1188年5月 婚活
平安京・静御前の屋敷
「さっさと出ていってくれるかしら? 迷惑なんだけど」
「いいじゃん。前はお兄ちゃんが家を貸してあげたんだし。それにこの屋敷も御台様からもらった褒美で買ったんでしょ。あたしのおかげのようなもんじゃん」
「まあ、図々しい」
鎌倉から脱出したキララは静御前の屋敷に身を隠していた。
キララが皿に乗った団子に手を伸ばすと、静御前は皿をすっと引いた。
「やめて。これは今日の宴に持っていくんだから」
「毎日のように宴、宴。シズカは超絶美人なんだから、婚活なんかしなくったってイケメンと結婚できるって」
「毎日のようにゴロゴロしているあなたに言われたくないわ。それにわたくしが狙ってるのは、顔がいい男じゃなくて、地位が高い殿上人なの! おわかり?」
「あれだけヨッシーを愛していたのに、切り替え早すぎない?」
「義経様は美しき思い出として、わたくしの胸の中で永遠に生き続けているわ」
静御前は胸に手をあてると涙を浮かべた。
「――ですが、わたくしも二十歳を二つ越えました。婚期を逃すわけには参りませんわ」
「一流の男ならお兄ちゃんなんかどう? あっ、流為がいるか。ゴメンね~」
「ちょっと! わたくしが振られたみたいにしないでくれる!」
静御前は怒って出かけていった。
キララは庭へ降りるとつぶやく。
「奥州へ行きたいけど関所は通れないし……。シズカに託したお兄ちゃんへの手紙は捨てられてたし。ぶっちゃけ、ヒマすぎる~」
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夜が更けると酔った静御前が帰ってきた。
「キララ~。今帰ったぞ~。ヒック!」
「飲みすぎだって。ベロベロじゃん」
「しょうがないれしょ。あのバカ公卿が悪いのよ。気位が高い女を妾にすると苦労しそうだ、なんて言って。たかが参議のくせしてさ! 舐めんじゃないわよ! 飲まなきゃやってられないっちゅーの!」
「プライド高いのは当たってんじゃん」
「何ですってえ!」
「ゴメン、ゴメン。ほら、横になって。水を持ってくるから」
キララは静御前に水を飲ませながら、静御前の婚活が上手くいかないのは性格が原因だと思った。
「ねえ、婚活するならもっと上を狙ったほうがいいんじゃない?」
「どうやってよ~」
「ライブをするのよ! ライブ! バズれば摂関家にも呼ばれるから!」
「しばらく舞ってないよ~。音楽はどうするの~」
キララは敦盛の形見である青葉の笛を取り出した。
「アッくんに教えてもらった笛がある。だから、ライブしよう!」
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次の日からキララと静御前の稽古が始まった。
「やっぱセンスが抜群ね。どんな曲調でも全然踊れるじゃん。元々、天下一の舞って呼ばれてたんだし、すぐにバズりそう」
「それは過去の話。わたくしが世間で何と呼ばれていると思う? “天下一の舞”ではなくて“天下一のつきまとい”よ」
「キャハハ! 超ウケる。ヨッシーの館の前でしつこく歌ってたもんね」
「だ~れ~のせいだと思ってるの!」
「こ、怖いって、シズカ。良いパフォーマンスを見せれば人気も戻るって。稽古して今度のフェスにでよ! あたしもサブボーカルと笛で頑張るからさ」
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一カ月後、平安京のとある神社
神社で行われた舞の奉納祭に静御前と、幕府にバレないように男装したキララが出場した。
「なんで、なんで観客が減っていくの? パフォは完璧なのに!」
二人の舞が始まると、どんどん若者が離れていった。老人だけがウンウンとうなずきながら見ている。そこへ若者二人組がやってきた。
「おっ、空いてるな。ちょっと見て行こうか。って、ババアかよ。他へ行こうぜ」
「ハァ!? まだ二十二なんですけど!」
「やっぱ、ババアじゃねえか。おお怖い怖い。さっさと逃げよう」
「なんですって!」
「キララ、舞の途中でケンカしないで」
キララの笛が止まったので静御前がたしなめる。
「だって、ババアって言ったんだよ。ひどくない?」
「愚痴は舞が終わった後に聞くから――」
「止めよ! 止め! ジジイ相手じゃバズらない」
「……あなたのほうがひどくないかしら?」
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帰るときもキララは文句を言いづけていた
「京の男はロリコンばっかり!」
「白拍子は十代が華よ。二十歳を超えたら師匠になる人も多いわ。神前に立つ女子としては不自然に見えるのよ」
「純潔っていうやつ? 処女厨キンモ!」
「歌舞が良くても、喜ぶのは通の老人だけよ」
「やっぱ目立たなきゃダメね。シズカ、試したかったことがあるの。ついてきて」
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キララたちが来たのは鴨川の川辺だった。
「前にやろうとしたんだけど、温厚なアッくんが珍しくキレちゃって、できなかったのよ」
「嫌な予感がするわ……。その手にすくった泥は何?」
「こうするの!」
キララは泥を静御前の髪に塗り付けた。
「いやああああああああっ!!!」
静御前の悲鳴の大きさに、川辺にいた鳥が羽音を立てて逃げ散った。




