卒業式
卒業式が終わり、教室に戻ると、机の上には卒業アルバムが置かれていた。僕はそれを手に取り、しばらく表紙から目を離せなかった。僕らの中学生活の集大成がこの一冊に詰まっている。まだページを開いていないのに、まるで過去の思い出が溢れてきそうな気分だった。
「見ろよ、俺らのバスケの決勝の時だ!」
「文化祭の劇、これ!この場面、めっちゃ盛り上がったよな!」
周囲のクラスメイトたちは、それぞれに思い出の写真を見つけては声を上げ、ページをめくっている。僕もゆっくりとアルバムを開いてページをめくった。3年間の思い出が鮮やかに蘇る。笑い合う顔、真剣な顔、みんなの顔。見れば見るほど懐かしい。そして、幸せな時間がアルバムに詰まっていることを実感する。
「えっ…!」
それは予想外の瞬間だった。僕は自分の目を疑った。目の前に現れた一枚の写真。亮介は紺のトランクス、僕は真っ白なブリーフ。それは、僕と亮介がパンツ一丁でピースを決めた、あの風呂上がりの写真だった。体中が一気に熱くなった。冗談だろ、と言いたかったけれど、その写真は卒業アルバムの修学旅行のページに堂々と鎮座していた。
「おい、これ見ろよ!亮介と颯太、パンツ一丁でピースしてるぞ!」
誰かが声を上げると、教室全体が一気に盛り上がった。笑い声が爆発したように教室中を飛び交い、僕の心臓はドキドキと激しく音を立てる。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。どうして、どうしてこれが載っているんだ?
「亮介、これどういうノリなんだよ!?」
「お前ら、全力でピース決めてんじゃん!」
笑いの中心にいるのは、もちろん亮介だ。彼はケラケラ笑いながら、こう言った。
「いや、最高だろ?俺らの友情の一枚だ。」
亮介の無邪気な笑い声が響く。まるで、これが本当に大切な思い出なんだと亮介が教えてくれているようだ。
「颯太、お前真顔すぎだろ!」
別の友達が僕を冷やかしながら肩を叩いてくる。みんなが楽しんでいる。僕だけが、この場の雰囲気に乗り遅れている気がした。
「いや、これ…普通に恥ずかしいだろ…」
そう言いながらも、教室中の笑い声が次第に耳に心地よく響いてきた。亮介はアルバムを手に、得意げに写真を見せびらかしている。その姿がやけに堂々としていて、どこかヒーローみたいに見えた。
「颯太、マジでいい感じに俺ら写ってるじゃん!」
亮介がこちらを見て笑いながら言った。その飾り気のない笑顔で、教室全体の笑い声が一層明るくなっていく。
ふと、気がついた。みんなは「パンツ姿」という事実だけを面白がっているのだと。誰もブリーフだとか、そんなことは気にしていない。
そうか。気にしすぎていたのは自分だけなのか。
「ほんと、勘弁してほしいわ…」
そう呟きながらも、胸の奥にじんわりとした温かさが広がっていった。亮介が無邪気に笑い、僕もつい笑ってしまう。肩の力が抜けた瞬間、ようやくこの一枚が「思い出」だということを認められた気がした。
「……まあ、これも思い出かな」
その呟きを聞いた亮介は自信満々に「そうだろ、最高の思い出だ!」と笑いながら声を上げた。
僕たちの中学生活は、笑い声に包まれて終わろうとしている。この写真も、その一コマだ。今はちょっと恥ずかしい。でも、いつかこの写真を見返す時には、懐かしい気持ちになるのだろうか。きっとその時も、今みたいに笑っている。そんな未来を思い描きながら、僕はそっとアルバムを閉じた。




