003 言葉を話した感染者
SMGとはサブマシンガン(軽機関銃)の略称です。
「……チッ。」
……あれから少しして、また感染者が現れた。取り敢えず銃を向けて──弾が残っていない事に気がついた。
──とにかく早く武器を……。
私はそう思いながら腰から提げていたSMGを構えようとした。
──……今の所弾があまり手に入っていないから、あまり使いたくは無かったんだけど……。
「撃つな。敵意は無い……。」
──……嘘でしょ?
私は耳を疑った。その感染者は……言葉を喋ったのだ。しかもその場に立ち止まり、両手を頭の上に上げた……。
「……あなた、言葉が分かるの?」
それに対して感染者は、頷いた。
──……これで良し。
私は例の感染者の両手を縄で拘束し、心の中でそう呟いた。
「ごめんなさい。……貴方は言葉が分かる人だとは思う、けど……その……何と言うか……。」
──彼にはすまないと思っている。だが……いきなり凶暴化されても困るから……。
「……分かっている。"念の為"だろ?」
そう彼は私に言い、自分を縛っている縄を見せる。私は思わず苦笑し、
「……ええ、貴方の言う通り……"念の為"よ。」
と言った。すると彼は笑顔を浮かべ、
「良い心がけだ。」
と言う。……その笑顔は遠い昔に失った、"彼"に似ている気がした。
──その後、私は彼と今まで見てきた事や……様々な事を話した。
私は彼に警官として働いていた事、そして感染が抑えられなくなり、街を離れた、と言った事を話した。
……本当は、"逃げた"の方が正しいのに。
"彼"の事や、死んだ仲間の事は話さなかった。今の時代、死んだ人間の事をいちいち考えていては、生き残る事など不可能だから……思い出したくは無かった。
──……彼は、人間だった頃の記憶は無い、と言った。
……それはある意味、幸運なのかもしれない。だって、記憶が無ければ過去に対して罪悪感を感じる事は……無いから……。
「そういえば……名前はなんて言うんだ? 」
ふと彼はそう聞いてきた。
「……名前は捨てたわ。過去の色々な事を……思い出すから……ね。」
──……ただの逃げだって事は分かっている。しかしもう……思い出したくは無いのだ。
私はそう心の中で呟きながら……俯いた。