002 「礼を言われる様な人間じゃない。」
少し遅れました!
「チッ。 ここはダメね……。 」
私はそう誰に言うでもなく言うと、給油ノズルを投げ捨てた。
とりあえず、ソルトレークシティには到着した。……しかし、今の所ガソリンは殆ど手に入っていない……とゆうか、ガソリンスタンドそのものがまず見つからない。
──……今ガソリンが無い事を確認したスタンドが、初めて見つけたスタンドだ。
……こんなガソリンスタンドもロクに見つからない様な街、平和だった頃でも住みたくないわね。
そう言って私は苦笑う。
それから私はガソリンスタンドを探して街を探索していたのだが……ふと、コンビニが見えた。
──何かサバイバルに役立つものがあるかもしれない。
「……何これ? 板が打ち付けてあって入れないじゃない……。」
コンビニの入り口……と言うかガラス張りの全てを覆い隠す様に内側から頑丈な板が張られていた。これじゃあ入れない。
「……この日焼けからして、結構前に張られたっぽいわねこれ……。」
私は板の日焼け具合を見て、そう呟く。
「……ハァ。」
……私の力じゃこの板を剥がせそうに無い。あとでバールとかを見つけたらまた来よう……。
そう思い私はまた歩き出し、細い道に入る……って。
「……何よコレ。行き止まりじゃん……。」
目の前には……壁がある。
──……今日はとにかく運が悪いようね。
そう思い私は後ろを向いた──途端に目の前にあったのは、犬の顔。
私は躊躇無く腰に付けていたサバイバルナイフを持ち、その犬顔の感染者の胸にぶち込んだ。
「ギャオォァッ……! 」
犬顔は悲痛な声を出しながら倒れた……って!?
今度は牛頭と豚頭の感染者がこっちに向かって咆哮を上げながら走って来た。
「ああもぅ……! 面倒臭いなぁっ! 」
私は少し前に別の街で感染者を倒した時に手に入れたリボルバーの拳銃を構える。
……これに入っている弾は3発。失敗出来るとしたら、一回だけだ。
──パン、パン!
辺りに乾いた銃声が木霊した瞬間。
私の目に映った光景は──走っていた感染者二人が頭から血を噴き出しながら倒れていく様であった。
──その光景を見ていた時、いきなり誰かに足を掴まれた。
「っ!? 」
驚いて私は下を向く……と、そこにはさっき殺したと思っていた犬顔が私の足を掴んでいた。
私は銃を構え──気がついた。
犬顔は……泣いていたの。
「ダズゲデ……ゴロジデ……。」
聞き取りづらい言葉。しかし確かにその犬顔は……『助けて』と『殺して』と言う単語を繰り返していた。
犬顔は私の履いているブーツに噛み付く。しかしさっきの傷が効いたのかブーツを噛み切る事は出来ず、ただ咥えているだけだ。
──……時々いるのだ。こうして人間としての理性を残した感染者が……。しかし彼らの身体はウイルスに支配され、その身体に残った彼らはウイルスが変わり果てた自分の身体を操り、人を喰べる様を見る事しか出来ない。死ぬ事も出来ず、ただこうして何とか喋ったり……涙を流す事くらいしか、彼等には出来ないのだ。
──それは、あまりにも……残酷だ。
私は彼の額に銃口を当てる。
「……ごめんなさい。」
『助けてあげられなくて。』と心の中で付け足す。
彼は静かに目を瞑り──そして一言。
「……ア……リガド……ウ。」
と言った。
──パァン。
一発の乾いた音が響いた時、1人の男の魂は……辛い地獄から解放され、私のブーツは少し紅に濡れた。
「……私は、礼を言われる様な人間じゃない。」
動かなくなった屍を見つめながら、私はそう呟いた。