1181年4月 舞合わせ
平安京・大寺院 宿坊
優介が宿坊で紙漉きの道具を作っているとキララが帰ってきた。優介が紙作りの勉強をしている間、キララは毎日のように敦盛と練習している。
「ねえ、聞いてよ。アッくんてば、レッスンのときにすっごいダメ出ししてくるの。ヒドくない? 私がリーダーなのにさ」
「あっちのほうが音楽センスはあるから仕方ないだろ。それと敦盛様のこと、アッくんって言うのはやめろ。平家の公達だぞ」
「年下だからいいじゃん。アッくんってば、路上パフォのときは、オドオドして実力の半分も出せないくせにさ」
「見物客は集まらないのか?」
「ううん。アッくんの笛は本物よ。実力の半分出すだけでも客が集まってくる。だから、余計にくやしいのよ。今度のフェスまでに合宿して歌とダンスを完璧に仕上げてやる!」
キララが言っているフェスとは、何組かの舞手が神楽舞を競い合う「舞合わせ」のことだ。その舞台に、キララと敦盛の出演が決まったという。教経が平家の力でねじ込んだに違いない。
「頑張ってバズってくれよ。奥州へ帰るためにな」
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平安京郊外のとある神社
一カ月後、大きな神社の祭礼で「舞合わせ」が始まった。境内には不安な政情をひとときでも忘れたいと思う、多くの民衆で賑わっていた。
キララたちの出番が来た。上は白の水干に下は緋袴という巫女姿だ。驚くことにふっくらしていた顔が、引き締まって痩せていた。相当、練習したに違いない。踊りもこの時代に合わせてきている。
「まだ、敦盛様の笛は緊張しているな」
それでも美男美女がやっているので、観客もそれなりに楽しんでいるようだった。初舞台でこの出来なら十分だ。しかし、キララは不満らしく、顔がみるみる険しくなっていくのがわかった。
「これじゃあ、バズれない! アッくん、曲を変えて、ロックでいくわ!」
「ダメだよ。あの曲は観衆には理解できない」
「アッくんが実力を出せないからしょうがないじゃん。やるしかないの!」
キララが小刀を取り出して敦盛につきつけると、観客がざわついた。
怯えた敦盛は何度もうなずいて、笛のリズムが激しくさせた。舞台から切り裂く音がする。キララが水干の袖を引きちぎり、袴も超ミニスカート丈に切ったのだ。さらに敦盛に近づくと直垂を脱がし、上半身を裸にさせた。キララが観客に向かって叫ぶ!
「お前らあっ! 狂って騒げ――――――っ!」
観客の反応は様々だった。悪霊が取りついたのか思って怯える子供、恐怖に悲鳴をあげる女、露出の高い衣装に興奮する男女、少数だがおもしろがる人もいた。人それぞれの反応を見せたが、誰一人として舞台から目を離さなかった。
曲にも変化が出た。笛の音色に感情が乗り、明らかに良くなった。やはり、敦盛の笛は物が違う。だが、最後まで演奏することはできなかった。
「神前でなんたる振る舞い! やめさせろ!」
神社の神人たちが舞台へ上がり、キララたちを引きずりおろしたのだ。乱闘騒ぎに観客も興奮し、場が荒れに荒れた。
――次やる人、嫌だろうなあ。
案の定、裏でも揉めているのか、次の舞手はしばらく出てこなかった。
ようやく一人の白拍子が舞台に姿を現した。
その白拍子は舞始めのポーズを取るなり、ピクリとも動かない。
次第に観客の注目が集まっていく。すると、騒がしかった境内も静かになった。
白拍子が舞始める。澄んだ声が響き渡り、流れるような柔らかい動きは優雅で浮いているようだった。観客は天女でも見ているかのように、うっとりしている。キララがエンタメなら、この白拍子はアートだ。
白拍子が舞い終わると、境内は割れんばかりの歓声に包まれた。
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「よくやった。愉快、愉快。まるで戦のようだった」
顔を腫らしたキララと敦盛を見て、教経が大笑いする。
二人がふくれて言った。
「教経兄は乱闘しか見てなかったの?」
「ノリくんは歌がわかんないもんね」
「ハッハハ! でも、後に出てきた白拍子が凄いのは我でもわかったぞ」
「当たり前だよ。後白河院から日本一、神の子と絶賛された、静御前だ」
敦盛は羨望の眼差しで静御前の舞を見た。
「敦盛、やってみてどうだった」
「キララのおかげで吹っ切れたよ。ただ、最後まで吹けなかったのがくやしかった。僕の笛があんなものだと思われたくない。平家が馬鹿にされる」
「いい闘志だ。それでこそ平家の将。武芸も励めよ」
「――うん。殴られっぱなしは嫌だしね」
敦盛は腫れた頬を撫でながら笑った。




