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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
4.源平合戦編
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1185年3月 屋島の戦い・後

讃岐国屋島


平家の猛攻が止んだ後、一艘の小舟が岸に近づいてきた。船には美女と老武者が乗っている。船が止まると扇をつけた的を美女が立てた。だが、史実で的を射るはずの那須与一は優介が叱ったことでこの場にはいなかった。


「だからー、あたしにやらせてってば!」


「ダメだ、ダメだ! 那須与一は弓の名手なんだぞ。キララに当てられるわけがない! 恥をかくだけだ」


「嫌だ! こんなバズるチャンスめったにないもん!」


キララは海に向かって叫んだ。


「扇の的、この源雲母(キララ)が射抜いてみせる!」


「おい、バカ!」


大将自らの名乗りに、敵も味方も大いに沸いた。

弁慶が優介の肩を掴むと首を振る。


「ここで止めたら、平家に臆したかと侮られる。源氏の恥になるぞ」


「あああ! もう! 弁慶、泳ぎの上手い馬を二頭用意してくれ」


―――――――――――――――――――


優介とキララは馬に乗ると海へ入っていった。馬がどんどん泳いでいく。


「……ねえ、お兄ちゃん、どこまで進むの?」


「キララが当てられる場所までだ」


扇の的がある船に乗っている老武者が叫ぶ。


「コラ。近づきすぎじゃろ!」


「どこから狙おうがこちらの勝手だ。静かにしろ。キララが構えている」


両軍の武士が固唾をのんで見守る中、キララが扇に向かって矢を放った――が、惜しくも扇の上を飛んでいった。


「ざまあないわ!」


老武者が言うと、平家の軍船からドッと笑い声が聞こえた。


「お兄ちゃん、どうしよう……」


「まだだ」


優介は大きく息を吸い込むと、笑い声を吹き飛ばすような大声で言った。


「はい! 稽古終わりー! さあ、次が本番だ!」


「終わっただろ!」「汚いぞ!」「勝負を穢す気か!」



平家の軍船から罵声が飛んできたが、優介は無視して馬を前に泳がせる。


「オイ! 近づくなといってるじゃろう!」


「おかしいなあ、潮の流れが強いせいかなあ」


「……お兄ちゃん、ほとんど目の前だよ。こんなの恥ずかしいよー」


「外したキララが悪い。さあ、ここから射るんだ」


キララが再び矢を放つ。今度の矢は扇を弾いた。扇は空をひらひらと舞い、夕日が映る海面に落ちた。優介が叫ぶ。


「ござんなれ! 平家!」


しかし、源平両軍には白けた空気が漂っていた。

優介は振り向いて両手を上下させる。


「弁慶! 煽れ!」


弁慶が「ほら、者ども!」叫ぶと、御家人たちがわざとらしい歓声をあげた。


「ふざけんな!」「卑怯者!」「子供の的当てじゃないぞ!」「義経はいつも汚い!」


平家軍が怒気に包まれる。


「キララ、急いで逃げるぞ。良かったなー、バズって」


「思ってたのと違うーーー!」


――――――――――――――――――――


その後も水際の攻防が続いたが、鎌倉軍の本隊が近づいていることを知ると、平家は撤退していった。


「……今度こそ寝ていいの?」


「ああ、安心して眠っていい」


優介は近くの寺に行った。馬を奉納し死者を弔ってもらうためだ。

道中、御家人たちが所かまわず、討ち死にしたかのような格好で眠っている。


弁慶が優介を探して寺に来た。


「ここにいたのか優介。佐藤継信の墓と隣は――」


「教経の郎党・菊王丸の墓だ。他の死者もこの寺で弔ってもらった」


「源平まとめてか。あの世でも喧嘩しそうだのう」



弁慶が優介の顔を見て言う。


「大勝したのに、そう辛気臭い顔をするな。義経様顔負けの奇襲だった」


「もっと死者を減らせたかもしれない」


――佐藤次信と菊王丸が死ぬことは平家物語で知っていた。きっと止められる方法があったはずだ。


「おいおい、我らは平家を討ちに来ているのだぞ」


「俺は違う。救いたい」


「無用な慈悲だ。よく聞け、優介。ここまで抵抗した平家が源氏に降ると思うか? 降るくらいなら死んだ方がマシだと思っているはずだ。おぬしの言っていることは覚悟への侮辱だ」


「だが、いっときの屈辱より生きのびるほうが――」


「敦盛の最期は不幸だったか?」


弁慶の問いに優介は何も答えられなかった。


―――――――――――――――――――――


鎌倉軍本隊が来た後、四国から平家勢力はすべて追い出された。北九州は源範頼の大軍がすでに支配しており、平家に残された土地は長門国の先にある彦島だけになった。


もう平家は大きな海賊のようなものだった。仮に壇ノ浦で平家が勝ったとしても陸上兵力が無ければ、領土は増やせない。


院や鎌倉からは平家に対し、安徳帝の身柄と三種の神器を返還すれば、平家人の助命も考えるといった使者が何度も送られたが、平家は院を信用できないとして撥ねつけた。鎌倉軍は交渉が決裂すると、軍船を整え、最終決戦の準備を始めた。


そんな中、吉次に頼んでいた鉄船「岩手丸」が鎌倉軍の臨検に引っかかった。


「キララ、俺が臨検すると命令してくれ。御家人には見せたくない」



優介は鉄船に乗りこんで調べた後、近くの船にいるキララと弁慶に言った。


「宝物しかありません。平家とは最後まで欲深いやつらだ。キララ様、通してやってもよいでしょう。どうせ平家を滅ぼした後には、源氏の物になります」


「わかった。通過を許す」


「俺も見張り役として彦島まで同行します」


「え!? なんで!」「何を考えている。優介!」


「弁慶! すべての人間が死を覚悟しているわけじゃない。弁慶、何かあったらこの中を見ろ!」


優介は弁慶に袋を投げると、岩手丸の船頭に彦島に向かうよう命令した。

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