遠い昔のはなし
朝早くには月が別れを告げる
ほんのり残った彼女の気配しか感じられない
彼女の従者の星たちはすでに朝食の支度を始めている
お昼に近づくと太陽が挨拶する
おはようと言って私たちの体を温める
光と熱が私たちにとってはとても必要なものだ
それがなければ死は免れえない
夜になると太陽が別れを告げ、月が挨拶する
握手すらも拒む二人は同時に存在しても目を合わせない
月に合わせて従者は順に現れる
ほぅっと息を吐けば白い幽霊が現れる
やぁ、と手を挙げて離れていく
太陽からもらった熱が引いていく
空が熱を吸い上げているから
月がしっかり休めるように熱を集めているのだ
空は月が大好きだから
同じように空を泳ぐ雲は星が好き
他の誰かに見せたくないから覆い隠してしまう
きらきら輝いているところは誰にも見せない
でもそれを風が邪魔をする
風は雲が嫌いだから
ずんずんと遠くへ飛ばしてしまう。
そしてまた、月が僕らに別れを告げ、太陽が顔を出す。
またも彼らは顔も合わせず居場所を交換するのだ。
でも本当は太陽も月もお互いが大切で。
自分たちの役割を担うことでお互いを支えあっているの。
なんて。
そんな風に優しい世界が在ったのならいいね、と誰かが言った。