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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
7.合戦前夜編
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1188年8月 貧民窟

平安京郊外


河原の貧民窟を絹の狩衣を着てで歩いた大納言は九条良経が初めてだろう。キララに誘われなければ、摂関家の人間が足を運ぶことは一生無い場所だ。とまどう良経にキララが言う。


「川とは違う水音が聞こえるでしょ」


奥へ進むとボロをまとった男たちが紙漉きをしていた。


「あなたの書を売ったお金で紙造りを始めたの。竹を原料にした安物だけどね。あなたは決して無力じゃない。貧しい人の役に立っている。そのことを伝えたかった」


「――僕を元気づけるために連れてきたんだね」


「感謝しているわ。紙があれば文字も学べる。そうすれば、貧民も仕事にもありつけるでしょ」


「君は本当に凄いな。尊敬するよ」


「やめてよ、照れるじゃん。お兄ちゃんの真似をしただけ。次はシショーの真似事をするつもりよ」


「宗教の開祖になるつもりかい?」


「違う、違う。シショーは念仏を唱えれば極楽浄土へ行けるって広めてるでしょ。あたしは愛と平和を歌えば、この世でも幸せになれるって広めるの」


「――それが、君の戦の止め方なんだね」


「素敵でしょ?」



それから、キララは貧民窟を紹介してまわった。悪臭がする場所も良経は貴公子らしく微笑をたやさずに付き合っていたが、臓物の鍋を食べたときだけは顔をしかめた。


「途中で逃げ出すかと思ったけど、根性あるわね」


「もしかして僕を試したのかい」


「ううん。知って欲しかったの。さっき、あたしが学校をサボってたって言ってたじゃん。でも本当はみんなに無視されて辛かったから行かなくなったの。ここにいる人たちも同じ。社会から無視され、避けられている。お願い。あなただけでもいい。弱者から目を逸らさないで……」


キララの頬に一筋の涙が流れる。


「僕は絶対に無視をしない。その涙に誓おう」


――――――――――――――――――――


キララたちから少し離れた場所に静御前と藤原定家がいた。


「ねえ、定家。あの二人どう思う?」


「何がだ?」


「慕情が見えるかってこと。あなた感性が豊かなんでしょ」


「聞かずとも見ればわかるだろ。大納言はキララに惹かれてる」


「やっぱりね! 由々しきことだわ!」


「キララは偽朝の左大臣の妹だ。結ばれることはない」


「そ、そうよね」


だからこそ燃える恋もあるが――定家は心の中でつぶやいた。


「さっきから機嫌が悪いが、嫌な思い出でもあるのか?」


「別に。ここで育って、親に一升の酒で売られただけよ」


――――――――――――――――――――

平安京郊外・六波羅


数日後、路上でキララが歌っていると、北条時政が跳ねるようにやってきた。


「伊豆からの使者が妻の妊娠を伝えに来た。いや、めでたい。めでたい。おぬしも祝杯に付き合え」


京都守護館の一室に連れてこられたキララの前に豪勢な料理が並べられた。


「さあ、遠慮せずに食え」


「祝宴にしては二人っきりなんだけど」


「あれから、おぬしの占いについて考えていた。なぜ、野心もない、わしが天下人になるのかと。だが、わかったのじゃ。わしのためではなく、生まれてくる男子のための野心じゃと。しかし、言いたくは無いが頼朝は天下人の器じゃ。その頼朝からどうやって天下が奪える? それが一向にわからぬ」


「頼朝が生きている間は無理ね。でもあなたより先に死ぬと思う」


「おお! そういうことか! ならば腑に落ちる。他にやっておいたほうが良いことはあるか?」


「占ってみるわ」


キララは琴を弾きながらニヤリと笑った。


「見える。見えるわ。奥州はあなたの味方よ。恩を売っておきなさい」


「奥州じゃと? ハッハハ、無い、無い。あれはもう滅ぶ」


「でも、全滅するわけじゃないでしょ。後に幕府に仕える武士も多いんじゃない」


「まあ、そうなるじゃろうが。恩を売るといっても何をすればいいのだ?」


キララは琴の弦を軽く弾いた。


「見える。見えるわ。征夷大将軍の任官を遅らせるの。そうすればきっと奥州の武士は感謝するわ」


―――――――――――――――――――

一週間後、平安京・静御前の屋敷


キララを前に法然が感心していた。


「虚仮の一念、岩をも通す――まさか征夷大将軍の任官を延期させるとはのう」


「褒めてないよ、シショー。虚仮ってバカっていう意味でしょ」


「ハハハ。すまぬ。キララは奇才だ。無謀から知恵を生む。いや、違うな。真心で壁を打ち破る。誠意の大将、誠意大将軍だ」


「シショー、つまんない」


静御前が法然に茶を運んできた。


「上人。褒める相手を間違っていますわ。偉いのはキララじゃなくて良経様です」


「そうだな。大納言から話は聞いておる」


九条良経は朝議で、「征夷大将軍任官を餌に奥州から多額の金を上納させ、貧民を救済すべし。奥州が従わなければ、改めて征夷大将軍を任官すればいい」と進言した。予想外の息子の反対意見に兼実は怒り会議は荒れたが、法皇は良経の意見を採った。ただし、京都守護が強硬に反対したときは、再度、朝議を行う、という条件付きだった。


良経は緊張して北条時政との交渉に当たったが、以外にも「鎌倉と協議いたす」といって時政は抗議してこず、むしろホッとした表情だったという。



「此度の一件で、良経様は兼実様のお叱りを受けて、謹慎させられたわ。あなたが良経様をそそのかしたせいで、お会いできなくなったのよ!」


「シズカには悪いと思ってるって」


「だったら、良経様ともう会わないで!」


「――わかったわ。そうする」



恋の話には我関せずと茶を飲んでいた法然だったが、二人の話が終わるとキララに厳しい顔を向けた。


「キララよ。奥州征伐を遅らせることができたとしても一時のこと。優介が鎌倉と戦う運命は変わらぬだろう。滅ぼされずに済むだろうか」


「お兄ちゃんなら、きっと負けないわ」


「ほう。その顔、微塵も疑っておらぬ。愚僧の信心並みだ」


そう言うと、法然は嬉しそうに笑った。

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