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4th episode-2


「そういう訳で、ユーキさん達に魔法をレクチャーする事になりました、リューナ・ファンタと……」

「……リュミナ・レクスブレク・ファンタだ」

『おお~』

 満面の笑みを浮かべて自己紹介するリューナと、仏頂面で嫌々自己紹介するリュミナを前にして、勇樹たちはパチパチと拍手した。それを受けてリューナが胸を張る。エルフにしては豊かすぎるふたつの実りがたゆんと揺れた。

 逆にリュミナは憮然となった。

「よろしくね? リューナ、リュミナ」

「よろしくな♪」

「よろしくお願いします」


 勇樹たち三人が言うと、リューナは満面の笑みを浮かべて「ハイ♪」と返事をするが、リュミナは勇樹をにらむ。

「……私の名前を呼ぶな、破廉恥漢め」

「リュミナッ!」

 刺々しく言うリュミナをリューナがたしなめる。その様子に勇樹は苦笑いを浮かべた。

「あはは、良いよリューナ。僕は気にしてないから……」

 そんな勇樹に追従するように、半眼になったシルヴィアが口を開いた。

「つーかさ、揉めてる相手のユウはともかくとして、あたしや悠真にまでその態度は無ーんじゃねえの?」

 その言葉にリュミナが詰まる。そして軽く息を吐いた。

「……確かにそうだな。済まなかった二人とも」

 そして、シルヴィアと悠真に向けて頭を下げた。勇樹の方を向いていない辺り徹底している。そんな妹の様子に、リューナは額に手をやり、息を吐いた。

「……もう、リュミナったら……。すいませんユーキさん」

 謝るリューナに勇樹は手を振る。

「いや仕方ないよ。というか、君が怒っていないのが僕には不思議だけど……」

 バツが悪そうに彼が言うと、リューナはキョトンとなった。そしてワンテンポ置いてから、ポンッ! という音と共に白雪のような白い肌の顔が、深紅に染まり、頭のてっぺんから湯気が立つ。

「……え、えーと、それは別に怒ってないと言いますか、恥ずかしくはありましたが、別にユーキさんなら構わないといいますか……」

 もじもじしながら開いた両手の指先をチョンチョンと合わせながら赤い顔のリューナがぽそぽそ喋る。その声が微妙に聞こえていないらしく、勇樹は首をかしげていた。その様にシルヴィアが頬杖つきながら嘆息し、リュミナが歯軋りをする。

「……鈍ちん。ギャルゲの主人公かっての」

「くっ、姉上をたぶらかしおってからに……」

「……?」

 ちなみに悠真はよく分かっておらずに精霊を膝に抱いたままこくんと小首をかしげていた。

 年齢は勇樹達とひとつ違いの十六才のはずだが、低身長の見た目相応に幼く思えてしまう。

「……やっぱり子供は三人……」

 そしてリューナは妄想の世界に旅立ち始め、やんやんやん♪ とばかりに頬に手を添え身を捩っている。

 その様子にリュミナが業を煮やし、咳払いをし始めた。

「あーごほんごほん! 早く授業を始めましょう姉上! 時間も限られていますし」

「!」

 リュミナの言葉にリューナがハッとなった。

「そ、そうよね……こ、こほん」

 誤魔化すように彼女も咳払いするものの、いまだにその頬は熱いままだった。

「え、えー、それでは授業を始めます!」

 こうして、勇樹達の魔法勉強が開始された。



「魔法とは?」

 リューナはまず、そう始めた。

「魔法とは、その昔は奇跡の御技とも言われていましたが、ここ百年ほどでメタリカとの共同研究が進み、技術体系が確立されました」

 リューナが左の人差し指を立ててひと振りすると、その先に火が点る。

「魔力を導き出し……」

 その火がふわりと舞い上がる。

「法理に基づいて術式を為し」

 火は火の玉となって宙を飛び、

「現象を起こす」

 それが四つに分裂し、

「現在では確立された技術です」

 そのまま空中で踊り始めた。

 それを勇樹達はポカンとしながら見ていた。その様子にリューナが微笑むと、踊っていた火の玉がピタリと制止し、一斉に消え去る。

「ですから手順や理屈を覚えてしまえば誰でも使えるようになります。まあ、制限もありますけど……」

 小さく苦笑い。そしてリューナはリュミナを見た。

「リューナ、魔法の三大要素は?」

「“魔導”“魔法”“魔術”の三つ。この三要素が揃うことが魔法発動の必須条件だ」

 淀み無く答えるリュミナ。

 リューナがうなずいた。

「そうですね。この場合の魔法と“魔法”は少々意味が異なります。えと……」

 リューナは黒板を向いて手にした白炭で書こうとして止まった。そして三人に向き直る。

「……読み書きはまだでしたっけ?」

 訊ねたリューナに勇樹達は苦笑いした。

「現在猛勉強中です」

「“月の魔瞳”ですり合わせが起きてるから楽だけどな」

 “月の魔瞳”によって会話は問題無くなったが、文字の読み書きはそうはいかない。

 それでも知識としてプリンティングされているために、意味を通してしまえば読んで書けるのだが、なまじ翻訳できてしまうため、日本語で書いてしまうのだ。

 これを公用アゼッタ語という言語に直すように三人とも“矯正中”である。

「まあ、簡単な奴なら読めないこともないけどな」

 シルヴィアが笑いながら言うとリューナも笑った。

「なら、板書も勉強の範疇ですね」

 言いながらふたたび黒板に書き記していく。流麗な書体が黒板に記されていく。

「魔法は名称で、“魔法”は法理……つまり法則を表します。法理によって体系が区別されるので魔法と呼ばれるんですね」

 その文字は曲がりくねった線が並んだもので、一見するとアラビア文字のようにも見えるものだ。

 “月の魔瞳”の補助によって意味は取れるが、実際に書くとなるとすでに日本語に翻訳されたものを公用アゼッタ語に変換して書き記すことになる。

 また、勇樹達が喋る言葉は日本語だが、レアリー達魔女には通じるが、それ以外には通じていなかったりする。

 魔女達も聞いた言語を“月の魔瞳”で翻訳されているからだ。

 これに気づくまで勇樹達は戸惑うことが多かったが、今は少しずつ解消されている。

「“魔導”は魔力を導き出す小とを指します。魔力はこの世界に存在するあらゆるモノにあります。無論私たちにも」

 そう言ってリューナは勇樹達を順番に見ていく。

「異世界人であるユーキさん達にもあります。すでにユーキさん達はこの世界に存在していますから」

 そして笑んだ。そこでシルヴィアが手を挙げた。

「なんでしょう? シルヴィアさん」

「……ダスクメタリカってやつらにもあるのか?」

 その問いに、リューナはわずかに詰まる。が、「……あります」と答えた。



 『ダスクメタリカ』


 世界を破壊する黒き鋼の悪魔。銀色の海を広げて世界を侵食する侵略者だ。

 その恐ろしさを勇樹達はまだ伝聞でしか知らない。



「彼らも世界に存在していますからね」

 苦いものを含んだ表情になるリューナ。リュミナも表情が険しくなっていた。


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