3rd episode-3
「はっはっは! そんなことになったか。私も居合わせたかったなあ」
朝の騒動の後、ぎくしゃくした朝食を終えてレアリーが頭を抱えている辺りで、用事を手早く済ませた綾乃が帰投した。
そして事情を聴いた彼女の開口一番の台詞が先のものである。
「……笑い事じゃあないわよ。これからどうすんのよ……」
笑う綾乃の前で、レアリーは頭を抱えた。
それを見た綾乃は笑みを引っ込めてアゴに手をやり思案する。
「ふむ。元をただせば私の部下が原因だしねえ。やはりガス抜きは必要かしら?」
「そのつもりの祝勝会だったんだけどね……」
綾乃が漏らした言葉にレアリーは嘆息しながら答えた。だからこその豪勢な食事。台所事情のある軍隊なのだから、当然無駄は省くものだ。その原則を無視したのは、異物《勇樹達》を抱え込んだ不安を払拭する狙いがあったようだが、うまくいかなかったようである。
「……クウリャも悪い子ではないのだけれどね。そもそも警戒心が高すぎる子だから……」
綾乃は苦笑い気味に呟やき頭を振った。レアリーも頭が痛いとばかりに額に手をやった。
「今回はマイナスに働いたわね。普段ならリュミナが御してくれるんだけど……」
ぼやくようなレアリーの言葉に、「あの子はリューナが絡むとダメだからねえ……」とさらに苦笑いする綾乃。
それを聞いてレアリーは深く息を吐いた。
「……ほんと、どうしたものかしら……」
そんなぼやきに、綾乃は頷いた。
「そうね。わだかまりを解くためにも、ちょっと乱暴だけど、角突き合わせさせるのもひとつのやり方かもしれないわね」
「……何をする気?」
綾乃の言葉に、レアリーは眉根を寄せた。どうやら悪い予感を感じたようだった。そんなレアリーに、綾乃笑って見せた。
「なに、どうしても角突き合わせたいなら、私たちの手の届く範囲で、管理しながらやらせたほうがよいでしょ?」
「……それは、そうかもしれないけど」
綾乃の言葉に、レアリーはしかめっ面になった。
確かに綾乃言う通りではあるのだが、その一方で不安感がぬぐえない。ネイよりは遥かにマシではあるが、綾乃も茶目っ気を出すことがたまにある。
それを考えると油断は禁物だと心のどこかが訴えていた。しかし、代案も無い以上現状をより良くするには、彼女の案にのるより他無いのだ。
「…………はあ。ネイが出した案じゃないだけマシか……」
観念したように息を吐くレアリー。気持ちを切り替え、綾乃を見る。
「それで? 具体的にはどうするの?」
「それはね?」
訊ねたレアリーに、綾乃は片方だけ残った目に弧を描かせながら説明し始めた。
聞き終えたレアリーは嘆息した。
「……乱暴すぎない? それ」
「中途半端よりは良いと思うわよ。まあ、怪我くらいは覚悟してもらいましょう。どの道ユーキ達自身が何ができるのかは最終的に示してもらわないといけないしね」
渋るレアリーに綾乃は真剣な表情で言い切った。
最前線である以上、彼らをいつまでもお客さん扱いすることは出来ない。
それはレアリーも承知しているのだ。
「……綾乃は彼らを戦わせるつもり?」
にらむように訊ねる。綾乃は、それを正面から受け止めた。
「ええ。もちろん彼らがその意思を見せれば。だけれどね。とりあえず戦力化してしまえば、私の実家が後ろ楯になれる処までは持っていけるわ。少なくともユーキはそうしないと留め置くのが難しいと思うわ」
「……そう、東野の宗家はそう決めたのね?」
レアリーの言葉に綾乃が頷く。
「そういうこと。それから……」
綾乃が表情を引き締め、レアリーはおや? となった。
「それから?」
「……我らの“主”、皇龍妃様がユーキ達三人との会見を望まれてらっしゃるわ」
「!?」
綾乃の言葉に、レアリーは息を飲んだ。
その日の昼食時に、大食堂に集められた魔女達と勇樹達を前にして、隻眼の魔女、東野綾乃はこう宣言した。
『そういうわけで! ファンタ大竜士とクウリャ竜士は、カナザワ君、クローヴィスさんと試合形式の模擬戦をしてもらいます。武器有り、魔法無し。あとはそうねえ……殺してしまう以外なら何でもアリで、相手を無力化するか、戦意を喪失させることが出来たら勝ち。そんな感じでやるわね~』
その軽い調子の言葉に、その場の全員が声を失った。




