祭り
あるところに黒くて小さい妖怪がいた。
妖怪はいつも一人だった。
ずっと長いこと一人で過ごして来た。それが当たり前で孤独など感じる事などなかった
それに、村の外れにある社に棲む白狐もまたずっと一人だったのだ。
同じ一人。
一人が自分だけじゃないなら平気、妖怪はそう思って過ごしていた。
年に一度村で行われる祭りの日。
祭り囃子が聞こえ舞が捧げられ出店開く楽しげな声が響きわたり夜の帳が降りてもそれは続いた。
そんな日も妖怪は一人で、ただ祭りの灯りを見つめていた。
ふと白狐の社に見知らぬ子供がいるのに気が付いた。
社で何かを待っている風な子供を見て妖怪は居ても立っていられず、思わず声をかけていた。
呼ばれた子供は驚きもせず、振り返り妖怪を見て、嬉しげに微笑みすら浮かべるのだった。
妖怪は言葉を失い立ち尽くした。
子供は絵顔のまま妖怪に向き直ると、君を待っていたんだと手を差しのべるのだった。
微動だにしない妖怪は、子供をよく見ると人ではあり得ない瞳の色をしていることに気がついた。
そうすると、全てに合点かいき、目の前にいるのが人の子に化けた白狐だとわかった。
白狐は不思議色の瞳を細め、一緒に祭りに行こうと、更に手を差し出すのだった…早くしないと祭りが終わってしまうよ
一人と一人が二人になって、もう一人ぼっちじゃなくなった。
読んでいただきありがとうございます。
小説とも言いがたい短いものですが少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
誤字脱字などおかしな所などご指摘いただけるとありがたいです。