001 Bのプロローグ
ふう
『ロシアの軍事研究所で大規模な爆発が発生。中に居た職員50名以上が死亡し、怪我人も……。』
『ロシアを中心として謎の感染症が流行、これは殆どの生物に感染し……。』
『謎の不審者。目撃者の証言によると獣の様な格好をした不審者が人を襲う、と言う事件が多発……。』
『新たな感染症。これに感染した場合全身の細胞が変質、やがて人間と動物の中間のような姿に変異を遂げ、人を襲う……。』
『感染はヨーロッパ全土でも流行、南アメリカ大陸でも感染を確認。』
『国連はこの感染症はロシアの軍事研究所の爆発事故により飛散したウイルスが変異した物と断定。』
『WHO、感染を食い止められず、事態は更に悪化の一途を……。』
『アメリカ全土でも感染が拡大。ヨーロッパ、アフリカ、ユーラシア大陸はほぼ全滅。』
『アメリカ政府は本日、無期限の政府活動停止宣言を出し……。』
「……ハァ。今更こんな物を見たって、何かが変わる訳じゃないわ。」
私はそう呟き、大量の新聞の切り抜きとメモで埋め尽くされたスクラップブックを、机に投げ捨てた。
私の名前は……、無い。
2年前……私は警察官として生きていた。しかし私が護っていた街がそのウイルスに侵された。
──同僚のニコルはウイルス感染者に首を噛まれた、本当に大量の血を吹きながら首と胴体が分断して……死んだ。
──上司のホライゾンは感染者となってしまった恋人を抱き締め、そのままビルの屋上から飛び降りた。ホライゾンは死に……恋人だった化け物は、そのまま何事も無かったかのように歩き出した。その化け物は私が撃ち殺した。
──部下のユーリは感染した。私は最後まで彼女を治そうとした。しかし彼女はやがて全身が変異していって……。最期は、理性で抑えられ無くなった肉体を必死に抑えながら、「殺して。」と私に懇願していた。そしてそんな彼女を私は……殺した。
そして……彼。彼はまだあまり感染が広がっていない頃に感染して、病院に収容された。
「……俺は必ず帰ってくる。だから……待っててくれ。」
最後に会った時、彼はそう言って私の手を握った。
──……でも、彼は結局帰っては来なかった。
恐らく、彼もまた閉鎖された街を……彷徨っているのだろう。
……あの、魂の無い化け物と化して。
……私は、彼を……友を、仲間を見捨てて……逃げた。
──私は、卑怯者だ。全てを捨て……自分だけが助かった。
……かつての"私"は、あの街が滅んだ時に……死んだ。だから名前はもう……無いわ。
──そういえば、私は、運だけは……強いみたいね。
あれから2年が経った今も……こうして生き延びてしまったから……。
──今、私が居るのは生存者達が住んでいる廃屋の一部。まあ、それも過去の話だけど……。
『生存者を探している。』
そんな無線を頼りにやって来た私を待っていたのは、こうして感染者たちに襲撃され、全滅した生存者達の集まりであった。
「……食料は少し手に入ったけど、ガソリンは……ダメね。50キロ走れればいいって感じかしら?」
私は手に入れた食料をバイクに取り付けられたサイドカーに積み込みながら、そう呟く。
──……なるべく早く、ガソリンを手に入れないといけない。
そう考えながら私は地図を広げた。
……ここから一番近い場所は……ソルトレークシティ……。
あそこは都市だから……感染者は多いとは思う。だけど……、
「……ガソリンが無いと足を失う事になるし、まあ……仕方ないわね。」
私はそう呟き、バイクのエンジンをかけた。