌だったはずのセカイにもう一度。私は自分から入っていったのだ。

予定としては、あと2・3話で終わりです。

短いわりには更新ペースが読めません。


読んでくれてありがとうございました。

出来れば最後まで見届けて下さい。

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