プロローグ
美しいヴァイオリンの音色と、少女の歌声。
噴水が湧き上がる華々しい広場には、今日も心を躍らす音楽が流れている。
笑い声が一層こだまする広場の中心には、金色の髪を揺らしながらヴァイオリンを優雅に弾く少年と、その音色に合わせて歌を歌うグレーのみつ編みの少女の姿があった。
観客は手拍子を叩いたり、体を揺らしたり、はたまた少し離れた場所で寝転んで目を瞑りながら耽ったりと、思い思いに音楽を楽しんでいる。ここにいる人は皆、幸せな表情で満ち溢れていた。
それは、中心で音楽を奏でる二人も同じ。いや、彼らの幸せが、周囲に伝播しているといったほうが正しいか。
二人は時折目を合わせ、微笑み合い、お互いを感じながらこの瞬間を生きている。
少年はこの国の第二王子で、かつては冷酷王子と呼ばれ国民からも周囲の王族からさえも恐れられていた。隣で歌う平民の少女と、こうして肩を並べて二重奏を奏でるようになるまでには、長い道のりがあって。そう、それはそれは長い道のりが。
これは、この街が『音楽の街』と呼ばれるようになるまで、そして、平民少女と王子が幸せの音楽を奏でるまでのお話。
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