レオの過去 前編
これは3年前、レオが7歳のとき。炎龍・サラマンダーと契約したときの話だ。
暑い。冬なのに。しかもなんか騒がしい。外の様子が気になって、レオは外に出た。
街が燃えていた。
正確には燃えていたのはレオの家以外だった。
「みんな…どこ…」
レオはきょろきょろとあたりを見回した。すると5メートルぐらい先に、倒れて手をレオのほうに向けている母がいた。その近くには、光を出して燃えているなにかがいた。
「母さん!!」
レオは母のもとへ駆け寄ろうとしたがなにかにはばまれ、しりもちをついた。
「レオ!!大丈夫だから!!目をつぶってて!!」
レオは言われていた通り、目をつぶった。
「いい!?それから、あなたが目をあけたら、私たちはいなくなってる!でも、いつか会えるから!!それまで…」
急な爆発音のせいでレオは母が何を言っているか聞き取れなかった。
「ねえ、そろそろ目を開けてもいい?怖いよ…」
…数秒待っても返事はなかった。
「ねえ、お母さん?」
レオはいままでの暑さから急に寒気を覚え、目を開けてしまった。レオは目を見開いた。あたり一面あったはずの家がすべて消え、母もいなくなっていた。レオは起き上がると、前に見えない壁がないことを確認し、さっきまで母がいた場所に駆けていった。そこにいたのは、目から炎がでている小さなトカゲだった。
「ねえ、ボクのお母さんがどこ行ったか知ってる?」
まわりに聞ける人がいなかったので、レオは返事がないと分かっていながらもそのトカゲに話しかけた。
「知らん」
まさか返事があるとは思っていなかった。レオはトカゲの目から出ている炎を見て言った。
「ボクの街を焼いたのって、キミ?」
レオの瞳はこの世のすべてのものを飲み込んでしまいそうな赤黒さだった。トカゲは考えるようにして下を向いた。
「そうなんだろう。吾輩がこの場に存在しているということは」
レオはトカゲの胴体を乱暴につかんだ。
「死ねよ!!!なんでボクの街を焼いたんだよ!!!!!」
レオは「死ね」なんていう言葉を使ったのは人生で初めてだった。
「…小僧、少し吾輩と話をしないか」
トカゲはレオにつかまれているにも関わらず、一切暴れたりしなかった。
「話なんかするか!!!今すぐ殺してやる!!!」
「貴様、人を殺めたことがないだろう。そんなたやすく殺すなど言うでない」
レオはトカゲを地面にたたきつけ、地面に座り込んだ。赤黒くなっている瞳から、涙が流れていた。
「…なんで…こんなことしたんだよ…」
「おそらく『脱皮』であろう」
レオはトカゲの顔を見た。
「自分がやったことだろ…」
トカゲは顔を上げた。
「初対面の相手には自己紹介をするというのが礼儀であろう。吾輩は、炎龍・サラマンダーだ」
レオは目をパチパチさせた。
「炎龍は、数千年に一度体にたまった炎を発散する必要があるのだ」
「なんでそんな自分のことじゃないみたいに話すの?」
レオの目からは爛々とした輝きが消えていた。
「もう『脱皮』以前の記憶は消えてしまっているものでな。吾輩が覚えていることは、己が炎龍であることのみ」
レオは情報量と感情でぐちゃぐちゃの頭の中で気づいてしまった。このトカゲは自分と同じ寂しい生き物だ、と。家族も友だちも、もういないのだ。そしてもうひとつ気づいてしまった。自分の境遇を理解してくれるのは街のみんなの仇である、このトカゲだけであると。
「そっか」
炎龍は頭をはたらかせていた。今の『脱皮』の後だと数年、うまく炎を扱えない。そしてこの少年は目の色が表すように、炎を扱う才能がある。その中で今見いだせる最善手は…
「小僧、吾輩と契約をする気はないか?」
「何言って…」
「今頼れるのが吾輩しかいない、お前もそう気づいているだろう。これから一人で生きていかなければならないのだ。この炎龍と手を組めば心強いだろう。少なくとも…野生動物に殺される心配などは無用だ」
レオの心は揺れ動いていた。このトカゲは街のみんなの仇であり、その一方で唯一の理解者である。幼いレオには、炎龍を敵だと決めつける勇気がなかった。
「わかった。でも、キミはボクにとって一生敵だから。それは変わらない」
「それでよかろう」
炎龍は、赤い炎になってレオの胸に飛び込んだ。
「え?ちょっと!!」
(騒ぐな小僧。今、お前と同化した。それによって、お前は炎を操れるようになった)
レオは、炎でろ!!と念じながら、腕を振ってみた。手から小さな火の粉が飛んだ。
(まだ修業が必要なようだな、小僧)
レオは目をつぶった。そして、幼いながらも決心した。これから死ぬまで、自分の仇と一緒に生きていくことを。




