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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
11.十三人の合議編
99/143

1192年2月 却下

鎌倉・優介邸


優介は紙に史実を書きながら考える。

源頼朝が八年早く消えたため、次男である源実朝が生まれることはなくなった。史実では頼朝の死後、重臣十三人による合議制に変わる。そこから幕府の内部抗争が始まるのだが――。


一二〇〇年 梶原族滅

一二〇三年 比企族滅、源頼家幽閉・翌年誅殺(時政が実朝を擁立)

一二〇四年 北条時政最愛の息子・政範が十五歳で病死

一二〇五年 北条時政追放(時政が実朝暗殺を計画し、娘婿の平賀朝雅を擁立するが失敗)

一二十三年 和田族滅(頼家の遺児・栄実を和田の縁戚が擁立したことが発端)

一二十九年 三代実朝暗殺(殺した頼家の遺児・公暁も討たれる)


梶原族滅については御家人六十六名による弾劾状が原因なので、実朝は関係ない。問題は源頼家とその後見役である比企能員を滅ぼすときだ。


史実では時政は頼朝の次男の実朝を擁立することで、大義名分を立て、頼家を廃することができた。その後、執権となった時政だったが、翌年に後妻・牧の方の間にできた最愛の北条政範を失う。悲嘆した時政と牧の方は実朝を殺し、娘婿であり、源氏の流れを組む平賀朝雅を将軍にしようと計画するが、政子と義時により阻止され、そのまま幕府を追放される。


肝心の実朝がいないとなると、時政は誰を将軍として擁立するのか。平賀朝雅か? それとも六年後に生まれる頼家の子か?


優介はそこまで考えると頭を振った。


時政のことだ。あの手この手で比企を滅ぼし、執権になるだろう。俺が考えるべきことは史実に近づけるために、義時に時政を追放させて、執権の座に着いてもらうことだ。


――――――――――――――――――――

鎌倉・大倉御所 東屋


「おーい。クズ時、合議に行くぞー。寝たフリしても無駄だ。起きてんだろー」


江間義時は起き上がると不機嫌を隠さなかった。


「毎日、毎日、呼びにくるな! 行かないと言っているだろう!」


「優介、許してあげて。この子はこういう性分なのよ」


北条政子が義時の代わりに優介に頭を下げる。


「尼御台様、こいつを甘やかしちゃいけない。クズ時はいずれ幕府を負って立つ男になるんです。俺が教育し直します。まあ、任せてください。俺は子供を教えるのは得意ですから」


「義時は今年で二十九歳ですよ……」


「………」


「姉上の言う通り、諦めるのだな」


「クズニートが……。尼御台様、俺はニートを社会復帰させる方法も知っています。少しずつ仕事に慣れさせるのです。そうすれば、仕事や人間関係への不安は無くなります」


「合議がそんな甘い職か? 連れて行く場所が違うだろ。奥州の妖怪は頭は悪いんだな」


「た、たしかにアットホームな職場じゃないかもしれない。でも――」


「はい、論破。わかったら一人で合議に行ってくれ」


「……くっ! 俺は諦めないからな!」


――――――――――――――――――――

鎌倉・大倉御所 合議の間


合議の内容の大半は所領を巡る裁決だ。簡単に裁けるものは問注所(裁判所)で行うが、寺社が絡んだり、大豪族に関わるものは、政治的判断が必要とされるため、合議の場にかけられる。


合議に参加しているメンバーも、自分と関係の深い案件でない限り、政所別当の大江広元や、行政能力が高い梶原景時、北条時政に任せて、碁を打ったり、寝転んでいた。


そんな中、優介だけは盛んに政策提案した。


「俺は奥州で学校砦というものを作っていた。それを全国に広めたい。戦は無くなったから、砦じゃなく簡素な小屋でいい。名前も考えてある『寺子屋』だ」


「で、寺小屋の住職は奥州浄土宗の僧侶、というわけですか? 法主殿は己の権勢拡大に熱心とみえる」


大江広元が警戒するように優介を見る。


「奥州浄土宗を弾圧しないって決めただろ?」


「推奨するとも決めていません。幕府は禅宗を推奨します。すでに明菴栄西(みょうあんえいさい)禅師を太宰府から呼ぶ手はずはついています。一つの宗派が大きくなりすぎるのは幕府運営にとって害です。私の意見に反対の方は?」


奥州派の御家人も反対はしなかった。安倍晴兵衛が小声で言う。


「前の戦で殿が宗徒を扇動したからですぞ。あれがなければ奥州は鎌倉に勝っておりました。皆、殿の裏切りを根に持っておりまする」


――仕方ない。作戦を変えるか。禅宗は鎌倉新仏教の一つで、浄土宗と同じく、京を支配している天台宗から目の敵にされて、布教に苦戦していた。そこに広元が目をつけたのだろう。史実でも幕府は禅宗を保護している。


「なるほどな。それも悪くはない。禅は他力本願ではなく自力本願。衆ではなく個。禅宗徒が党となって幕府に歯向かうことはない。武士とも相性が良さそうだ。俺も反対はしない。寺小屋は禅宗の住職に任せてもいい。だから幕府の政策に教育を入れてくれ」


「ほう。奥州浄土宗の法主殿が他宗の布教を助けるとは?」


「俺の目的は日本を一つの宗教にまとめることじゃない。日本に文字を行き渡させることだ。あっ、時政殿、栄西禅師は茶の栽培に詳しい。守護国の駿河、遠江に種を植えれば儲けられるぞ」


広元が優介を探るように見る。


「――法主殿は栄西禅師にまでお詳しいようで」


「たまたま知っていただけだ。勘繰らないでくれ。俺と栄西禅師が裏で繋がっているわけじゃない。鎌倉でも禅師に近づかないようにする。それでいいだろ」


「寺小屋で何を教えるかは合議で決めます」


「ああ。今度、俺が作った教科書を持ってくる。それと教育関係でもう一つある。優秀な子供たちを集めて、大きく学べる寺子屋、大学を作りたいんだ」


「却下します。延暦寺で事足ります。優秀な和子はみな比叡山に登っています」


「あそこはまあ言ってみれば文系だ。つまり唐土の教えや考えを学ぶ。俺が作りたいのは理系。物作りを学ぶ場所だ。新しい宗派が生まれるように、大学から新しい技術が生まれ、人々の生活を豊かにしていく。素晴らしいとは思わないか」


奥州派は「また始まったか」という顔で聞いている。鎌倉派に関しては、広元以外、理解すらできていないようだった。


「却下します。この場の誰も興味は無いようです」


「先端技術を幕府が持てば、朝廷や西国に対して優位に立つどころじゃない。南宋だって越えられる! 夢があると思わないか?」


「却下します。法主殿は絵空事ばかり語られる。延暦寺は広大な荘園を持っているから成り立っているのです。大学とやらの費用をどうやって賄うのですか?」


「だから、幕府の知行地を少しばかり――」


「却下します。奥州合戦、富士の巻狩り、鎌倉合戦では多大の犠牲は出しましたが、法主殿のせいで、鎌倉は一寸の所領も得られないどころか、越後・下野・常陸国を失いました。幕府の知行地は困窮した御家人を救うために使います」


「ご恩と奉公ってやつか」


「幕府の政の元です。崩れれば武士は鎌倉を見捨てるでしょう」


「だったら、銭を貸してくれ。交易で大学の運営資金を稼ぐ」


「却下です。貸し倒れたら幕府の丸損になります」


「ああ、そうかい!」


優介は広元の説得を諦めると梶原景時の方を向いた。


「景時は西国の水軍を統括しているよな。交易用に水軍を使わせてくれ。戦が無くなったんだから暇だろ?」


「公方様が消えた後、西国の中には幕府に従わない者も出てきておる。備えは必要だ。それに、貴公は義経の軍師だった男。水軍を渡した途端、西国を斬り従えるのだろう? 却下だ」


「みんなどれだけ俺を野心家と思ってるんだよ!」


「フン! 偽仏師から、左大臣、奥州浄土宗法主まで成り上がった男が野心が無いだと? 赤子でも信じぬわ」


――うう。確かに経歴だけ見れば胡散臭いだろうけどさ。


「広元、担保を出す。それなら幕府が損をすることはないだろ?」


「奥州の領土ですか?」


「いや、泰衡が許さないだろう」


「では、却下――」


「奥州浄土宗法主の地位だ」


「何だと?」「これはデカいな」「おもしろい」


それまで興味を示さなかった重臣たちが優介を見た。

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