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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
10.富士の巻狩り編
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1191年3月 面倒臭い男

奥州平泉・伽羅御所


馬場で大姫が乗馬の稽古をしていた。教えているのは安徳帝だ。

優介は二人に対し、表向きは帝と后だが将来好きな人ができたら、その人と結婚すればいいと言ってある。


藤原泰衡や平教経も優介の方針に賛成したが、理由は真逆だった。


「そのほうがいい。将来、鎌倉と戦になったとき、帝の戦意が鈍っては困る」


「教経の言う通りだ。皇子を産んで国母になったときに、大姫が皇子を人質に取るかもしれぬ」


「なあ、二人とも戦前提で考えるんじゃなくて、平和統一も視野に入れないか?」


泰衡は、いい加減にしてくれ、と言わんばかりにため息をついた。


「頼朝も南朝も、未だ北朝を認めていない。頼朝が西国を完全に掌握したら、後顧の憂いなく奥州へ攻めてくるだろう。貴様がそのことに気づいてないとは言わせぬぞ」


「そうかもしれないが、まだ幕府は公にはしていない。大姫をきっかけに仲良くなれるかも――」


「あのユーリが御家人の中で出世して侍所司になったそうではないか。奥州を知る者を重用するということは、頼朝はすでに準備を始めているということだ」


「でも、話し合うぐらい――」


「もう止せ、優介。弁慶の諜報で、富士で幕府がかつてない規模の軍事演習(巻き狩り)を行うことがわかっている。幕府の動きによっては、こちらから戦を仕掛けることもありえる」


「幕府軍恐れるに足らず! 奥州軍はさらに強大になった。貴様の策によってな」


優介は前の幕府軍の戦いで浄土宗徒を兵として使ったが、そのときは調練が間に合っていなかった。しかし、それから一年半の間、武士が宗徒に弓矢を教えた。幕府軍に勝った自信と、再び攻めてくるという危機感が、宗徒の武術の上達を早くした。


泰衡が優介が得体のしれぬ物のように見る。


「国民皆兵。妖怪・悪鬼のような策だ。北朝の民すべてを浄土宗徒にすることで、死を恐れない兵に変える。人の命に拘るくせに、民を戦に導いている。優介、貴様の本性は誰よりも非情だ」


「違う! 国民皆兵は戦をするための策じゃない。圧倒的な兵力を見せることで、戦を抑止する。不戦の策だ」


「泰衡よ。優介の話など聞き流せばいい。こやつは只々、面倒くさい男なのだ」


――国民皆兵は兵力を劇的に増やすことができる。だが、負ければ支配階級だけではなく、北朝の民すべてが地上から消える危険性がある。なぜ、それがわからない。



「――それに、戦いはすでに始まっている」


教経が言っている戦いとは、北朝による奥州浄土宗の布教と幕府による弾圧のことだ。幕府は前の戦の反省から、東国に奥州浄土宗が拡がることを許さなかった。


「泰衡、北朝から戦端を開くのだけはやめろ」


「幕府が軍事演習(巻き狩り)を終えれば、万全の体制で攻めてくる。それを指をくわえて待っていろというのか?」


「俺が軍事演習(巻き狩り)を成功させない」


「いい加減にしろ! どちらにしても戦が先に延びるだけだ。避けることはできぬ」


「状況を変わるかもしれない。例えば――」


そこで優介は考え込んだ。そして迷いを断ち切るように言った。


「頼朝の死」


教経がギョッとする。


「暗殺する気か」


「――病死や事故死をするかもしれない」


「なんだ、驚かせるな。貴様の願望ではないか」


「人の運命はわからない。泰衡、約束してくれ。軍事演習(巻狩り)が失敗に終わったら、北朝から攻めることはないと」


「ふん、いいだろう。だが、どうやるつもりだ?」


「これから考えるさ。だけど、不可能じゃない」


――――――――――――――――――――

奥州平泉・伽羅御所の庭


優介が去ると、泰衡は庭木を剪定している老人に話しかけた。


「ご老人、満足されたか」


「そうじゃな。孫娘の元気な姿だけじゃなく、奥州の妖怪も見れたわい」


ご老人と呼ばれた男は手拭いでほっかむりをした北条時政だった。


「優介はご老人と似たことを言っていた」


軍事演習(巻狩り)の失敗、じゃな。大いに結構。互いに動けば混乱も深まろう。さらに間違いが起これば――」


「――頼朝が死ぬ。そうなれば天下は北条に転がり込む」


「いやいや公方が死んでも、すぐに天下は手に入らぬ。手強い御家人が多くてのう」


「北朝が北条家の天下獲りを援けよう」


「見返りは?」


「頼朝の死で十分だ。それで北朝への脅威は去る」


「よし、これで決まりじゃわい。左大臣殿、わしにもう少しやる気を出させてくれんか? 赤子はお金がかかるでのう」


「黄金百両を用意しよう。その和子がご老人の天下人か? 甘やかしすぎないほうがいい。傲慢になる」


――昔の私のようにな。


泰衡はかすかに自嘲した。


――――――――――――――――――――

奥州白河・白河本願寺


優介が訪れた白河本願寺は全焼から立ち直り、前以上に堅固な姿になっていた。


「殿ぉ~。早く戻ってきてくだされ」


「開墾と栽培方法の見直しによる収穫量の増加。海産物加工の推進。宗徒の調練を兼ねた街道の整備。さすが晴兵衛内大臣だ。上手くやっている」


優介は内政資料を読みながら感心する。

安倍晴兵衛は内政の成果により内大臣へ昇進していた。


「発案はすべて殿でございまする。殿の才をもってすれば天下など簡単。だから戻ってきてくだされ」


「簡単なことには興味ない。俺は子供時代から難問を解くのが趣味だったんだ」


「難問といいますと?」


「戦無き統一だ」


「ハァ……。勘弁してくだされ。その難問には答えがございませぬ」


「腕のいい物見を何人か俺に回してくれ」


「はい、はい、手配いたしまする――殿、お戻りにならないのなら、新しい法主を立ててくだされ。法主の姿が見えないので宗徒が不安がっております」


「ふさわしい人がまだ見つからないんだ。奥州浄土宗を変なやつに利用されたくないしね」


「利用しているのは殿じゃ……」


「晴兵衛!」


「ああ、忙しい、忙しい。殿、無茶をして死なないでくだされよ」


――――――――――――――――――――

奥州・蝦夷の里


吉次に赤子の諭吉を見せて挨拶をした後、優介は富士に向かった。


「流為、見送りはもういい。諭吉と里に戻ってくれ」


「……いっしょに行く」


「諭吉はどうする? 幕府の領内に潜入するんだぞ」


「……私たちの子。弱くない」


「しょうがない。流為は言い出したら聞かないからな」


「……似たもの夫婦」


「そうかなあ」


「……面倒臭い夫婦」


「なんだそれ」


流為はクスクスと笑った。

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