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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
10.富士の巻狩り編
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1191年5月 富士の巻狩り・前

駿河国・富士


富士の裾野にはおびただしい軍兵が集まっていた。十万は下らないだろう。絶好の商いの機会だと、近隣から遊女や物売りが集まり、都のような賑わいだった。


「圧巻だな。頼朝は西日本の武士までも動員しているようだ」


優介と流為は行商人の姿で荷車を引いていた。荷の中身は泰衡に頼んでいた大量の品である。軍営地に入るための手形は時政から融通してもらっていた。


「時政は有能だね。これだけの武士が集まれば揉め事も多いはずだが、特に大きな混乱はない。それともこれは時政じゃなく、あの男の才能かもな」


北条時政の側に影のように付き従っている男がいた。


「……誰?」


「北条義時。今は江間義時かな。要注意人物だよ」


――――――――――――――――――――――


いよいよ日本最大の鷹狩りが始まった。

勢子役の兵が富士の森林から獣を追い立て、待ち受けていた本陣の兵が飛び出してきた獣を射る。勢子役は統一された動きをしないと、獣を決められた場所に追い立てられない。侍大将の指揮能力が試される訓練だ。待ち受けている方も荒れ狂って突っ込んでくる猪を冷静に射抜けるか等、武の能力が問われることになる。


「さて、雷雨が来るまでは呪術の仕込みをやるか」


優介と流為は森に入り、大きな猪や鹿を見つけては背後から矢を放った。大抵はお尻に当たるので致命傷にはならない。しかし、優介にとってはそれで充分だった。


「……流為が当てたのに」


「まあまあ、流為が凄いのはよくわかってるから」


この時代の矢には誰が射たかがわかるように、矢に名前を記していた。しかし、獣を射る矢に、優介は流為の名前ではなく「源九郎義経の霊」と書いた。


―――――――――――――――――――――


巻狩りが行われて何日か経つと軍営に義経の亡霊の噂が立った。


「義経の霊が大猪に乗り移り、公方様に向かって突進してきた。安達藤九郎が大猪にまたがって何十回も刺すと、ようやく死んだらしい」


「弓の名人という老武者が大鹿に矢を三度放ったがすべて外れた。老武者は、あの大鹿は神がお乗りになる鹿に違いない。自分の命運も縮まった。といい、その日の晩に発病した。後日、その大鹿が死んでいるところを見つけると、義経の矢が刺さっていたらしい」


ただし、噂を信じているのは兵がほとんどで、幕府首脳は噂など無視していた。


一カ月間行われる巻狩りも夜になると別の顔を見せる。遊女を呼んでの酒宴である。御家人たちも深酒こそしなかったが、雨の日は巻狩りを行わないので、終日、酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしていた。


「まるで富士川の戦いのときの平家だな。富士山には人のテンションを上げる何かがあるらしい。さあ、流為。後は天意を待とう」


優介は天を見上げてつぶやいた。


――――――――――――――――――――


数日後、由利維平は曾我兄弟と雷雲が近づいてくるのを見ていた。


「二人とも俺様のしごきによく耐えた。だが、この後は助けることはできねえ」


「充分です。今までありがとうございました。我ら兄弟は父親を知りません。師匠に稽古をつけてもらっているとき、父親とはこういうものかと幸せを感じていました」


「うん。それにオイラを天下無双の勇士にしてくれた」


「――どんなに強かろうが、十万の敵中からは生きては返れねえ」


「師匠……」


「なあ、仇討ちはやめて俺様に仕えねえか? 時政のジジイには俺様から話す」


「………」


「俺様はお前らに殺し方は教えた。だが死に様は教えてねえ。知らねえからな」


「立派に死んでみせます」


「千人ぐらい叩き斬ってね」


「――そうか。この由利維平、曾我兄弟から死に様を学ばせてもらおう」


由利はもう二人の顔を見なかった。

去り行く由利の姿が見えなくなるまで、兄弟は頭を下げ続けた。


―――――――――――――――――――――


その日の夜、富士の裾野を激しい雷雨が襲った。


「……篠突く雨」


「曾我兄弟が暗殺をするのなら動くはずだ。俺たちも準備をしよう」


優介は荷車を引いていく。流為は奥州で大量に作ってもらった品を、酒宴が行われている各宿所の軒先に置いていった。途中、警固の武士に呼び止められもしたが、厳しい詮議は受けなかった。


「流為が諭吉を連れてきてくれて助かった。赤子がいると疑われない」


「ダァ~」


「……諭吉も褒めてって」


夫婦は顔を合わせて笑った。



しばらくすると曾我兄弟の仇である工藤の宿所から、女の悲鳴が聞こえた。二つの影が飛び出し、頼朝の宿所へ向かう姿が見える。


「仇討ちは成功したようだな。流為、銅鑼を」


ジャーン!ジャーン!という音が響き鳴らすと、宿舎から人が何事かと出てきた。

優介が大声で叫ぶ。


「夜襲だ!! 工藤裕経が討たれた! 敵味方を間違わないように、軒先に面を置いてある。それをつけて同士討ちを避けよ! 繰り返す、面をつけよ!」


すると宿所のあちこちから悲鳴が上がった。


「ヒィっ! 義経の亡霊」


「それは貴様だろう!」


軒下に置いたのは義経の猫面だった。よく見ればわかる子供だましの計だが、雷雨の闇夜、緊急事態、酒宴の最中という要素が、武士たちから冷静さを奪った。


義経の亡霊が大挙出現したことにより、武士たちは集団恐慌を起こし、混乱は軍営全体に拡がっていった。


「頼朝の宿所へ行こう。今なら襲っても逃げ切れる」


「……殺していい?」


「ああ。戦の元を断ち切る」


二人は荷車から武器を取った。

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