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鎌倉時代でバズりたい!!  作者: キムラ ナオト
3.英雄義経編
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1183年10月 寿永二年十月宣旨

優介が奥州へ戻ってきた後、時局に大きな変化が起こった。

木曽義仲が嫡子・義高を源頼朝に人質に送ることで源氏の二大勢力の間で和議が結ばれた。これにより、東国での源氏同士の争いは収まり、舞台は北陸へと移る。平家による北陸奪還と上洛を目指す義仲の戦いが始まろうとしていた――。


一方、優介はというと作物が良く採れる地域に行き、育成方法や品種について取材をしていた。


「殿、日本中で戦をしているのに、こんな呑気で良いのでございまするか?」


「晴兵衛、これも一種の国防だよ――これを印刷所に回してくれ、奥州中が良い知識を身に付けて文明を発展させれば、他国の尊敬を生む。そういう国は敵も攻めるのに躊躇する」


「昔、劉表という漢帝国の大名が似たことを言って戦を避けておりました。その結末は――」


「劉表が保護したのは文明じゃなくて儒教だ。そして曹操は儒教に重きを置いていなかった。っていうか、俺を劉表だと思っているの? ディスってない?」


「あっ! そういえば仕事が溜まっておりました。これにて失礼いたしまする」


晴兵衛がいそいそと去ると、流為(ルイ)が待ちきれないように言った。


「……太刀の稽古」


「えー、昨日もやったからいいだろ」


「……優介は弱い。小鹿」


優介が京で危ない目にあったと聞いた流為は、自分が付いていかなかったせいだと言って泣いた。それからは、優介を稽古に引きずり出し武術を教えている。優介も流為の気持ちがわかるだけに、暇を見て稽古を受けるようにした。ただ、稽古終わりには疲労で腕や脚が震えて、流為の言う通り生まれたての小鹿状態になる。


「ハァハァ……。しごきすぎじゃないか?」


「……力の使い方が違う。優介は頭は賢いけど、身体は賢くない」


「そういうもんかね……」


へたり込んでいる優介の元へキララが走ってくる。その手には手紙を握っていた。


「お兄ちゃーん! 藤原家が新田開発を本気でやるんだって!」


「吉次さんがやってくれたか!」


優介は金山を含む全鉱山の採掘を一時停止し、鉱夫たちを新田開発に転用するよう秀衡に進言していたが、なかなか認められなかった。それで説得工作を吉次に頼んでいたのだった。


「これで次の一手が打てる」


―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――

秋、摂津国・瀬戸内海沖


優介は宮城丸の甲板にいた。後ろには新造の鉄船が三隻続いている。「山形丸」「青森丸」「秋田丸」だ。搭載しているのは大量の米だ。この五カ月で情勢は大きく変化していた。北陸で平家が大敗。平安京からの平家都落ち。そして木曽義仲の入京。


大輪田泊が見えてきたとき吉次が言った。側には流為、キララがいる。


「東国の年貢は源頼朝が抑え、西国の年貢も都落ちした平家が抑えた。そして京には飢えた木曽の狼が民の米を奪っている。昨年、優介の策を聞いたときは半信半疑でしたが、今の朝廷なら交渉に乗るかもしれません」


優介は大きくうなずく。


「ただし、失敗すれば鉄船造りで貸した金を体で払ってもらいます。妹婿になり、私の配下として一生働く。もし逃げたら――」


「流為が俺を殺す、でしょ。流為にそんなことはさせませんよ」


――――――――――――――――――――


平安京に入った優介は九条兼実の屋敷に向かった。


「ああー、不安だー。不安でございます。本気で九条様にそんな要求をするのですか。きっと激怒なさいまするぞ―――流為、殿を殺さないでくれー」


「うるさいぞ、晴兵衛」


「いったいどうやって説き伏せるおつもりですか」


「まあ、見てなよ」


「先ほどから見ておりまする。何も考えてないようなボーッとしたお顔で……」


「晴兵衛!」


優介は怒ったものの、何も考えてないのは当たっていた。


―――――――――――――――――――――

平安京・九条兼実邸


「久しいな、優介。良き話があると聞いたが?」


庭で待っていると兼実が現れた。吉次が定期的に貢物を送っているので対応も穏やかだ。しかし、優介の提案を聞くと、兼実の顔色が変わった。


「年貢を納める代わりに、奥州の領土を秀衡のものと認めろだと! 腹立たし! 腹立たし! そんな話を法皇に持ってゆけるか!」


「あわわわ。やっぱりお怒りになられたではありませぬか」


「九条様は心ではそう思っていません」


「――なんだと?」


「いきなり、そんな話をしたら法皇もお怒りになるでしょう。でも、すでに似た話を持ち掛けた男がいるはず。そして法皇は怒りを爆発させたが、相手の粘り強い説得により、今は現実的な判断をなされようとしている。違いますか?」


「……頼朝の動きを知っているのか」


「奥州の希望も鎌倉と同じ、説得の言葉もまた鎌倉と同じ。さらに奥州は年貢を鎌倉よりも一割増でお納めいたします」



『寿永二年十月宣旨』という史実がある。

源平の争乱が始まると、東国からの年貢は止まり、東国にある貴族の荘園も地方豪族によって奪われた。源頼朝は院に対し、年貢納入の再開と貴族の荘園の返還を条件に、東海道、東山道の行政権を認めさせた。鎌倉幕府成立への第一歩である。



「奥州は鎌倉の背後におります。いざというときには法皇のお役に立てる。そうお伝えください」


九条兼実は黙った後、「追って沙汰をする」と言って中へ消えた。


「殿も意地が悪い。鎌倉の動きを知っておられたとは」


「晴兵衛が勝手に心配してただけだろ。俺の知略を見たか」


「……鎌倉に便乗しただけではございませぬか」


「なんだって?」


「い、いえ、張良・孔明の如し知略でございまする。しかし、上手くいきますか? 鎌倉は木曽義仲や平家と戦える大国です。奥州の力では――」


「それほどの脅威じゃない。だからこそ、法皇も安心するのさ」


後白河法皇は政治好き、謀略好きな御方だ。平家は討ちたいが、源氏の勢力が拡大するのを決して望んでいない。牽制のためにも奥州を自分の駒として持っておきたいはずだ。



数日後、優介の読み通り、源頼朝と藤原秀衡へ同じ内容の院宣が下った。

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