4th episode-1
試合後、勇樹は若干株を下げていたが、魔女たちには概ね受け入れられていた。
武闘派筆頭のクウリャが認めたような発言をしたのが大きいだろう。
しかしながらエルフ姉妹の妹、リュミナは勇樹に対してかなりの敵愾心を抱いており、姉のリューナにも近づけないよう威嚇するほどだった。
リューナ自身は勇樹を気にしているため、話をしたそうにしてはいるものの、大事な妹であるリュミナの手前、我慢しているようではあった。
そんな風に数日を過ごした一同に、変化が起きようとしていた。
「魔法を? ユーキ達に?」
「うむん」
その提案にレアリーが声を上げ、ネイがうなずいた。
首都での報告を終えたネイは、一晩だけ実家に戻りつつも、騎士軍の動きを調べていた。だが状況は芳しくなかった。
結局、ローザリア王国最前線の通常部隊、約一個師団(歩兵換算で一万人ほどの兵力)も引き抜かれ、502の各部隊はその穴を埋めるべく哨戒行動を密にしていた。
その分、即応できる魔女の数も減少し、基地の防備も薄まる。
「こんな状況だしねい。正直、ゆっきー達の護衛も難しくなってるよん。ま、ゆっきーとしるりんなら普通の相手は対処できそうだけど……」
「魔法を使う相手が出てきてはそうもいかないわね」
ネイの言葉を綾乃が継いだ。それを聞いてレアリーも、確かにとうなずかざるおえない。
「……確かにリュミナやクウリャと戦えるだけの実力があっても、魔法を使われたら知識の無い彼らには対処できないわね……けど」
言葉を切ってレアリーはネイと綾乃をにらむ。
「……けど、そのまま彼らを戦力化するつもりじゃあないでしょうね?」
「……」
レアリーの鋭い声に、返るのは沈黙。しかし、瞑目した綾乃と、口元に笑みを浮かべたネイの様子から察することは出来る。
「彼らは異世界の人よ? この世界のために危険に飛び込まなければならない義務は無いわ」
「それは百も承知だよん。だから彼らに選んでもらうよん。戦うか否かをねい」
ネイが言い放つとレアリーが顔を歪めた。
「……戦う術と力を得て、彼らが座して待つと思うの? 選択肢なんて……」
レアリーがハッとなる。
「……そういうこと。そのつもりで彼らに魔法を教えるのね?」
険しい顔で問うレアリーに、ネイは笑みを見せるばかりだ。
レアリーは頭を振る。
「……こんなやりかたなんて……」
「認めなくても良いよん。けどねい。ゆっきー達を戦力化しなければ、遅かれ早かれ彼らは大公派に連れて行かれてしまうよん」
「そうだな。少なくとも502の戦力として取り込んでしまえば、東野の宗家は後ろ楯になれるし、そもそも“月の魔瞳”を持つものに対する人事権は、試験統合戦闘団の統括司令部にある。ローザリア大公と言えど強権を振るうことはできん」
綾乃もネイに追従するように言うと、レアリーは大きく息を吐いた。
「……わかったわ。あくまでもユーキ達の身の安全のため。そういう風に納得しておくわ。けど、誰が担当するの? 言っておくけど私は無理よ? スカーレットウイングの哨戒スケジュールはイッパイイッパイなんだから」
「わかってるよん。レキの護衛も続けてもらってるしねい。とはいえあちしも立て込んでるしねい」
レアリーにうなずき、ねいは頭を掻く。そこへ綾乃が口を開いた。
「わたしは教えるのに向いていないからパスね。けど……そうね哨戒チームにリューナは入っていないから、彼女に任せましょう。なにせ502トップクラスの魔法の使い手だしね」
綾乃がそう告げると、ネイとレアリーもうなずいた。
こうして、リューナは諮らずもユーキ達に関わる大義名分を得ることになった。
無論、それを快く思わない者も居る。
「納得いきませんっ!」
ネイの執務室に飛び込んできたリュミナは、開口一番に言い放つ。ネイは嘆息した。
「これは決定事項ですよ? リュミナ・レクスブレク・ファンタ・“ローザリア”大竜士」 そう呼ばれてリュミナはビクリと震えた。その様子を気にもとめず、ネイは続ける
「女王陛下よりお預かりしているとはいえ、あなたも一人の魔女、一人の兵士に過ぎません。勘違いしないように」
「……申し訳、ありません……でした」
強く言われ、リュミナはうなだれそうになるが、すぐに不動の姿勢をとった。
その生真面目さは、彼女の長所であり、短所でもある。
ネイはその姿を見て好ましそうに笑んだ。
「……まあ、りゅんりゅんも心配だよねい。うむん、そうだねい。りゅんりゅんも参加すると良いよん♪」
「……は、はあっ?!」
いつもの砕けた口調のネイに言われ、リュミナはすっとんきょうな声を上げた。
それを気にすること無く、ネイは笑いながら続ける。
「リュミナ・レクスブレク・ファンタ大竜士。あなたにはリューナ・ファンタ竜士と共に、異世界人の三名、ユーキ・カナザワ、シルヴィア・クローヴィス、ユマ・カナザワの三名に、魔法を教える任務を課すことにします。ま、頑張ってほしいよん♪」
呆気にとられるリュミナを後目に、ネイは楽しそうに笑った。




