外伝 国内編 海軍軍備
転移後の日本海軍の装備更新は低調だった。
とにかく国内の安定と、周辺偵察が優先された。
対米開戦を意識してピッチが上げられていた艦艇建造や、航空機生産は通常体制に戻された。
まだ計画段階の大型艦はすべて先送りとされた。
ただその中でも、空母と老朽化した艦艇の代替艦はピッチはそのままだった。空母は周辺偵察の要となる艦種だし、未知の海域に老朽艦を送り込むのが、はばかられたせいであった。
特に老朽化が著しい5500トン級の代替になるべく、多用途巡洋艦として設計された阿賀野級軽巡洋艦の建造は急がれた。
重巡の代替は、越百級だったが、青葉級代替艦以後の建造は先送りとされた。
戦艦も、信濃の建造は主砲が無いと言う事で計画自体凍結された。これは転移後、イタリアとの航路が寸断されたせいであった。
日本人が帰ってくる事や外国人が帰国することは自由に出来たが、日本人が他国に行くことや手荷物以上の物資の持ち込みや持ち帰りは制限された。
各国向け渡航者を年間10人とし、渡航期間は最大2年とした。継続は不可。荷物も1人辺り100kgまでとされた。抜け道はあった。単独国なら10人でも現地で合流すれば、大勢になる。
解説者によると、こういう仕様であるとされた。
最初期の帰還者によりこの事実が分かると、各国とも友好国には駐在期間を長く取らせて出来るだけ進んだ技術を持ち帰ろうとした。
余り多くを持ち帰ることが出来ない現状で、イギリスはロールスロイス・マーリンエンジンの図面他資料一式と、最新型のレーダーとアズテックや新型対潜兵器等の資料一式を持ち帰らせてくれた。
これはマーリンエンジンの逆Gが掛かった時の息つき現象の解決のお礼と、今後もよろしくという意味合いだった。
日本からも帰国する外交官や駐在武官達にトランジスタの技術と現物を持たせた。他にも酸素魚雷の図面他資料一式や、トランジスタの技術の応用であるトランジスタ点火装置の現物と図面他資料一式を持って行って貰った。
他に待たせたのは100オクタン航空ガソリン製造技術だった。これは日本でも試験操業しか出来ていない物でこれからの技術だった。と言ってもアメリカの100/140グレードでは無く、100/130グレードだったが。
アメリカとはかなり疎遠であり、人が帰ってきただけだった。当然日本からもアメリカ人の帰国以外何も無い。
ドイツは正和14年くらいから激しいファッショの嵐であり、国家的に信用出来なかったので人の行き来だけだった。
イタリアは製作済みの38センチ砲と砲弾の納品が出来ませんと言って泣かれたが、自国でなんとかして欲しい。38センチ砲載せた最新戦艦を2隻位建造するとか。これまでの付き合いもあり、イタリアに無い技術を送る。イタリアからは秘中の秘である冶金技術が来た。
ロシアとは技術的な交換は無かったが、なぜ三女様がやってくるのだろう?2年を超えると帰れませんよ。え?宮様に嫁ぎに来た?国賓として歓迎をいたします。これには管理者も驚き、婚姻は別枠と粋なことをした。
慌てて残っていたロシア人にトランジスタ関連の技術資料一式や航空機関連のエンジンを含めた技術資料一式と100オクタンガソリン製造技術をお持ち帰り頂いた。
海軍では、同じ砲を国産化するか、新規開発かで意見調整中だ。
日本にイタリア並みの冶金技術は無く、国産化は無理だろうという意見が多い。イタリアから教えて貰ったが、文書だけであり細かいノウハウは自分で習得しなければいけない。先は長そうだ。
信濃は大和級では無く、新艦型として設計するのが良いという意見もある。
どちらにしても戦艦と重巡は国内の安定と国外情勢が分かってからの話だ。
駆逐艦は、夕雲級の建造はそのままとされただけでは無く、20隻の予定を2個水雷戦隊32隻と予備艦3隻の35隻建造とされた。
空母直衛艦として計画された秋月級もそのままだが、建造数が復活し24隻とされた。
夕雲級と秋月級の追加は日本の領海が大幅に増えたことと、さすがに古くなってきた特型駆逐艦以前の駆逐艦を代替に対処するためとした。国家転移の混乱の中、どさくさ紛れに新年度予算が通ってしまった。
戦時急造駆逐艦として計画された1500トン級駆逐艦であるが、転移後の世界が直径で地球の約2.5倍と言うことで、航続距離の延伸と居住性の向上をはかるついでに初春級・白露級の代替となるよう再設計された。再設計後、建造が開始される。建造が開始されたものもあったがごく初期であり、中止廃棄とされた。
陽炎級で良いじゃ無いかという声もあるが、水雷特化であり艦隊戦以外では使いにくいことも確かだった。
船団護衛などもこなす、汎用性の高い駆逐艦にすることに反対の意見は小さかった。
結果、18年初頭から以下の概要で建造が始められる。建造期間は12ヶ月。
基準排水量 1700トン 満載 1900トン
水線長 88メートル
水戦幅 12メートル
八九式12.7センチ連装高角砲改二1基 同単装1基
魚雷発射管 五連装1基 予備魚雷無し 使用魚雷九五式改三
一式33ミリ機銃 四連装2基 連装4基
九九式二号一型20ミリ機銃 単装8基
爆雷投下軌条2基 爆雷16発
対潜迫撃砲24連装 1基 予備弾48発
機関出力 3万3000馬力
速力 30ノット
航続距離 5000海里 18ノット
十二号電探 2基 水上捜索レーダー
二二号電探 1基 対空捜索レーダー
三二号電探 1基 射撃照準レーダー
二式音波探針儀 1基 アクティブソナー
二式聴音機 1基 パッシブソナー
高角砲は前部に単装、後部に連装である。砲塔形式の防楯を装備した。
発射管は予備魚雷を再装填する機会が無い。と言う意見が強く、速力の関係も有り再度射点につくのは困難だろうと言うことで搭載されない。
五連装発射管は、構想中であった3500トン級大型駆逐艦に搭載する為に開発されていた物を設計変更して使った。九五式改三は、潜水艦用53センチ酸素魚雷の耐衝撃性を上げ水上発射管から発射可能にした物である。九三式61センチ酸素魚雷は、高性能で良いのだが高価で重く、多数装備すると重心が上がってしまう。予算も圧迫する。結果、他の装備を付けたくても予算と重量で付けられないという事になってきた。炸薬の高性能化に目処が付きつつある今、この級から53センチで統一するとなった。いずれ61センチは無くなるだろう。
新装備の対潜迫撃砲はイギリスからもたらされた情報に基づき製作された。24連装を艦橋直前に装備している。
これは、イギリスからもたらされた音波探針儀技術と聴音機技術を元にトタンジスターを使用して性能を上げた二式音波探針儀と二式聴音機があったればこそである。
九九式二号一型20ミリ機銃は航空機搭載用の一号銃を艦載用にした物で前部に小さいが防弾板を装備し、60発ドラム弾倉としたものである。
艦名は植物の名前とされた。
同じ戦時急造計画艦である雲龍級空母も同様だったが、赤城と加賀の代替艦は翔鶴級であり、直接的な戦闘力よりも長期洋上行動と航洋性能を重視して再設計の上18年初頭から建造開始とされた。建造ペースは年2隻で建造期間は22ヶ月の予定である。突貫工事で良ければ16ヶ月で完成する。8隻の予定。
雲龍級空母
基準排水量 2万2000トン
全長 227メートル
全幅 39メートル
水線長 223メートル
水線幅 24メートル
飛行甲板 227メートル
機関出力 14万馬力
最高速力 31ノット
航続距離 8000海里 18ノット
搭載機数 48機 補用機4機
斜行甲板 カタパルト2基 舷側エレベーター1基 大型エレベーター1基
八十九式12.7センチ連装高角砲改二 4基
一式33ミリ機銃四連装 8基
九十九式二号一型20ミリ機銃 単装 10基
防御力 火龍に準ずる
十二号電探 2基 水上捜索レーダー
二一号電探 1基 対空捜索レーダー
二二号電探 1基 対空捜索レーダー
三二号電探 2基 射撃照準レーダー
二式聴音機 1基 パッシブソナー
外観の特徴として斜行甲板、舷側エレベータと艦橋一体型の煙突が挙げられる。
重心を下げるため格納庫を一段とし、搭載機数は少ない。
翔鶴級に装備された斜行甲板部のカタパルトは艦型が小さいことと重心の上昇を抑える意味で省略された。舷側エレベーターも1基とし、大型エレベーターを1基備える。
艦内の居住性は、コレまでの日本艦と一線を画するもので、長期洋上航海でもストレスが溜まりにくいだろうとされている。
1700トン級駆逐艦も居住性は同じ思想で造られている。
鷹級空母は設計のみで、建造は完全に白紙とされた。
潜水艦は、日本領海内以外は水深も不明と言うことと共に緊急性も低く、建造計画は少なくされた。それでも潜水艦技術の維持と言うことで老朽艦の代替を行う。
逆に整備が急がれたのが、測量艦であった。外洋で作業出来る艦が津軽と関門の2隻だったものを20隻まで拡充する予定だ。新設計している時間的余裕が無く、従来艦の図面を流用した。航海期間が長くなりそうなので、陽炎級駆逐艦を元にバルジを装着した船体で従来の艦より大型化している。主砲は八九式12.7センチ高角砲を単装2基。砲塔形式で前後に搭載。水雷兵曹は爆雷と対潜迫撃砲のみ。機銃は25ミリ三連装機銃4基。20ミリ単装機銃4基。
機関は缶を2基とし、蒸気温度、蒸気圧力とも低くしている。タービン2基で1万8000馬力。速力23ノット。航続距離8000海里。発電容量は、陽炎型の2倍取ってある。兵員室の配置などは同じだが、乗組員数が半分以下でかなり余裕が有る。缶室は一番大きい缶を撤去したため、その場所がぽっかり空いている。風呂が拡大された。
運輸省航路局も測量艦は所有していたが、本土近海での行動が目的の小型の船だけだった。
海軍艦艇の長期洋上行動が多くなりそうなので、艦隊型補給艦、艦隊型油槽艦の拡充もされ建造を開始した。
海軍・運輸省の共同で新たに海上保安庁を設立し、旧式駆逐艦を当てていた従来の巡視船に替わり新設計の大型・中型・小型の巡視船が建造されることになった。
これは、国土拡大による警備水面の大幅な増加に対処するためで、外洋・遠距離の海軍、近海の運輸省航路警備局を一本化するためであった。
巡視船の名前は島の名前が付けられた。海軍と区別するために書類上「ひらがな」表記にした。
大型は秋月級直衛艦の武装を半分にし、さらに機関もボイラーを1基減らし、余剰スペースに長期の警備行動や救助行動にふさわしい装備を詰め込んだ。
大型巡視船
排水量 3400トン
長10センチ高角砲連装2基
25ミリ三連装機銃4基
13ミリ単装機銃4基
機関出力 4万馬力
最高速力 29ノット
航続距離 1万1000海里 18ノット
十二号電探 2基 水上捜索レーダー
二二号電探 1基 対空捜索レーダー
三二号電探 1基 射撃照準レーダー
二式音波探針儀 1基 アクティブソナー
二式聴音機 1基 パッシブソナー
秋月級の2番4番砲塔を撤去。4番砲塔を撤去したのは後甲板を広く使うためだった。
高射装置は秋月級と同じ。
25ミリ機銃の基数は4基と半分以下になった。一式33ミリ機銃の搭載はしない。対空火力が必要な海域での運用はしないことになっている。25ミリ機銃は違法民間船対策である。
13ミリ機銃はホ-103の流用であり、陸軍の三式重機関銃の事である。主用途は小型船舶への警告射撃とサメ撃ちである。
長10センチ高角砲連装2基を撤去した分の重量は清水タンクに充てられた。タンクの場所は2番4番砲塔直下の弾薬庫を仕切った下層部分に作られた。上層部は各種警備装備や救助装備の倉庫になった。
ボイラーを撤去した後には海水風呂であるが風呂が作られた。風呂上がりに清水シャワーを浴びて海水分を流すことになっている。
また救助者への清水提供をケチらないようにするためでもあった。
風呂室の上部には重巡並みの医務室が作られた。医者と看護師は常駐している。
乗組員の数が警備関係の人員を含めても減った分、居住性は大幅に良くなっている。
中型は、改設計される一五〇〇トン級戦時急造駆逐艦の船体を利用し、やはり武装半減、機関小型化で空いたスペースに警備行動や救助行動にふさわしい装備を詰め込む。長10センチなのは武装を統一するためだった。
中型巡視船
基準排水量 1700トン 満載 1900トン
水線長 88メートル
水戦幅 12メートル
長10センチ高角砲 単装2基
25ミリ三連装機銃2基
13ミリ単装機銃 4基
機関出力 2万馬力
速力 26ノット
航続距離 7000海里 18ノット
十二号電探 2基 水上捜索レーダー
二二号電探 1基 対空捜索レーダー
三二号電探 1基 射撃照準レーダー
二式音波探針儀 1基 アクティブソナー
二式聴音機 1基 パッシブソナー
小型は、流用では無く新設計の1000トン級であった。
1000トン以下の各種巡視艇も新たに新設計で建造されることになった。
結果、国内の造船所は小型艦艇中心に繁忙を極めるのであった。
物語世界では
大和級の主砲はイタリア・OTO社製三十八センチ砲です。
エリコンFFは採用されず、FFLが採用されました。ですから、一号銃はエリコンFFLです。
イギリスの新型対潜兵器。まだこの頃には影も形も無いはずですが、有ったと言うことで。
マーリンエンジンの逆Gが掛かった時の息つき現象の解決。中島のキャブレター技術です。
トランジスタは日本が発見した。
一部石油化学工業の水準が戦後並みです。
と言うことで、お願いします。




