1182年5月 提案
奥州・学校砦 九十五番校
シャベルが普及した効果で、農民は田植え時期が終わった後も、自分の収入を増やすため開墾に励むようになった。奥州の民は肉食に抵抗が無いため養鶏も少しずつ広がってきている。優介の奥州改革は順調に進んでいた。
安倍晴兵衛は地図を見ながら、筆を舐める。
「この砦と砦を線でつなげば、うーん」
「まだできないのか? 百カ所も砦があるんだ。それっぽい図形になるだろ?」
「適当すぎまする。後付けで陰陽の意味をつけろなどと。罰が当たりまするぞ」
残っている三千の俘虜を解放するためにも、秀衡に成果を示さねばならなかった。
そのために学校砦の配置は結界を張るためだというプレゼンをしようと、晴兵衛に考えさせていた。オカルトでよくあるやつだ。俺の場合は完全に嘘だけど。
「急がないといけないんだよ。釜石の俘虜の労働が過酷になっている。泰衡が武器の増産を命じているんだ」
「では、武器商船が海賊に襲われたという噂は――」
「本当だろうね。今までは通行料さえ払えば問題なかったが、源平の混乱に乗じて、海賊も好き勝手やっているらしい。俺としては死の商人がやられて、ざまあって思いたいとこだけど、俘虜にしわ寄せが行くのなら、見過ごすわけにはいかない」
「そんなことまで殿が気になさる必要はございますまい。京にいたら餓死していた連中ですぞ。食い繋げているだけで儲けものではありませぬか」
「だからといって、強制労働をさせていい理由にはなんないよ」
キララがポスターをヒラヒラさせながらやってきた。
「お兄ちゃん、ポスター配り終えたよー。余ったのはどうする?」
シャベルを持った秀衡が笑っている絵が揺れている。以前は俺が版画を描いていたが、もっとイケメンに描けと言われたので、解放した俘虜の中から絵が上手いものを見つけて任せていた。
「私もポスターにしてよ」
「ダーメ。無駄遣いはできない。質の悪い紙でも労力はかかってるんだ」
「あたしをバズらせてくれるって言ったじゃん。それなのにお兄ちゃんばっかバズってさ! ありえないんだけど! ちょっと出てくる!」
「おい、キララ! ったく誰に似たんだか」
「面倒くさい御性格はウリ二つかも――」
「何か言ったか、晴兵衛!」
「いえいえ! えーと、この点を結べば、五芒星に見える気が……」
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奥州平泉・伽羅御所
優介は提案書を抱えて秀衡に会いにいった。
砦同士を線でつなぎ合わせた地図を見せる。
「五芒星には敵だけではなく魑魅魍魎をしりぞける力があります」
「結界のう……。効果があるのか?」
「父上。こんなものはまやかしです!」
同席していた泰衡が大声を出す。
「泰衡様の館も守るようにしていましたが、結界から外しますか?」
「い、いや。それはその……」
オカルトとは信じていなくても、気になるもの。ましてや、昔の人は迷信深い。
「では泰衡も賛成だな。結界のことをポスターに描け。俘虜五百人を解放しよう」
「父上、これ以上、俘虜がいなくなると、鉄の採掘と武器造りが滞ります」
「海賊をなんとかせねば、作ってもまた奪われるだけだ」
「武器を海賊に分けあたえることで、通してもらおうと思います」
「盗人の力を大にしてどうする。益々、交易がやりづらくなる」
「では、水軍を増やして海賊を討ちます」
「ならぬ。源平の戦に乗じて儲けるのが狙いなのに、戦に金をかけてどうする? 本末転倒だ」
「では、航路を――」
優介をほったらかして、秀衡と泰衡が揉め始めた。
――せっかく、いろいろと提案しにきたのに勘弁してくれよ。帰ろうかな。いや、俘虜を見捨てるわけにはいかない。何かアイデアはないか。
優介は持ってきた提案書の束を見直す。
「あっ、いいのがあった!」
秀衡と泰衡が俺の方を向く。
「これなんか、どうです?」
優介は紙を秀衡に渡した。泰衡が横からのぞき込む。
「不殺の艦隊。殺さずとは相変わらずだのう。詳しく申せ」
「鉄板をまとった巨大な船です。船べりが高いので敵が登りづらく、甲板や楼閣も鉄で覆われているため、火矢も退けます。これならば、海賊に囲まれても強行突破できます」
「利に合わぬな。足は遅くなるし、造るのに相当、金がかかりそうだ」
「これから源平の合戦は激しくなります。危険な場所との交易のための船は必要です。この船があれば、泰衡様の武器も大量に運ぶことができます」
「フン、その手には乗らんぞ、優介。鉄の巨船の手柄で俘虜を解放されたら、私は武器を作れなくなるではないか」
「解放した俘虜をそのまま雇えばいいのです。今より待遇を良くしても、海賊に奪われる損失を考えたら、得だとは思えませんか?」
泰衡が黙りこんだ。頭の中で損得を計算しているのだろう。
「……鉄船を見てから決める」
「わしも反対はせぬ」
「ありがとうございます! 難しい船作りです。奥州中から腕のいい船大工を集めてください」
「賛成もせぬ。できるかどうかもわからぬ船に金は出さぬ。そなたの力で作れ」
「えーーーっ!」
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奥州平泉・優介邸
「「えーーーーっ!」」
自邸に戻って自力で鉄船を造ると告げると、キララと晴兵衛が驚いた。
「船大工と金をどうなされるおつもりですか?」
「今から考えるんだよ! お前らもいっしょにな」
「「えーーーーっ」」
こうして優介たちの鉄船造りが始まった。




