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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
4.源平合戦編
34/143

1184年5月 静御前の条件

平安京・源義経邸


優介は部屋の燭台を少なくし、キララに猫の仮面を被せる。


「よし、この暗さならわからないだろう。弁慶、静御前を案内してくれ。キララは俺の言う通りに話せばいい」



静御前は部屋に入ってくるなり、キララに抱き着こうとした。


「ちょ、ちょっと! 離れて、離れて!」


優介が慌てて間に入る。


――危ない、危ない。静御前は情熱的な女性らしい。


「義経様が都入りされてから、半年近くお待ちしたのです。胸に身を預けるぐらい良いではありませんか。ねえ、義経様も同じ気持ちでしょう」


静御前は歌札を誇らしげに見せてきた。

義経が平教経から静御前を救い出したときに渡した恋歌だ。


優介はキララの耳元でセリフを指示する。ささやき女将作戦だ。


「僕は流行り病に罹っている。静にうつしたくはない。一年経てば完全に病も癒える。それまで離れて住まないか」


「やっとお会いできたのに!? 病など気にしませんわ!!」


「一年だけだ。それまでは手紙を送り合おう。会わないのは愛している証だと思ってほしい」


「そんな……。ねえ、あなた! さっきから義経様に囁いているあなたのことよ。義経様はご自身の言葉で話されてないご様子。余計なことを吹き込むのをやめてもらえないかしら」


「ち、違う。義経様の意志だ。聞き入れないなら義経様に会わせないからな」


「まあ偉そうに。まるで虎の威を借る狐ね。義経様、静は言うことを聞きます。ただし、手紙じゃなく、義経様の恋歌をたくさんください。それなら静は耐えられます。それと――」


静御前は優介を睨んだ。


「この男は義経様の郎党としてふさわしくありませんわ。奸臣です」


「おい!」


「話は終わりよ、奸臣。恋歌を持ってこなければ、義経様をお恨みする歌を京中で歌いあげますからね」


――――――――――――――――――――


静御前がいなくなっても、優介は怒っていた。


「なんで俺が奸臣呼ばわりされなきゃいけないんだ!」


「しょうがないよ。女子にとって恋を邪魔する人は敵だもん」


「殿、いっそ静御前を振ってしまっては? 憂いが無くなりまする」


――別れたら歴史に影響が出るかもしれないんだよ。


優介は何も書いていない歌札を晴兵衛に向かって投げた。


「晴兵衛、恋歌を考えろ」


「殿に丸投げされた仕事が忙しゅうございまする」


「じゃあ、キララ!」


「あたし、女の子好きじゃないし」


「なら、弁慶……は、無理そうだな。もういい! 俺が書けばいいんだろ!」


―――――――――――――――――――――――

数日後、優介の部屋は紙屑だらけになっていた。


「恋歌できたー? あーあ、こんなに散らかして」


紙屑の一つをキララが手に取る。


「ぷっ! 好きってフレーズばっかり。小学生みたい」


「しょうがないだろ! 俺はラブレターも短歌も書いたことが無いんだ」


――あきらめて振ってくるしかないのか。歴史がズレないか不安だが……。


「ダメ元でテイカーに頼んでみれば? 九条様のお屋敷で新古今和歌集を歌ったときにいた――」


藤原定家(ふじわらのていか)のことか。確かに才能は申し分ないな」


「プライド高いから難しそうだけどね」


「恋歌を詠む地獄から解放されるなら、いくらでも策を考えるさ」


優介とキララが話している間、流為が紙屑を何個も拡げていた。


「……もらっていい?」


「失敗作を? 流為も笑うつもりだろ」


「……違う。素朴で好き」


「そ、そうか。見たか、キララ! わかる人には俺の歌の良さがわかるんだ」


「そういう意味じゃないと思うんだけどなー」


――――――――――――――――――――

平安京・藤原定家邸


藤原定家の屋敷の前にキララと立つ。官位は低いので屋敷というより家だ。門番もいない。あれから三年。藤原定家は初の作品集「堀河院題百首」が著名な歌人たちから賞賛を受け、将来を嘱望されていた。


優介が義経の郎党になったいうと、定家は髪の毛をかき乱しながら怒った。


「陸奥守から義経に乗り換えたのか? 少しは見込んでいたが、文化より戦か? 不純だ! 不純! 何をしにきた。帰れ! 気が散る!」


(全然大人になっていね、テイカー)


(大丈夫だ。定家の性格は記録に残っている。キララといっしょだ)


「去年出した歌集を知り合いの公家に見せてもらった。実に良かった。幻想の世界に遊び、華麗であり妖艶。言葉の一つ一つが究極の美を目指している」


「そう思うか!」


「当然だ。俺は定家を古今無双。いや、未来でさえも超える歌人はいないと思っている。中でも優れているのは恋歌だと思う」


「わかってくれるか! やはり、優介は歌の本質を知っている!」


(めっちゃ喜んでる。あたしの性格がおだてに弱いってこと? フクザツー)


(承認欲求が異常なほど強いってことさ。本物の天才だからなおさらだ)


――俺の言っていることはただのヨイショじゃない。後世の評価なので的を得ているはずだ。もちろん、俺には歌の良さなどわからない。もし定家が俺の恋歌を見たら、才能の無さを罵倒されるだろう。


定家の機嫌が直ったので、優介は考えてきた策を決行した。


「そこでだ。恋歌だけの歌集を出さないか」

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