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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
8.奥州合戦編
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1189年3月 開戦

鎌倉・大倉御所


幕府は朝廷と奥州の最終交渉を待つことになり、当初予定していた秋の出兵を断念した。源頼朝は北条時政を叱りつけて、大江広元に再交渉をさせたが、それでも頼朝が征夷大将軍になったのは年が明けた後になってしまった。


そして、冬を越した雪解け後の春。

大倉御所では奥州出兵を前にして、頼朝と大江広元、梶原景時による会議が行われていた。頼朝の前には東日本が描かれた地図が広げられており、梶原景時が扇子で奥州の西側をなぞった。


「奥州の隣国の越後、上野、下野、常陸の民の間に浄土宗が広まっております」


「たった半年でか。鼠のように増える」


奥州の隣国に昨年の夏から“阿弥陀の使い”と名乗る賊が頻繁に出没した。賊は過酷な税を取り立てている地頭の館を狙って襲撃し、米倉を民に開放した。そして最後に阿弥陀仏が人々を救っている絵をばら巻いてこう言うのだ。


「悪い地頭がいたら、そいつの館の前に絵を貼って浄土宗の念仏を唱えよ。必ず阿弥陀の使いが地頭を懲らしめるだろう」


噂は広まり民の間で阿弥陀仏の絵を隠し持つものが増えた。地頭も自分の館に絵が貼られてないか、怯えるようになった。


幕府は賊を捕まえようとしたが、山から山へ移動し、やっとのことで追い詰めても、国境を越えて奥州へ逃げ込むので捕まえることができなかった。しかも、幕府が悪徳地頭を庇っているように民の目に映り、幕府の評判まで悪くなっていった。


頼朝が持っていた絵を投げ捨てる。


「余を貶めるためにこんな絵まで作りおって。忌々しい」


絵には悪鬼姿の頼朝が光をまとった優介に斬られている姿が描かれていた。


「嫌がらせだけではありません。この絵の恐るべきところはここです」


大江広元が指したのは、頼朝が抱えている米俵の後ろから民が火をつけている個所だった。


「兵糧を焼けという意味にとれます。奥州攻めの最中に浄土宗徒が絵の通りに動けば、退却を余儀なくされます。兵糧を守る兵を増やしたほうがよろしいでしょう」


「となると、前に出て戦う兵はどれぐらいになる?」


「北陸道、東海道から各一万、東山道の大手軍は三万。総勢五万です。西国や京への備えを考えると、これよりも増やすのは危ういかと」


「奥州の兵は三万。敵に倍する兵とはいかぬが仕方あるまい。平三(景時)、直ちに征夷大将軍の名で御家人に触れを出せ。奥州を征伐するとな」


「ハッ!」



梶原景時が出て行った後、頼朝は一人の武士を呼び出した。


「優介にやられてばかりではおもしろくない。奥州を掻きまわせるか?」


「必ず優介の野郎を追い詰めてみせます」


「ふふふ。憎しみのこもった良い目をしている。広元、由利維平に手練れを百人貸してやれ。上手くやれば、御家人に取り立てよう」


由利維平は平伏した。


――――――――――――――――――――


二週間後。鎌倉に集まった軍勢が動き出した。

頼朝率いる大手軍は東山道を白河方面へ、常陸国や下総国の御家人が主軸の東海道軍は太平洋沿いに、北陸道軍は上野国の御家人を中心に日本海沿いを進んで行く。


鎌倉を出て五日後、頼朝の目の前に現れたのは人三人分の高さの土塀と、川程の広さの空堀に囲まれた白河本願寺だった。頼朝が唸る。


「平三。あれは寺では無い。城だ」


「前に調べた時よりも空堀が大きくなっております。埋めるのに一苦労しそうですな」


「使者を出せ。法主の優介を差し出せば、浄土宗は保護すると。失敗に終わっても少なからず動揺は生まれよう」


だが、頼朝の使者を拒否するかのように、土塀の上に「仏敵頼朝」、「第六天魔王頼朝」と書かれた旗がひるがえった。頼朝は流人時代は毎日写経をし、鎌倉では周囲に諫められるほど神社仏閣を建てている。そんな信心深い頼朝にとって、許せない言葉だった。


「全軍に攻撃を命じよ! あの旗を余の眼前から消すのだ!」


攻撃開始の鐘が鳴ると、武士たちは雄叫びして白河本願寺に走っていった。野戦は名馬が無ければ一番乗りは難しいが。城攻めは馬を持たない武士でも一番乗りの機会がある。武士たちは勇んで白河本願寺に殺到した。


だが、攻城の道具も持たずに乗り越えられるほど土塀は低くない。上から石を落とされ、シャベルで叩かれ、登ることすら容易ではなかった。


空堀に武士が充満したときに、ゴウッという音が遠くから聞こえてきた。

誰かが「出水だ!」と叫んだときにはもう遅かった。土塀から飛び降りようとする武士の下は、後から続く武士たちでごった返しており、混乱がさらに増した。圧死する者、濁流に飲み込まれる者が多数出て、幕府軍は緒戦で千近くの兵を失うことになった。


土塀に優介が現れて言った。


「頼朝! 阿武隈川のおもてなしだ。敗北の味は苦いだろう。ここにいるのは浄土宗徒ではなく武士だ。簡単に落とせると思うなよ!」



状況を調べて戻ってきた景時が、阿武隈川と白河本願寺の間の堰堤が壊されていたことを報告すると、頼朝は自嘲した。


「まんまと優介に嵌められたわけか……」


「義経の軍師をしていた男です。卑怯な手は得意かと」


「とんでもない寺を建てたものだ。一万人は優に入る大きさだ。どうする平三」


「まずは堀と土塀を超える用意をいたします」


幕府軍は攻撃をいったん止めて白河本願寺を兵で囲むと城攻めの梯子作りを始めた。だが、頼朝は翌朝にさらに驚かくことになる。


「公方様! と、砦が!」


「平三、何事か?」


景時が指さす方向を見て頼朝は驚愕した。

幕府軍の背後の山の頂上に砦が現れたのである。しかも一つの山だけではない。数えると十を超えていた。


「い、一夜にして砦が現れました。相当な人手が無ければあのようなことはできませぬ。恐らく寺の外にも大軍が隠れております。優介は奥州の全軍をここに集めたかもしれませぬ」


「他の守りは捨てて、余の首を取りに来たか」


「公方様が討たれれば他の軍も引き上げます。軍勢の差を考えて賭博に出たのではないかと」


「ふふふ。ならば、逆に利用すれば良い。奥州全軍を釘づけにして、友軍からの吉報を待とうではないか」


幕府軍は一里後退すると、防御柵を作って長期戦の構えを取った。御家人からは戦わせて欲しいと嘆願してくる者もいたが、頼朝は出撃を厳しく抑えた。


――――――――――――――――――――


五日過ぎたとき、景時が頼朝に言った。


「おかしい。敵に動きが見えませぬ」


「我らに手が出せぬだけだろう」


「だとしても、敵から焦りが感じられませぬ。優介も時が過ぎれば平泉が危ういのはわかるはず。奇襲や夜襲を仕掛けてきても良さそうなものですが……」


「優介が焦ってないとしたら――」


頼朝は急に胸騒ぎを覚えた。



「東海道軍より伝令!」


母衣をつけた騎馬がやってくると、武士が飛び降りた。

頼朝と景時は顔を見合わせる。


「奥州軍の攻撃を受けお味方は敗北! 敵将は――み、源義経!」


予想をしていなかった報告に頼朝は言葉を失った。

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