2nd episode-1
「なるほどねい。話をまとめると君たちは異世界から来たと」
勇樹達三人の話を聞き終えたネイ達は、難しい顔をしながらうなずいた。
「普通に聞いたら信じられないわね……言葉も通じてるし」
「けど、持ち物なんかの検査では未知の機構を持ったプレートカード位の大きさの機械とか持ってる。信じるしかないんじゃないか?」
腕を組んだ綾乃が眉根を寄せて言うが、レアリーが提出して貰っていたスマホを示して見せた。
それを聞いてネイがうなずいた。
「そうだねい。それにリンの報告によるとこっちに男の子には“月の魔瞳”が出現していたらしいよん。意思疏通はそれでなんとでもなるよん」
「ふむ、確かに」
「男に“月の魔瞳”ねえ。にわかには信じられないけど……?」
ネイの言葉に綾乃が納得するようにうなずくが、今度はレアリーが訝しげになった。
それをソファに並んで座りながら見ていた勇樹達は顔を見合わせた。ちなみに悠真にくっついていた精霊達は一匹を除いて姿をくらましている。残っている白い精霊は自分が代表だと言わんばかりに悠真の膝の上に鎮座していた。悠真も安心するらしく、ぬいぐるみを抱えるようにしてその精霊を抱っこしていた。
そして、代表するように勇樹が口を開いた。
「あの、その“月の魔瞳”ってなんですか?」
そう訊ねるとネイ達が一瞬動きを止め、顔を見合わせた。
そして、今度は三人とも勇樹達を見た。
「ッ?!」
その瞳に銀色の魔法陣を宿らせながら。思わず勇樹達は息を飲んでいた。
「これが“月の魔瞳”よ」
眼帯をしているのとは反対の目に魔法陣を宿らせたまま綾乃が笑んだ。
さらにレアリーが解説する。「基本的な特徴は魔力の強化だね。他には他者とのコミュニケーション能力があるよ。……例えば、『聞こえる?』」
「え?」
「なんだ?」
「ひいっ?!」
突如として脳内に響いた声に、勇樹達は驚く。特に悠真の驚きようが酷く、おののいているようだった。それを見てレアリーは失敗したとばかりに顔をしかめた。
「」ごめんね? えっとユマちゃん。先に教えてからやれば良かったね?」
後悔をにじませるようにレアリーが悠真に頭を下げた。
「ふむんいきなりなのは良くないねい。まあ、これが“月の魔瞳”を持つ者同士なら精神同士で会話ができる“月界交信”という便利能力だよん♪ 使えるようになると重宝するよん♪」
ネイが笑いながら言うと、三人は再び顔を見合わせた。
「これ、強制受信なんですか?」
「基本的にはね。訓練を積めばひとりに絞れるし、コツを掴めば受信しないようにもできるよ。というか、今遮断を覚えておかないと、後で困るからね」
勇樹の問いに答えながらレアリーの解説が続いた。
「困る?」
勇樹が首をかしげた。それを見て綾乃がくすりと笑った。
「遮断はともかく絞り込みは難しいのよ。この基地でも訓練中の子がまだまだいるしね。まあ、女の子同士の会話を盗み聞きしたいんなら止めないけど?」
「今すぐ教えてください」
即答である。それを聞いてシルヴィアが、悪だくみをする小悪魔のように笑った。
「なんだよユウ。女の子の秘密のあれやこれやが聞けちゃうんだぞ? 役得じゃん☆」
「そんな盗み聞きみたいなことするつもりはないよ。シルビーだって聞かれたくない事あるでしょ?」
シルヴィアの言葉を、何をバカなとばかりに気って捨てる勇樹。シルヴィアはつまらなさそうに下くちびるをにゅっと突き出した。
「ちぇー、つまんねーの」
「詰まれ」
「なんだよベンピになれって?」
「違うって!」
「んじゃユウはゲリピーな?」
「なんでさっ?!」
「だって詰まらないんだろ?」
「それはシルビーじゃないか!」
「あたしにゲリになって欲しいのか?」
「そうじゃないよっ?!」
「じゃあなんだよ~」
「ああもう……」
軽妙に掛け合うふたりに他四人はぽかんとなった。
「……あんたたち恋人同士?」
「違います」
「違うよ?」
レアリーが聞けば同時に否定。その姿に綾乃が苦笑した。
「にしては、ずいぶん息があってるな」
「そうだねい」
ネイも興味深げに見てきた。
すると勇樹が苦笑いした。
「いやまあ付き合いだけは長いですから……」
「生まれてこのかた十七年の腐れ縁だしなあ」
勇樹の言葉にうなずいてシルヴィアが笑う。
「同居でもしていたのかしら?」
「親類とひとつ屋根の下っていうのは珍しいね」
綾乃が首を傾げレアリーも思案気につぶやいた。
そんな言葉を聞いて勇樹が息を吐いた。
「まあ、それはともかくとして、“月の魔瞳”を介した通信の遮断方法お願いします」
彼がそう言うと綾乃とレアリーがハタとなった。
「そ、そうだったわね」
「あはは、ちょっと気になっちゃって……」
焦る綾乃に誤魔化すレアリー。そしてネイが笑う。
「にゅはは♪ 女の子はこういう話が好きなんだよん♪ うむん。ほんではおねーさんから。まず“月の魔瞳”は自分で出せるかなん?」
ネイの問いに、勇樹達は顔を見合わせる。
「……いえ、任意に出し入れできるんですか?」
「ふみゅ。やはり知らなかったみたいだねい。可能だよん。やり方を教えるから出してみそ?」
そう言ってウインクするネイ。
「まずは目を閉じるよん。その状態で、視界の中心に意識を集中」
「……お? なんか光が集まって」
シルヴィアの出した声にネイがうなずいた。
「うむん、筋が良いねい。それが円状に集束するイメージを保って」
シルヴィアの真っ暗な視界の真ん中に集まった光が、くるくると周り始め、円環を描く。
その円環の中にさらに円が現れて幾何学模様を生み出し、魔法陣が形成されていった。
「……円が幾何学模様で埋まったら完成。目を開いても良いよん」
ネイに促され、シルヴィアが目を開いた。その右の蒼い瞳の中に、銀色の魔法陣が浮かぶ。そしてその視界は普通の視界より少し暗かった。
「……これが“月の魔瞳”? なんか暗い?」
すでにシルヴィアには魔法陣は見えていなかった。だが、他の者が見れば、確かに銀色の魔法陣はそこにあった。
「……わあ」
そして悠真も感嘆するように声をあげていた。
そして勇樹も。
「……へえ」
その黒瞳に銀色の円環を宿しながら感嘆した。




