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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
8.奥州合戦編
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1189年4月 白河の戦い・中

奥州白河・源頼朝の本陣


白河本願寺を包囲している軍を突破した優介軍を見ても、源頼朝は慌てなかった。本陣の兵だけでも倍近くいる。隣にいる梶原景時も冷静に守りの指示を出していた。


「優介が火にあぶられて飛び出してきたな。乾坤一擲、余を討つ気だろうが、ただの悪あがきにすぎぬ」


「公方様の読み通りですな。本陣の備えは万全。迎え撃つ騎馬もおります。優介が奇襲が得意だろうと、来ることがわかっていれば、驚くこともない。包み込んで討ち取るだけ」


「フフフフ。自ら首を運んできてくれた優介に感謝をせねばな」


勝利を確信した梶原景時は戦後について話した。


「この後の治めかたが難しいかと。東大寺焼き討ちをした平家は京で評判を落としました。浄土宗の本寺を焼いてしまった源氏の評判が落ちるのを覚悟せねばなりません」


「源氏? それは違う。愚かな御家人が余の命を無視して火矢を放った。そうであろう?」


頼朝の冷たい眼差しに景時は背筋が寒くなった。


「――は、はい。某が間違っておりました。火矢については公方様のあずかり知らぬこと。某が下手人を手配いたします」


――――――――――――――――――――

奥州白河・白河本願寺


櫓にいた安倍晴兵衛は火矢が降り注いでも逃げることなく、敵包囲軍の動きに目を凝らしていた。優介が飛び出していった南門付近から明らかに攻勢が弱まっていく。南門を攻めていた軍が優介を追って門を離れたのだ。他の門を攻めていた軍もつられるように減っていくのが、晴兵衛にわかった。


「全宗徒に告ぐ! シャベルを持って北門から討って出よ! 敵軍を抜けたら、シャベルと鎧兜を捨てて逃げよ! 決められた場所へ向かって走り続けるのだ!」


晴兵衛は全軍に命令した後、包囲軍に向かって叫んだ。


「大将は南門からとっくに出ていったぞ! 手柄首が無いのにご苦労なことよ!」


――――――――――――――――――

奥州白河・源頼朝の本陣


優介隊が迫ってくるのを待ち構えていた頼朝の顔色が変わったのは、本陣に優介隊が激突する直前だった。優介が馬首を右に返したのだ。


「フッ、臆したか優介。だが引き返したところで、我が軍に挟まれるだけのこと」


頼朝には優介を討ち取ろうと白河本願寺から戻ってくる味方の大軍が見えていた。

だが、景時の反応は違った。


「いいえ! やつらが向かっているのは――」


景時が指した方向には数千頭の馬がいた。包囲軍には馬が必要ないため、御家人は本陣近くの林に馬を繋いで戦っていたのだ。



優介軍は馬を繋いでいる縄を斬り、馬の尻を刺した。暴れた馬が次々と駆け出していく。


「暴れ馬に紛れて逃げる気か。平三、優介を逃がすな!――おい、何をする!」


景時は頼朝を押し上げて馬に乗せると、自身も騎乗した。

 

「暴れ馬の群れは危険です。横へ避けます」


「優介を見逃がせと言うのか!」


「御身が第一です!」


馬群が奔流のように柵を破壊して本陣に流れ込んできた。武士は逃げ惑い、本陣が割れる。

白河本願寺から戻ってきた武士は本陣を立て直すどころか、混乱に拍車をかけた。馬は坂東武士の魂だ。愛馬の名を叫んで探す者、「わしの愛馬に矢を放つな」と弓兵を殴る者など、味方が本陣の統率の邪魔をしていた。


景時が頭を下げると、頼朝は大きくため息をついた。


「公方様。恐れながら――」


「追うどころではないか……。平三、そなたが軍を周って落ち着かせよ」


景時が去ると頼朝は燃え盛る白河本願寺を見ながら、これは勝ち戦だと自身に言い聞かせた。そこへ「伝令!」と叫びながら騎馬が近づいてくる。


「北陸道軍からか――」


頼朝の言葉が止まり、肌が泡立った。優介が逃げた先から伝令がやってこれるわけがない。


「待て、通すな!」


「頼朝、覚悟!」


伝令に扮していたのは優介と女武者だった。少し遅れて百騎の敵が続いてくる。敵は逃げ去ったと思っていたのは頼朝だけではなく護衛をする武士も同じだった。虚をつかれた形になり、優介の接近を許してしまった。


頼朝は太刀を抜いて優介の十文字槍を防いだが、一撃目だけだった。次の攻撃で頼朝の太刀は弾き飛ばされる。二人の武術の差は歴然だった。


「武家の棟梁が仏師に負ける気分はどうだ?」


「――昔、伊豆で命を助けたはずだ。恩を返せ」


「殺そうとしたくせによく言う。会ったときから嫌いだったよ!」


頼朝は横目で護衛の武士たちを見たが、女武者に阻まれて近づけそうにない。頼朝は必死で逃げるしかなかった。


「……優介。そろそろ限界」


「わかった、流為。次で仕留める」


「余は死なぬ! 死んでたまるか!」


逃げる頼朝の背に優介の槍が突き刺さろうとしたそのとき、熊の骸骨が優介の槍を弾いた。


「地獄の藤九郎様が来たからには、死んでも兄貴には触らせねえ!」


「俺の腕では倒せそうにないね。くやしいが、ここまでだ!」


優介は槍を上げると、騎馬隊とともに引き上げていった。


藤九郎は優介の姿が見えなくなっても、頼朝の前に仁王立ちしていた。その背に頼朝が声をかける。


「藤九郎、よく戻った。愛馬は見つかったのか?」


「探す気もねえ。兄貴のことしか考えてなかった」


「余のことはもういい。あれは良い馬だ。探してこい」


「まだ油断はできねえ」


「――そうか。忠義うれしく思う」


「へへっ。名馬を貰うより、何倍もうれしいや」


「褒詞ならこれまでに何度も与えたはずだが――」


「心からの誉め言葉はなかなか聞けねえ」


「フッ。そなたにも心眼があるようだな」


藤九郎が振り向くと、主従二人は大声で笑い合った。

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