1187年4月 教経見参
奥州とある学校砦
優介が由利維平率いる僧兵によって窮地に陥ったとき、平教経が現れた。長刀を振り回し、次々と僧兵の首を刎ねている。
「平家に仇を為した僧兵め。その白頭巾を見ると虫唾が走る!」
由利維平が教経に向かって歩く。
「赤い鎧の豪傑。蝦夷の赤鬼ってのはてめえか?」
「田舎者は野暮で困る。鬼が洒落た鎧を着るか?」
教経は新調した鎧をポンポンと叩いた。
「うるせえ! 俺様の郎党を殺りやがったな!」
「あの鼠どもの飼い主か? どうりで臭う」
「てめえっ!」
由利維平が飛び掛かり、二人の斬り合いが始まった。
優介は流為の元に駆け寄り、法然を守る。
「流為、ここに来る前に蝦夷の里へ行ったんだな」
「……兄様に話した」
吉次は表立って蝦夷の兵を出せない代わりに、教経に護衛を頼んだらしい。
流為は独楽のように回りながら、僧兵を斬りつけていく。
優介は峰打ちで倒しながら叫ぶ。
「流為、殺すな!」
「……無理。守り切れない」
法然が俺の前に出る。
「流為よ。この法然を守る必要が無ければ、殺生をやめるか?」
「上人、命を粗末になさらないでください!」
「南無阿弥陀仏」
法然に僧兵が大勢で打ちかかった。
だが、次の瞬間「発っ!」という声と共に僧兵たちが吹き飛ばされた。
法然が深い呼吸をしながら、両手を前に出している。
「上人!? 何が起こったんです!?」
「この法然、真理を求めるため、比叡山の書物を読み漁った。知識をすべてこの身で試した。唐土の秘法に気功というものありけり」
「凄い! 流為、上人は自分の身を守れる。だから殺すな!」
「……わかった。半殺し」
流為は僧兵の脚を狙って斬り続けた。
優介が教経と由利の戦いを見ると五分五分だった。
――このまま僧兵を退け続ければ勝つ。問題は気力が続くかだ。
しかし、思ったより早く、僧兵がひるみはじめた。
逃げ散った民衆が戻ってきて、僧兵に投石を始めたのだ。
「「「出てけ! 出てけ! 出てけ!」」」
「由利殿、退きの合図を! このままでは我らのほうが危うい!」
僧兵の一人が教経と戦っている由利に向かって叫んだ。
「チッ、何という有様だ」
「密偵下手に、戦下手。上手なのはしくじりだけか。ハハハハ!」
「黙れ! 邪魔なんだよてめえは!」
「遊んでやる、下郎!」
大将の由利が指揮を放棄して戦い続けたため、僧兵たちは逃げることもできず、次々と倒され、民衆に取り押さえれていった。
「上人、もう安全です。流為、教経を援護するぞ」
優介がほっとしたとき、民衆のさらに奥から声がした。
「不埒者ども騒ぎをやめろ! この砦は包囲されている!」
いつの間にか民衆の輪の外をさらに囲むように兵がいた。千は下らない数だ。
民衆を割るように、騎馬が進んでくる。
「泰衡!」
「様が足りないぞ、優介。この騒ぎの元は貴様だな」
「とぼけるな! 仕掛けたのはお前だろ!」
「言っている意味がわからんなあ」
「証拠ならあそこに――」
優介が指した場所に由利の姿は無かった。教経が首を振っている。兵の中に紛れ込んだのだろう。
「さっきまでユーリが敵の頭としてここにいた!」
「貴様の言葉は信ずるに足りぬ。おい、天台宗の頭は誰だ! 出てこい!」
「――拙僧にございまする」
そう言って、手を上げたのは小太りの僧兵だった。
「違う、違うなあ、優介。言いがかりは止めろ。これは天台宗と浄土宗の争いだ。騒ぎを起こした罪は両者にある。天台の頭と法然、優介を捕えろ!」
優介と法然は後ろ手に縛られた。
「泰衡、騒ぎを起こした張本人がお前じゃなければ、誰がお前に伝えたんだ?」
泰衡は馬を降りると優介の耳元でささやいた。
「晴兵衛だ。由利だけでは失敗するかもしれんと言ってな。実に頭が切れる。貴様にはもったいない男だ。いや、もう私の家人か、ククク」
「晴兵衛の策なのか……」
「絶望しているな、優介。いい顔だ。私はずっとその顔が見たかった。父上に命乞いしようと思っても無駄だぞ。平泉に着く前に貴様の首を刎ねる。これも晴兵衛の策だ。くやしいだろう? ハーッハッハッハッ!」
勝ち誇った泰衡の高笑いが砦中に響き渡った。




