お風呂上がりの写真(カメラマン視点)
中学校の修学旅行カメラマンとして同行して三日目。生徒たちの笑顔に囲まれ、今日も撮影に没頭した充実の一日だった。少し疲れを感じ始めた体には、この宿名物の温泉が心地良い。日中の賑やかさを癒やすように、大浴場へと向かった。
湯に浸かるつもりで来たのだが、職業病というか、ついカメラを持ってきてしまった。思わず撮りたくなる瞬間はいつ訪れるかわからない。僕にとってカメラは仕事道具であると同時に、世界を切り取る「相棒」でもあるのだ。のれんをくぐって脱衣所に入ると、風呂上がりの生徒たちが楽しげに着替えている。僕に気づいた数人がさっそく声をかけてきた。
「あ、井上さん!今日はお風呂ですか?」
「そうそう、今日はお風呂に来たんだ。でも、ついでに写真も撮っちゃうかもな」と軽く返すと、みんなが一斉に笑い声を上げた。
このクラスは本当に明るくて人懐っこい。どこへ行っても「写真撮ってください!」と頼まれるのが常だ。だからこそ、こうした自然な笑顔を捉える瞬間が僕にとって最高の醍醐味でもある。
ふと視線を向けると、少し離れたところで亮介と颯太が着替えているのが見えた。颯太は静かに体を拭いているが、亮介はいつもの調子で何やら企んでいる様子だ。案の定、亮介が颯太の肩に手を置いて「井上さん、こいつと一緒に写真撮ってよ!」とパンツ一枚のまま声をかけてきた。
颯太は少し視線を落としながら「いや、僕はいいよ……」と気恥ずかしそうな表情を浮かべている。
亮介は紺色のトランクス、颯太は白いブリーフ。颯太の視線がちらりと亮介の腰のほうに向いた後、わずかに眉が下がった。その一瞬の表情に、彼がパンツの違いを気にしていることが見て取れたが、亮介はそんなことはお構いなしに、颯太をぐいっと引っ張ってきた。
「ほら、颯太もピースして!」
亮介は満面の笑みでピースサインを決め、颯太も仕方なくぎこちなくピースをする。その瞬間、僕はカメラを構え、シャッターを切った。
パシャ。レンズ越しに映る二人の姿が鮮明に映し出される。亮介の全力スマイルと、颯太の少し照れくさそうな微笑みが絶妙に対比をなし、レンズに収まっている。
「いいね、その調子。もう一枚撮るよ!」
僕は続けてシャッターを切りながら、彼らの表情や仕草に目を凝らす。最初は固かった颯太の微笑みも、周りの笑い声と亮介の明るさに引き込まれるように、少しずつ自然な笑顔へと変わっていった。その隣で、亮介は相変わらずの全力スマイルだ。二人の対照的なキャラクターが、写真の中で絶妙なコントラストを作っていた。
僕がカメラマンとして大切にしているのは、その場の「空気感」を写真に残すこと。記録だけではなく、その場にあった感情や瞬間の雰囲気を切り取ることが、写真を「良いもの」にする。今回の写真にも、風呂上がりのリラックスした空気や、友達同士の軽いふざけ合い、照れくささがしっかりと収められていた。
「バッチリだよ、ありがとう!」と声をかけると、「ほら、笑ったもん勝ちだろ!」「お前に引っ張られただけだって」と二人でじゃれあっている。
この瞬間が、彼らの心にどんな形で刻まれるのかはわからない。ただ、これも思い出の一つになってくれることを願う。カメラを下ろし、彼らの無邪気な笑い声やふざけ合う姿を見守りながら、僕はこの仕事の一番の楽しみをかみしめていた。




