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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
6.奥州獲り編
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1187年4月 苛立ち

奥州のとある学校砦


優介が法然を連れて戻ってきてから一年。奥州全域を周り、浄土宗の布教は法然の説法の力で順調に進み、奥州百万の民は浄土宗に帰依したといっても過言ではなかった。


「説法をして回るだけで、こうも広まるとは。無人の野を行く如しだな」


「天台宗が民衆に目を向けなかったからです」


「うむ。だが、出る杭は打たれる、という言葉もある。天台宗も黙ってはおるまい。優介よ、宗徒の数に驕ってはならぬ。他宗と浄土宗の間に優劣はない。それを忘れるな」


「ご心配なく。問題は起こっておりません」


優介は法然に嘘をついた。

学校砦が次々と浄土宗の寺に変わっていくのを見た天台宗が危機感を感じ、浄土宗と天台宗の間では揉め事が起きていた。しかし、法然は奥州各地を回っているため、そのことは知らない。


「教えはまだ芽吹いたばかりだ。根付くにはまだ時がかかる。しかし、京の弟子を待たせ続けるわけにもいかぬ。半ばにして去るのは残念だが――」


「後は弟子の俺が頑張ります」


――法然上人が去った後は、俺が奥州浄土宗のトップになる。



学校砦の一室に入ると、平泉から戻ってきた安倍晴兵衛がいた。


「このところ秀衡様は毎日、ご機嫌斜めでございまする」


その原因は鎌倉だ。頼朝は奥州に対しての圧力を露骨に高めていた。まず年貢を直接、朝廷に納めさせず、鎌倉を通させるようにした。あくまで奥州は鎌倉の御家人という扱いである。次に東大寺再建の費用として三万両を要求し、秀衡が法外な要求は飲めないとして千両しか出さないと、今度は朝廷を軽んじていると法皇に訴えた。


「朝廷との離間、奥州の力の源泉である黄金を吐き出させる。鎌倉の狙いは明白ですが―――」


「戦を避けるには弁明するしか手がない。不満は相当、溜まっているだろうね」


「他にも悩みの種はございまする。嫡子・泰衡と長男・国衡の不仲です」


泰衡は次男だが正妻の子、国衡は長男だが妾の子という微妙な関係だ。それに加え、鎌倉に対して泰衡が恭順派、国衡が強硬派のため、口論が絶えないという。


晴兵衛が前に進み出て言う。


「離間の策を用いれば兄弟の溝をさらに深め、奥州を二つに割ることができまする。さすれば殿の奥州獲りも容易になるかと」


「いや、平泉に仲裁にいく。いい案がある」


「藤原家を助けてどうなさる! 奥州獲りの覚悟を忘れてしまったのですか!」


「動くのは秀衡様が亡くなった後だ。何度も言わせるな」


「その秀衡様が病いになる様子が一向に見えませぬ! 殿、もしや浄土宗の頭程度で満足なさっているのではありませぬか! 平泉に行くのなら、殿一人でどうぞ。私は忙しゅうございますゆえ」


「あーそうか。なら流為といく。仕事をサボるなよ!」


「はいはい、殿が立派な坊主になれるよう働きまする!」


――俺だって焦っているんだよ!


――――――――――――――――――――

奥州平泉・伽羅御所


優介が伽羅御所を訪ねると藤原秀衡はすぐに会ってくれた。


「ようやく軍を率いる気になったか?」


「いえ、法然上人の教えを広めることが俺の願いです」


「ふん、俗世を離れて念仏遊びか。こちらは難題が山積みだというのに気楽でいいのう。おちおち死ぬこともできぬ。わしが踏ん張らねば奥州は崩れる」


ストレスで参っているかと思いきや、秀衡は鎌倉に対して闘志を燃やしているようだった。血色のいい顔からもそれがわかる。優介が泰衡と国衡の不和を解消する策を持ってきたと言うと、すぐに興味を示した。


「不和の元である跡目相続の問題を無くします。国衡様に泰衡様の実母を娶らせ、兄弟から親子に変えてしまうのです」


「泰衡の実母とは、わしの妻ではないか! 人の道に外れておる」


――それをやったのがあなたなんだよ。


史実では秀衡は死が近づくと、自分の妻を国衡に娶らせることで、跡目問題から国衡を外した。また泰衡に対して義父とすることで、国衡の地位と権威を保証したのだった。この奇策の結果、頼朝に滅ぼされるまで二人の間で目立った争いは起こらなかった。


「他に策はありません」


「ううむ……」


――どれだけ考えても答えは同じだって。俺はあなたの頭の中のアイデアを話しているだけなんだから。


秀衡は膝を叩いた。


「よし! 優介の進言にも一理ある。もうすぐ豪族たちを集めて花見の宴を行う。そのときに皆の前で話してくれぬか」


「俺がですか!?」


――一族の非難を俺に被せる気か。汚いじいさんだ。だけど、史実通りに進めるためにはしょうがない。未来のズレはできるだけ少なくしないと。そうすれば、秀衡の死も年末に訪れるはずだ……たぶん。


優介は承知すると伽羅御所を出た。


――――――――――――――――――――


伽羅御所からの帰り道、流為が囁いてきた。


「……侍女が泰衡の館へ走った。たぶん、物見」


「構わない。いずれわかる話だ。また泰衡には恨まれそうだけどね。それより、よく殺さず我慢した」


「……えらい?」


「ああ、えらい、えらい」


流為の頭を撫でると、流為はうれしそうに微笑んだ。



「……あれ、晴兵衛」


「おかしいな、平泉には来ないと言ってたのに。後をつけよう」


「……なぜ? 呼べばいいだけ」


「ちょっとケンカしたからね。今は気まずい」


身を隠しながら後をつけていくと、晴兵衛は大きな館に入っていった。


「……ここ」


「ああ。藤原泰衡の館だ」

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