1188年7月 ブームの秘密
平安京郊外・九条兼実の月輪山荘
キララと静御前は九条兼実に招待されライブを行っていた。
大盛り上がりの中、静御前がサングラスを放り投げるパフォーマンスをすると、宴席にいた藤原定家が立ち上がって叫んだ。
「歌泥棒! 歌を盗んだことを謝れ!」
舞台に進もうとする定家の肩を九条良経が抑える。
「大納言殿、邪魔をしないでくれ!」
「まだ舞の途中です。話すのは後でもいいでしょう」
定家は髪をかきむしりながら座った。
その後のライブ中、静御前と定家はずっと睨み合っていた。終わった直後、静御前は定家に向かっていき、定家も迎え撃つように立ち上がった。
「定家様、言っていいことと悪いことがありましてよ! わたくしは歌を盗んではおりません。舞で披露したのはキララが書いた詩ですわ!」
「違う! ここでの話ではない! 義経の館の前で歌っていた恋歌だ!」
「あれは源義経様がわたくしのために歌ったものです。そうでしょキララ?」
キララが気まずそうな顔をする。
「……いや、時系列で考えてみてよ。そのときヨッシーはもう亡くなってるって」
「じゃあ、あれは誰が詠んだの!?」
「だから、この定家が詠んだと言っておろうが!」
キララはサングラスを外すと頭を下げた。
「……シズカ、テイカー。ゴメン! お兄ちゃんの代わりに謝る」
「お前は狂巫女!!」
「嘘! わたくしのために詠んだものじゃなかったなんて……」
「ほんっとうにゴメン! あのときのお兄ちゃんはヨッシーの死を隠すのに必死だったから……」
「謝ってすむか! 優介を連れてこい!」「そうよ! 折檻よ!」
黙っていた九条兼実が立ち上がった。
「優介は遠く奥州におる。偽朝の左大臣と称してな――キララ、そなたは鎌倉から追われている身。余が見逃せば頼朝殿への余の顔が立たぬ」
「あたしを捕えるつもりなら止めておいたほうがいいよ。媚を売ってもいずれ頼朝に嫌われるわ。お兄ちゃんの予言よ」
「――なんだと? キララ、詳しく聞かせよ」
兼実が不遇のときに必ず出世すると言い切ったのは優介だけだった。その優介の予言は兼実にとって聞き捨てにできるものではなかった。
「帝の后に自分の娘を薦めてるでしょ?」
周りの公卿が騒めいた。が、兼実は動じない。
「摂関家の娘が后になることは珍しくない。誰でも当てられる」
「頼朝も娘を后に薦めたいと思っているとしたら? 対立するしかないよね~」
「ありえぬ。余は院に謀反人呼ばわりされても、鎌倉を気にかけている。頼朝殿が余を裏切るわけがなかろう。そなたは嘘をついておる。者ども、キララを捕えよ!」
「摂政のわからずや! 逃げるよ、シズカ!」
キララが静御前を見ると、手を合わせて拝む真似をしていた。
「おとなしく捕まって。わたくしと良経様の未来のために」
「ハァ!? 冗談言わないでよ!」
キララは兼実の郎党に囲まれる前に駆け出そうとしたとき、低い声が響いた。
「南無阿弥陀仏。キララよ、逃げることはない」
「シショー!」
「法然上人、口出しは止めてもらおうか」
「この娘は今、善行を行っているところです。捕えれば現世の不幸が増え、九条様の政に反することになるでしょう」
「この嘘つき娘が?」
「はい。貧民に食を与えてシズ☆キラ髪で都を歩かせ、その髪の作り方も学ばせました。人々がシズ☆キラ髪になりたいときには、貧民の店でしかできません。キララは貧民に食と職を与えたのです」
静御前は目を丸くしてキララを見る。
「わたくしの衣を売ったのはそのためだったの?」
「美容院の稼ぎで返す予定だったんだけどね」
「言ってくれれば良かったのに――」
兼実の嫡男・良経がキララをかばうように郎党の間に入った。
「鎌倉へは知らなかったと申せば済みましょう。ここで捕えれば、また鎌倉におもねったかと院のご不興を買います。そうなれば、あの件もお認めにならないかと」
「――確かにな。よかろう。二人とも顔を隠せ。余は見なかったこととする。では、宴の続きを楽しもうぞ」
キララはサングラスをすると法然のいる席に、静御前は九条良経と藤原定家の間に割り込むように座った。
「ちょっと、どいてくださるかしら」
「まだ歌泥棒の話は終わっていない。二度と私の歌を使うな」
「ホホホ。こちらから願い下げですわ。あんな歌、永遠に歌いません。あ~あ、こんな男が詠んでいるのを知っていたら、微塵も心に響きませんでしたのに」
「ああああああ! 侮辱したな! 我が歌への挑戦だ! 静御前、お前に恋歌を詠んでやる。心を動かしたら、土下座して謝れ!」
「ホホホ。よくってよ。精々、頭をひねりなさい」
静御前が定家をあしらうと良経にしな垂れかかった。
「良経様ぁ~。定家の歌を取りにお伺いしたときは、会ってくださいます?」
「ええ。朝議の無いときならいつでも」
「でも静は定家じゃなく、良経様の恋歌が欲しゅうございます」
「ハハハ。静御前は率直ですね。良かったらキララ殿も連れてきてください」
「キララも?」
「法然上人と話し込んでいて、今日は話せそうにありませんから」
良経はそう言ってキララのほうを見た。
「それでしたら、キララと席を変わりましょう。わたくしはこれからも良経様と会えますし」
静御前が立ち上がって呼びにいくと、キララが緊張した面持ちでいった。
「今、大事な話してるの、後にして!」
静御前の耳に入ってきたのは「征夷大将軍」という言葉だった。




