悪役令嬢の使用人に対する虐待の物証を求めた婚約者の王太子の話
「殿下、証人が名乗り出ました」
フウ、またか。
「リックス、また、金目的か?」
「殿下、何でも証拠の品を持っていると言っています」
「会おう。生徒会執務室につれて来い」
我の婚約者アステリアは希代の悪女である。
従姉妹のミミリーをイジメ抜いた。
ミミリーとはアステリアの従姉妹でもあるがメイドもしてくれる友であるべき存在。
いくら、両親が馬車の事故で亡くなり。後見人として入ってくれた親戚一家が気に入らないからって、ミミリーに熱湯を被せ。体罰まで与えたと言うではないか?
お茶会は中止ばかり。学園に入学した時に顔合わせ以来あったが、まあ、派手でまるで演劇の悪役令嬢の姿のようだった。顔も令嬢らしからぬ眉間にシワをよせ。湯浴みを満足にしていないような悪臭が漂っていた。
我は学園でアステリアの後ろでビクビク震えながらついて来るミミリーを不審に思って問いかけたのだ。
『アステリア、メイド殿が手に包帯を巻いているが休ませるべきではないか?』
するとミミリーは。
『ヒィ、これは、あ、あたし、ドジで、お湯をこぼしました・・あたしのせいです!』
これで得心した。
我の婚約者だ。調査をした。財産管理人のギリック子爵に問い詰めた。
『それは・・・アステリア様は両親が亡くなってから粗暴の振る舞いが少々ございまして・・・これは致し方ないことです。私の力不足です』
口を濁すが、日常的に粗暴に振る舞っていたのだろう。
子爵に使用人達を集めさせた。
最初こそ口を濁していたが・・・
『王族の名誉にかけて諸君らに不利益を与えないと約束しよう』
にやっと口を開いた。
使用人に対する暴力はまるで令嬢のお茶会のように頻繁に行われていた。
一番ヒドかったのはミミリーだった。
『メイドを信用せずに湯浴みもして下さりません』
『ミミリー様は自らアステリア様をお慰めしようとメイドでお仕えしておりますが・・』
『食事は草粥、時には虫が入った物を食べさせます』
『真冬、裸にして折檻を・・・グスン』
『そうか、ミミリー嬢、王宮の女魔道士に傷を見せてもらえないだろうか?魔道写真を撮る。誓って我は見ない』
証拠を集めようとしたが・・・
『殿下、私の娘です。回復術士にすぐに診せております』
傷は消えているらしい。
証言、証言、証言ばかりだ。
物証がない。
だが、我が父上、陛下に奏上し。アステリアを王宮の貴族牢に隔離するように訴えた。告訴の準備だ。
しかし・・・
『父上、何故、アステリアは客室なのですか?』
『証拠が乏しい』
『しかも、母上や妹達の話相手をさせているとは、デタラメを言うに違いありません』
『ヘンドリックよ。アステリアは屋敷でのことを固く口を閉ざしていると言うではないか?そんな心配をするよりも物証だ。自分で告発したのだろう?義務を果たせ』
今は十七歳、後1年で我と結婚するところであった。
こんな女が王太子妃になり化粧料として公爵領を相続し我との第二子が公爵家を継ぐなど片腹いたい。
・・・・・・・・・・・・・・
生徒会執務室に現われた男は小汚い格好で小箱を持っている。
公爵家の庭師と名乗っている。足を引きずっている。カタワらしい。
どこかで見たことがある。もしかして屋敷を訪れた時か?そう言えば下層の使用人達には会っていなかった。記憶の扉を探っていたら男が挨拶をした。
「へへへへへへ、あっしは庭師のハックと申し上げます」
「そうか、庭師か?どこかで会ったか?」
「さあ、会ったような会わなかったような・・・。遠くからお見かけしました。声はお近くでお聞きするぐらいでした」
「フム・・・庭師なら皆顔は似たようなものか・・」
「エへへへへ、あっしは元公爵領平民出の騎士でございまして、魔物討伐中に下手を打ちまして、王都のタウンハウスで庭師の真似事をさせてもらっております」
「分かった。褒美を取らす。その箱を置いて出ていくが良い」
側近に目配せさせて金を渡そうとしたが。
「いや、説明が必要です。お人払いを・・・・」
「必要ないだろう。それは隠し帳簿か?」
「あいや。異なことを、財産管理は子爵のお仕事ですよ」
そうだ。あの女は帳簿を任せっきりだったと云うではないか・・・
贅沢をしているが、公爵令嬢としては『注意』されるぐらいだ。
「絶対に殿下とそこのリックス様とギム様以外は建物ごとお人払いをお願いします。護衛に二人もいれば十分でしょう」
この男は頑固だ。しかし、何故、側近の名を知っている?訝しげに思うと遮るように男は挑発した。
「おや、こちらは剣を持っておりません。それとも、百戦錬磨の護衛騎士のギム様がいるのに・・・こんな足悪のおっさんであるあっしが怖いのですか?」
「貴様!」
「まあ、待て、リックスとギム以外は部屋を出ろ。建物ごと人払いをしたら教えろ」
折れて男の言うとおりにした。しかし、リックスは宰相の息子、側近に目配せをする。何かあったらすぐに貴公子達が剣を持って入れるようにするだろう。
学園でも剣術棟には各々の剣がある。
男はふざけて箱を開けた。
「ジャジャーン!これが証拠でございます!」
箱の中から黒い丸い物を取り出し。見せびらかすようにかざした。
「これは何だ?」
「はい、魔道爆弾でございまーす」
一瞬でギムは腰の柄に手をあて。リックスが我の前に立ち塞がり庇った。
「大声出すと、起爆しますよ~」
自爆か。狂っている。部屋ごと爆発するつもりか?
「何が、目的か?」
「あっしの話を聞いてくれませんか?そしたら、爆弾をしまって逮捕されましょう」
(殿下、時間を稼ぎましょう)
(うむ)
「あ、時間を稼ごうとしているでしょう。まあ、いいか」
男は長々と身の上から語り出した。
☆☆☆
「あっしは、平民から騎士に取り立ててもらった元冒険者でした・・・」
ええ、下手を打ちまして、足を魔獣の爪でかじられまして・・・
カタワに落ちました。
ああ、どうせクビになるのだろうとビクビクしていたら。
『グスン、グスン、お兄ちゃん。いたい?』
ええ、救護所に綺麗な服を着た幼女が現われてあっしを見て泣いているのです。
それがアステリア様との初見でした。
公爵様も。
『アステリアよく見るのだ。民を守った英雄だ』
と仰せになりました。
それからあっしは騎士団を抜けて、王都のタウンハウスで庭師の仕事をさせてもらうことになりました。
ええ、お嬢様は庭で遊ぶのが大好きな方でした。
『ハック、いつもお庭を綺麗にしてくれてありがと』
いつもお声がけをして頂きました。
あの時は良かった。奥様に見守れてお嬢様がメイド達と遊ぶお姿を見るのが幸せでした。
・・・・・・・
「それで前公爵夫妻が事故にあってから、アステリアは豹変したのだな!」
我は全く違うアステリアの印象の話をされたので遮った。
男の意図は分からないが、まるでアステリアを庇うような証言だ。
「あ、殿下、こう思っているでしょう?もしかして、間違っているかも?あ~、間違って告発をした『我』は陛下に叱られる~、利発と有名な第二王子殿下に王位奪われちゃうー!っと」
「だ、黙れ!殿下、斬りましょう!」
「そうです!」
「いえね。あっしは殿下に感謝しているのですよ?話続けますね」
予想外の感謝の言葉・・・我は話を聞くしかなかった。
☆☆☆
公爵夫妻が事故に遭われたとき。アステリア様はまだ十二歳でした。
貴族の法では財産管理人が入るようで・・・
財産管理人一家が来た当日に使用人達は解雇されました。
残ったのは洗濯メイドのベッキー、庭師のあっしだけでした。
『アステリア様・・・』
あっしらは遠くから見守るしかありませんでした。
旦那様の親戚だ。心の傷を癒やして下さる。
しかし、現実は残酷でした。
庭に現われなくなったのです。
洗濯メイドから悲痛な告発を受けました。
「ハックさん。お嬢様のドレスに・・・血がついております」
「・・・ベッキー、それは本当け?」
いつも、お嬢様は子爵が連れて来た使用人達に日常的に折檻を受けていると分かったのです。
「告発するべ」
「でも、ハックさん。告発している間、お嬢様は・・・」
これは盗賊のやり方だ。お嬢様はいつも屋敷に閉じ込まれている。
あっし達は隠れてお助けするしかなかったのです。
不幸中の幸いなことにお嬢様は日当たりの悪い部屋に移りました。
食事も部屋に運ばれます。おかげで。
隠れていろいろできました。
粗末な草の入った麦粥や虫の入った食事を捨ててあっしらの賄いを差し上げたり。
それでもお嬢様はあっしらを気遣いました。
『あなたたちの食事もあるでしょうに・・・』
『お嬢様、お労しい』
時にはお湯をかけられるときがありました。
『アステリア、殿下に手紙を渡そうとしたでしょう・』
『ミミリー、これは・・』
『屋敷の中ではミミリー様でしょうが!』
ドレスで見えない箇所に熱湯をかけます。
あっしらは傷薬を塗って差し上げることしか出来ませんでした。
でも、婚約者であるヘンドリック様なら何とかしてくれるだろうと期待しましたが、
まあ、ご存じの通り朴念仁で。
お茶会中止の話を真に受けて近よりもしません。
なら、十五歳になられて学園に行けば・・・誰か気がついて下さる。
と思ったが、子爵はドレスだけは揃えます。
それも、まるで悪役令嬢のように派手なドレスを。
お嬢様には全く似合いません。
でも、十八歳になれば、財産管理人が外れます。
それまで耐えれば・・・
しかし、お屋敷に二人の貴公子たちが現われるようになりました。
確か・・・・
宰相の息子と護衛騎士の息子だとか言っていたよな。
ミミリー様と仲が宜しくて、庭の中にある作業用具入れの倉庫に頻繁に訪れました。
「俺の子を産んでくれよ」
「えー、赤毛だから目立つわ。リックスだったら、殿下と同じ色だから良いかも。協力してくれる?」
「もう一回戦してくれたら考えるぞ」
「キャー!」
子爵は賢いの前にズルが付くお方でした。王妃なんてなれるとは思ってはいなかったでしょう。
愛妾でも良い。そしたら、子爵でも隠れた権勢を得ることが出来る。
王の愛人の家門は何かと顔が利くようになるのは殿下の方がご存じでしょう。
そして、つい。最近、作業用具入れ小屋にやんごとなき方が現われました。
・・・・・・・・・・・・・
「それが、殿下です。ミミリー様と懇ろになりましたね。いや~、仕方ない。殿下の年頃だったらプルプル震えている令嬢が体を預けたらしたくなりますよね」
我だけではなかったのか?
リックス、ギムも・・・・今、思えば誘導されたような・・・
「感謝しているのですよ。殿下がアステリア様を王宮預かりにしてくれたおかげで・・・人質がいなくなったとね」
呆然としていると男は天井を見るように顔をあげて笑い出した。
【ア~ハハハハハハ~!】
「痴れ者だ!斬る!」
ギムが剣を抜いた・・・
「はい、魔道爆弾」
「えっ」
ギムに魔道爆弾を投げた。いや、取れるように緩くだ。チカチカ光っている。爆発する。
まるで呆けたようにギムは爆弾を受け取った。何故だ?
次の瞬間バチンと何かを撃ったような音がした。
「ギャアアアアアアーーーーー!手が手が!」
ギムの両手首がない。
「素人さんは爆弾と言えば、すぐに大爆発を連想する・・・こうやって、死なない程度に魔力を調整することできるんですぜ。それと人は手渡すと自然と物を受け取るようになっておりまして、あ、剣頂きますね」
「ヒィ!」
次はリックスを斬った。いや、突いた。
剣が見えない。カタワではないのか?
「これも死なない程度に斬りましたよ~ん。って、嘘!剣をまわします!」
刺さった剣をそのまま回した。するとリックスは吐血した。死んだらしい・・・
狂っている。
【殿下!何事ですか?】
爆発音を聞きつけて派閥の貴公子達が剣を持って入って来た。
「あ、馬鹿、狭い室内にそんな大勢入ったら・・・」
【なます斬りにして下さいって言っているようなものでしょう!】
それから、誰が言ったか分からない。
「こ、こいつ、ハックだ!ドラゴン殺しのハックだ!」
そうか、既視感はこれか、王宮の資料で見た事がある・・・
冒険者出身、王国で八人しかいない称号を持つ者・・・
騎士に取り立てられて子供を庇って足を負傷・・・年金生活をヨシとせず庭師になった変わり者、何故、気がつかなかった!
足が悪いが・・数人を斬った後、ポーションを飲んだ。
体が青く光る。まるで狂戦士のようだ。
「ヒィ、助けて・・・」
「あら、戦わないんですか?ほら、ほら、殿下が殺されちゃうよ。あ~、派閥没落しちゃうよ~、あ~、大変だ!廃嫡だ!跡取りになれないよー!」
戦意を喪失した貴公子達を煽る。性格が悪い。資料だったら子供を守った高潔な騎士ではないのか?
女子学園生が入って来た。
「何があったのですか?キャア、殿下!」
「あ、どうも、お嬢さん。関係ないからいいよ」
関係のない生徒には手を出さない。
気がついたら我の股間は冷たくなっていた。漏らしたのか?
それから近衛騎士団が出動する事態にまでなった。
さすがにこのときハックは息も絶え絶えだった。
「貴公、ハック殿とお見受けする。我輩は近衛騎士団リヒター・グレイ、尋常な勝負を所望する」
「はあ、はあ、もう疲れた。だが、ケジメだ。あっしを討ち取って手柄にしておくんなさい」
「・・・これもお役目ゆえ、ごめん!」
☆☆☆王宮執務室
その日の夕方に学園の惨状の他にもう一つの事件が報告された。事件の前日にもう一つ惨劇が起きていたのだ。
「・・・陛下、グレーバー公爵家、公爵家財産管理人他使用人たち三十六名死亡であります。生き残ったのはたまたま用事で外に出ていた洗濯メイドのベッキーです。庭師のハックは・・・次の日学園に現われ殿下と面会をしました・・・その後、事件が起きました」
「うむ」
アステリア嬢を王宮で保護したからおそらくハックとやらが行動を起したのだろうか?
陛下はそう推察した。
「財産管理人一家は生きたまま熱湯をかけられ虫を食わされたと推察されています・・・それと・・・裏帳簿と、ヘンドリック殿下の、その・・・」
「言え、はっきりと言え」
「殿下のパンツがミミリー嬢の下履きと一緒においてありました。王宮で使う物です。他の貴公子のパンツも・・・」
「何だ。替えパンツもおいていたのか・・・」
そして学園の惨劇か・・・
「現在、容疑者ベッキーを拘束しております。取り調べをこれから行います」
「卿は洗濯メイドが三十六名斬殺すると考えているのか?・・・釈放せよ。公爵家のメイドだ。アステリア嬢の判断に委ねさせよ」
「御意!」
それから次々と報告が舞い込んだ。
「陛下、グレーバー公爵令嬢の使用人虐待の件、証拠がございません」
「うむ。告訴を取り下げよ」
「それと、学園で病疫が蔓延し貴公子達八名死亡と届けられています」
「うむ。受理せよ」
「更に学園で剣術でふざけ合って、怪我をしたと十六名が学園休学届が出ております・・・」
「受理して構わんが、廃嫡を条件にせよ」
「御意!」
「全て貴公子達で、ヘンドリックの派閥の者か・・・女学生、使用人は被害がない・・とはな。まるで犯行で意思表示をしているようだな・・」
「陛下、マドリック伯爵家だけ。子息が殿下を守らなかったを理由に令息の廃嫡届が出ております」
「うむ。ルスカ、どう処置する?」
既に陛下は第二王子に諮問するようになった。
「陛下、伯爵はしばらく謹慎、その後に希望があれば面会をしてみたいと思います」
「そうか・・・」
子爵家一家が亡くなった報を聞き。アステリアはやっと心の内を王妃殿下に明かした。
「・・・これで、やっと、ベッキーとハックが殺されなくてすみますわ」
「アステリア、少し休みなさい。貴方には何も考えないで過ごす時間が必要よ」
「はい」
・・・お互いに人質になっていたと思っていたのね。
王妃はまだハックの死亡を伝える時期ではないと判断した。
軽く抱擁しそのまま窓を見た。
庭でヘンドリックが庭師の仕事をしている風景が王妃の目に映った。
(まずは見習いからね・・・・償いなさい。愚かさは罪よ)
王宮庭園局付、奇しくも庭師見習いが今のヘンドリックの職責であった。
最後までお読み頂き有難うございました。




