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国内 困惑

 国立天文台


 今、日本で一番重要なのがここだった。

 ランエールの運行から、1日の長さを割り出し、地球時間とのずれを調べればならなかった。

 神様情報では、大凡しか分からなかった。

 

 まるで


「後は自分たちでやれ」


 と言っているようだった。


 分からないことだらけだった。幸い方位磁石はちゃんと動いた。ただ、地軸と地磁気のズレが分からなかった。安易に信じると馬鹿を見る可能性があった。


 1年の長さ

 この地の緯度と経度

 地軸の傾きはあるようだが、どのくらいか

 今の季節

 星の運行

 星座

 北極星のような基準になる星があるのかどうか


 地球では先人の英知を使っていただけだった事が思い知らされた。

 ここではすべて自分で決め無ければならなかった。

 ほとんどの人間が、趣味や探究心の延長のような職場である。遣り甲斐は有るが、荷が重かった。


 始めにやったのは、精密日時計の観測からだ。

 10日間の観測の結果、2日は曇り空でいい結果が無かったが、残り8日は晴れで良い結果が出た。

 1日は、地球時間で24時間52分の5分前後らしいことが分かった。他の観測施設の結果も同じだった。

 針が短くなっていることから、夏至に向かっているところだろう事は分かった。


 1年を決めるには最低5年の観測は必要だろうという事は、他の天文台や研究機関とも意見を同じくした。


 この結果を受けて、政府は有識者を集め会合を開いた。時計を25時間にするか24時間にするかどうかを決める会合である。

 会合は24時間に決定した。日本人には24時間が染みついていた。


 政府はこの結果、各時計メーカーに24時間52分で24時間を表示する時計の生産を要請。

 各時計メーカーもここぞとばかりに気合いを入れた。何しろ日本中全部の時計の切り替えだ。どれだけ利益が上がるか分からなかった。


 後に精密な時間が判明する可能性が確実で、このランエール最初の時計は1号とした。文字盤にランエール1号と表記が求められた。


 勤務時間や学校の時間割は、1時間当たり2分少々延びるだけなので変更は無しとされた。


 この時間で2分だが、1日8時間で16分、週5日で80分、4週で320分の給料が実質無しになってしまう。

 各地で労働争議が発生した。


 星座や基準になる星は、海軍の協力も有った。民間航路なら、沿岸航海という手も有ったが、どこに行くか分からない海軍艦艇には航法の基準となる物が必要だった。


 各地の天文台や天文学者、民間の天文ファンにも協力を要請した。



 国土地理院


 転移の結果、すべての地形が変わってしまった。星の円周からして違い戸惑うばかりだが、地図はすべて新たに書き起こさねばならなかった。


 今なら、伊能忠敬や間宮林蔵の気持ちが分かるような気がする。


 基準になるような精密な地図は時間がかかる。今はそれと並行して市民生活の利便性を整えるための簡易な地図が必要だった。

 幸い、政府の肝いりで人海戦術を駆使して作成されることになった。



 通産省標準局


 問題はキログラム原器だった。

 各大学や研究施設の手を借りて水の体積から物体の重量を求めた。

 結果、地球比で0.98であった。下2桁以下はばらつきが有ったが、概ね0.98に収束している。


 1.00とした新たな原器を作るか、このまま使うかで意見が分かれた。

 このまま使う派の意見が通った。すべての錘や秤を作り替えるよりはこのまま使おうという意見だった。

 時計は重要だった。錘も重要だったが、このまま使える物を無理に変えて何年も混乱するよりは地球比で2%軽くなりますという表記で済ませることにした。


 

 運輸省航路局


 海図の作り直しは最優先事項だった。

 国土地理院と海軍の協力を得て、進めていくしか無かった。陸上と違って素人は使えなかった。

 灯台の位置も変わってくるだろう。



 建設省河川局


 全国の河川・湖沼の形が変わってしまい、ダムや堰、堤防、ため池の強度が問題になった。

 国土地理院と陸軍の協力を求め、鋭意調査中で有る。



 鉄道省


 自分で敷設した線路と移転時に神々と見えざる者で追加した線路が在り、混乱中で有った。

 駅の位置のみならず、曲率、勾配、踏切の位置さえ違う。

 安全確認と新たなダイヤが組まれるまで運行中止にするしか無かった。

 新しい線路はすべて信じられないほど高品質で在り、いつかはこんな線路にしてやると、意欲を燃やす者もいた。通称「神線路」の登場だった。



 日銀・大蔵省


 ある意味一番パニックになった機関・役所かもしれない。

 朝出勤したら、金庫の中が金塊で一杯など悪夢だろう。

 しかも、4N以上の純度を保証する天目一箇神と石凝姥命の刻印が入ったインゴットだった。如何すればいいか分からなくてパニックになったのは仕方ないだろう。

 

 とどめに、同じ純度で金・銀・銅がそれぞれ500万トンとなれば如何していいか分からないのも当然だった。



 農林水産省


 日本人を20年養える量の食料である。驚きと感謝だった。

 神倉庫の機能もありがたかった。

 広がった土地には各地の植生と同じ物が育っていた。

 神々には感謝しかなかった。

 農地と漁場の調査に時間をかけることが出来そうだ。



 内務省保健衛生局


 怪我人が全員直っていた。病人がかなり良くなっていた。身体障害者の程度がかなり軽くなっていた。

 ややもすると負荷がかかっていた病院も一息付けるだろう。

 神々には感謝しかなかった。


 だが、当地ランエールの日本に対する危険性が分からなかった。

 どんな病原体がいるのか?

 毒性の有る動植物は?

 寄生虫は?


 安全性が判明するまでは日本以外で採れた動植物を口にしないように働きかけねばなら無かった。

 魚類も淡水魚以外は摂取しないよう呼びかけねばならなかった。

 幸い20年分の食料は有る。


 すでに気の早の研究者は、海岸で海水を採取したり流れ着いた海藻や流木を調べ始めていた。 



 逓信省電波監理局


 電波の状態が良くないかもしれない。

 海軍がウェークからの電波を受信出来たのは内地では大和田通信所だけだった。

 最新の無線設備を導入している戦艦大和も瀬戸内海では受信出来なかったという。

 ウェークから3000kmなら重巡でも受信出来たという。

 地球だったら呉鎮守府でも受信出来た電波出力で発信したという事だった。


 ただウェークまでの距離が分からなかった。神様は日本を大きくしたと言った。とにかく地図が無ければ三角測量も出来なかった。


 国土地理院よ、早く基準点を作ってくれ。



 内地の混乱をよそに、二航戦は南アタリナ島を調査をしていた。調査と言っても上陸はしない。上陸は政府から禁止されていた。防疫体制の整った上陸部隊が後ほど派遣されるという。

 島の各所を偵察し写真に納めていたが、とにかく広かった。二号艦攻では航続距離が足りず1周出来なかった。

 至急という指示が在り道中20ノットで航走してきた。重油消費量が多い。一周すると一二戦隊では航続が足りない可能性が大きかったため南鳥島で待機とさせた。南鳥島の連中もホッとするだろう。後からタンカーが来るのというので、それまでは余り動けんな。

 調査の結果、南アタリナ島は島外周の岬と岬を結んだ線で6000km~7000km有ることが分かった。

 内部偵察飛行をした結果、北東の半島内部に黒光りする液状の物を発見した。二航戦乗組員の中に新潟県新発田市出身者がいて、石油かもしれないという。大発見かもしれない。


 大至急、暗号を組んで送信した。



 首相官邸


「首相、大高首相。大変です」


 おかしい。普段自分に責任が生ずること以外では慌てることの無い補佐官が慌てている。


「こ、こ、こ」

「落ち着け、お前は鶏か」

「落ち着けません。これを」


 補佐官が渡してきたのは、海軍から回ってきた電文だった。手が震えているぞ。そんなにご大層な知らせか?


「石油の可能性。だと?」


 確かにご大層な知らせだった。


「至急、閣僚を招集せよ」

「はい、大至急手配します」


「皆、忙しいところ呼び出して済まない」

「首相、なにか重大な要件でも」


 運輸大臣の田中一郎が聞いてきた。


「永野海軍大臣はご承知と思うが、海軍が「南アタリナ島に石油の可能性在り」と、報告をしてきた」

「石油」


 皆ざわめく。


「そこで調査隊を送るわけだが、未踏の地であり如何すれば良いか」


 内務大臣近藤勇一が


「現在未踏の地にはまだ誰も送っていません。保健衛生局で防疫体制を整えた遠征隊を編制中です。それまでお待ちください」

「どのくらいで出発出来る?」

「あと三日下さい」

「では三日後に出発だ」


 永野海軍大臣が発言した。


「護衛と水先案内は必要でしょう。規模は如何しますか」

「現在、南アタリナ島に行っている部隊と同程度でお願いする」

「承りました」

「では、調査隊に送る石油関係者の選別と、他に地質学者と鉱山関係者も参加させます」


 通産大臣太田和巳が言った。


「船の手配をします」


 田中が言った。


「うちの調査隊もお願いします」


 農林水産大臣神林嘉平がねじ込んでくる。


「運輸大臣、船は大丈夫か?」

「2隻にします」


 それからは、早かった。

 人選および各企業・大学・研究者との交渉・調整。

 軍人・公務員は上意下達であり、有無は無かった。

 各企業も石油と聞いて無理矢理に時間は合わせた。

 一番時間がかかったのは、学者や研究者だった。あれもこれもと大量の資材を持ち込もうとしたので、無理矢理切り捨てた物も多かった。

 測量関係者は現在人手不足であったが、無理矢理各所から引き抜いた。

 現地開削部隊および陸上での護衛として、陸軍歩兵1個中隊、工兵1個大隊が同伴した。


 五日後、各港から調査船が出航した。伊豆大島沖で会合予定だった。

 最初2隻程度の予定だったが、結局6隻もの船団になってしまった。出発日も延びた。


 護衛兼空撮担当として、一航戦(赤城・加賀)、二戦隊(長門・陸奥)、一水戦(旗艦 阿賀野、十駆 初風・雪風・天津風・時津風、十一駆 浦風・磯風・谷風・野分)

 他、艦隊型タンカー1隻、艦隊型補給船1隻が同伴した。


 伊豆大島沖で会合してから三日後、船団は南アタリナ島を見た。




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